8. サバトンのテイマーギルド
ゴブリンの掃討には日が傾くまでかかり、更に死体を処理するには日が赤く染まるまで時間がかかった。
それでもゴブリンたちを討ち漏らすことなく処理することができたのだ。
上々の戦果だろう。
ゴブリンたちは性欲のはけ口とするためなのかヒト族の女性を何人か捕まえていた。
彼女たちを救出できたのも大きい。
ただ、ゴブリンのおもちゃにされたという事実は変わらず、それと向き合って生きていかなければいけないのは変わらないのだが。
ゴブリンに捕まっていた女性たちを助け、彼女たちの護衛をしながらサバトンの街まで戻る。
既に日は暮れ閉門時間を過ぎていたのだが、冒険者ギルドで話を通してくれていたようで門を開けてくれた。
冒険者たちはこのまま冒険者ギルドまで報告に行くらしいので、ボクは冒険者たちにゴブリンのリーダーが持っていた笛を預ける。
戦利品として懐に入れても構わないのだろうけど、ボクが持っていても使い道がないからね。
かかっていた魔法も調べてあるし無用の長物だ。
ボクは冒険者たちとは分かれて別の場所に報告へ行く。
ボクの職業は冒険者ではなくテイマーだ。
それならば向かう先はテイマーギルドである。
テイマーギルドも街の中で行き来がしやすい場所にあり、昔のように変わり者が集まるギルドという扱いはされていないようだ。
あの頃はテイマーに対する理解もされていなかったからな。
凶暴なモンスターを手懐けているだけの職業だと思われがちだった。
本物のテイマーはそれだけでは済まないのに。
ボクはテイマーギルドの門を開ける。
テイマーギルドの中はそれなりの人たちがいた。
彼らは全員テイマーなのだろうか?
そうだとしたら、テイマーもなかなか有名になったじゃない。
「あら、アイオライト様。ゴブリンの件は終わったのですか?」
「……うん? あなたと会ったことはあったっけ?」
話しかけてきたのは年老いた人間族の女性だった。
このような女性とこの街であった記憶はないのだけど、忘れてしまったかな?
「ああ、覚えてなくても当然ですよ。あなたが私と会ったのは、あなたが前にこの街を訪れたときなのですから」
「この前。そうなると50年くらい前か。懐かしいな」
「はい。あの時も街を救っていただきありがとうございました」
「そっか、あの時はサイクロプスを倒してその眼球を手に入れるために来たんだった。この街へは準備のために訪れたんだけど、街にサイクロプスが襲いかかっていてちょっと驚いたよ」
「そうですね。まさに危機一髪でした」
本当に懐かしいな。
あの時は急ぐ旅でもなかったから、かなりゆっくりとしたペースでこの街へ向かっていたんだった。
あと一日付くのが遅かったら街自体がなくなっていたかもしれないと思うとちょっと感慨深い。
「それで、本日はどのようなご用件でしょう?」
「そうだった。後追いの形になるけど冒険者ギルドからボク宛ての依頼は届いているかい?」
「アイオライト様宛ての依頼ですね。受付で確認いたしましょう」
「お願いするよ。……ところで、君は誰かな?」
「申し遅れました。当ギルドのギルドマスターでボリビエと申します」
「わかった。ボクの名前は知っているようだけどアイオライト。よろしく、ボリビエ」
「はい、よろしくお願いいたします」
ボクはボリビエと名乗った老婆のあとを付いていき、依頼受け付けカウンターでボク宛ての依頼が来ていないか確認してもらう。
結果、やはり冒険者ギルドからゴブリン退治の依頼が来ていたのでそれを受けておいた。
テイマーギルドで個人宛ての依頼は珍しくもない。
テイマーは連れているモンスターによって得手不得手が分かれるため、依頼する相手もそのテイマーにあった依頼を出すものなのだ。
今回のようなモンスター退治の依頼も基本的には一般依頼として出されることはない。
先にも言ったがテイマーの連れているモンスターが戦闘向きではない場合、どんな弱いモンスター相手でも手間取ることがあるからだ。
テイマーの戦闘力はモンスターに依存することが多いために戦闘ですら向き不向きが分かれる。
僕の場合、見た目では侮られるが実際には戦闘向きだったりするけどね。
「ゴブリン退治は終わったのですよね? まだ達成の報告は来ていないのでしょうか?」
「無理なんじゃないかい? ボクが帰ってきたのだってついさっきだ。本隊はまだゴブリンが拠点にしていた広場を調べているはずだし、先に戻ることになったボクたちも戻ったばかりで冒険者ギルドが状況把握に努めているところだろう。急ぐことでもないし、今日は依頼の確認だけのつもりだったから構わないよ」
「そうでしたか。それでしたら、今回の件について少しお話しを聞かせていただけますか?」
「テイマーギルドが? 調査報告なら冒険者ギルドから回ってくるはずだよ」
「個人的にアイオライト様とお話しをしてみたいのです。いかがでしょう」
ふむ、個人的にか。
ボクもこの街がどういう風に復興してきたのか気になるし少し話を聞いてみよう。
ボクのことを50年前から知っているということは、ずっとこの街で暮らしていたはずだからね。
「いいよ。その代わり、この街についても教えてほしい」
「その程度でしたら喜んで。それでは、応接室に向かいましょう。お食事は食べていきますか?」
「食事か。そういえば昼も食べていなかったな」
「それではお食事もご一緒させていただけますか? この街の名物を取り寄せいたします」
「それは楽しみだ。よろしく頼むよ」
この街の名物か、一体どんな料理なんだろう。
街ごとに異なる名物料理を食べ歩くことも楽しみのひとつだからね。
街によっては不味いこともあるけど、それも含めて楽しみにしている。
サバトンの街はどうなんだろうな。
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