第五話 絶体絶命のピンチ

「さて、っと」


 ジロ。

 びくん。


 あの緑色のツンツン頭が、僕が隠れている馬車の物陰の方をジロリと見てきた。

 僕は、体がびくんと跳ね上がったようになってしまった。


 たっ、たっ、たっ。


 ど、どうしよう。

 あの緑色のツンツン頭が、僕のいる所に近づいてきた。

 僕の心臓がバクバクいって、全然落ち着かないよ。


 ざっ。


「おい、そこのガキ。隠れているのは分かっているんだ。出てこい!」


 ドキンドキンドキンドキン。

 み、見つかった。

 いや、見つかっていたのか。

 あの緑色のツンツン頭の大声を聞いた僕は、体が震えてきてしまった。

 に、逃げなきゃ。

 逃げないと、僕も殺されちゃう。


 だっ。


「はあはあはあはあ」

「ははは、追いかけっこか? 相手してやるぞ」


 僕は、何とかしようと思い切って走り出した。

 とにかく逃げなきゃと思って、僕なりの全力で走った。

 僕の背後からあの緑色のツンツン頭の声が聞こえてくるけど、今の僕にはそんな事を気にする余裕はなかった。


「はあはあはあはあ。うぐっ、はあはあはあはあ」

「頑張れー、頑張らないと捕まっちゃうぞ。あははは」


 笑い声が僕の背後から聞こえてくるけど、僕は一生懸命に走ります。

 でも、もう息が上がって胸が苦しくて、体が限界だよ。


「はあはあはあ、あっ」


 ずさー。


 い、痛い、痛いよー。

 足がもつれて転んじゃった。

 で、でも、頑張って逃げないと。


「ははは、残念だった。追いかけっこは、もう終わりだよっ、と」


 ぶおん、バシン!


「ギャン」


 ドン!


「があ!」


 僕は強烈な痛みを二回受けて、意識が朦朧としてしまった。

 一回目は右の脇腹だったけど、二回目は頭だった。


「はは、可哀想に。そんなに思いっきり蹴らなくても良かったのでは? ついでに木にも頭をぶつけてるぞ」

「ああ、蹴ったらたまたまガキがいただけだよ。木にぶつかったのもたまたまだよ」


 僕の意識が朦朧としている中、僕の周りで何かを言っている声が聞こえてきたが僕はそれどころではなかった。


 ドクン、ドクン、ドクン。


 頭の中に何かが流れてきて、心臓がやけに落ち着きながらも力強い鼓動をしていた。

 体の中からも何か熱いものが流れてきて、その熱いものが全身をくまなく駆け巡った。

 そして、熱いものが僕の右手に集まってきた。


 よろっ。


「お、何だ何だ? もう一度追いかけっこするのか? はは、もう追いかけっこは終わりだぞ」

「……」


 僕は、意識が朦朧とした状態で立ち上がった。

 目の前の男が僕に向かって何かを喋っているけど、今の僕にとってはどうでも良かった。

 僕は無意識の中で、男に向けて右手を伸ばしていた。

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