2 吉村家の事情

 12月の初め頃、圭人はおもちゃ屋の広告からほしいレゴセットの写真を切り抜き、A4のコピー用紙に貼りつけた。そしてこう書いた。


──

サンタさんへ

これをください

──


 このようなサンタへの手紙を子供部屋の扉に貼るのが吉村家の習慣であった。ところがその手紙を見て、圭人の母親・万里江まりえは目を丸くした。

(……二万円!)

 万里江は慌てて子供に問い詰めた。

「ちょっと、いくらなんでも高すぎるわよ!」

 圭人は母親をじっと見つめる。

「やっぱり、サンタさんの正体ってお母さんなの?」

「な、なんでそんなこと」

「じゃあ、お母さんが高いとかいうのはおかしいでしょ、自分で買うわけじゃないのに」

 疑わしい視線を向け続ける圭人。万里江は怯みつつも食い下がる。

「とにかく、サンタさんは信じる人のところにしか来ないの。信じなくなったらもう来てくれないわよ」


 その夜、父親の忠夫ただおが手紙を見て顔を真っ赤にした。

「おい二万円ってなんだ、なんで圭人にだめだっていわないんだ!」

「それが……サンタのこと疑いだして、いいづらくなったのよ」

「関係ねえだろ。もともとおれはサンタとかやりたくなかったんだから」

「夢をこわすようなこといわないで」

「おい、夢とか言ってる場合か? 借金で家計は火の車、これが現実だ」

 忠夫はネット販売の個人事業者だ。赤字と黒字の波が激しく、うっかりすれば借金があっという間に膨らむ。

「二万円くらいなんとかならないかしら?」

「ビジネス口座のクレジットは仕入れに必要な分でもう手一杯だ。仕入れが出来ないと商売が出来ないことくらい、考えたらわかるだろ」

「もう、だから安定した仕事についてっていったのに……」

「おい、どの口がそれをいう? 前の仕事で給料が安いってさんざん文句をいっていたのはどこのどいつだ!」

 その時子供部屋からガタッという物音がきこえた。二人は慌てて休戦したが、互いに苦々しい気持ちが胸につかえていた。

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