千度謳われし神話

Old Boy 老青年

プロローグ

 かつて、世界大陸は五人の賢帝たちによって治められ、平和な時代が続いていた。しかし、その平和を脅かす者が一人現れた。というイキタス王。彼はその野心を抑えることなく、新たな領土を求め、仲間たちとともに暗黒大陸へと渡った。


「おぬし、本当に海を渡るのか?海の向こうは滝になっておるぞ?」

 イキタスの父五賢帝の一人アウグスティヌスがイキタスに忠告をする。

「父上申し訳ありませんが私は海の向こうが無だとは到底思えません。」

 彼がそこまでして海の向こうへ行こうとするのには理由があった、勿論冒険心や野心がそうさせたのはあるにはあるが、もっともも大きな理由としては、皇帝の子たちの末っ子であり、受け取る領土も財産もなく父親が死んだ瞬間自身は流浪の身となってしまうからである。アウグスティヌスはそのことを知っていたため悲しい目で、「そうか、そうか…」と項垂れながら呟くばかりであった。


 イキタスは十隻ばかりの艦隊を従え、暗黒大陸へと目指した、それは壮絶な長い旅路であった、最初の三か月で大嵐が来襲した、艦隊の三分の一が海の藻屑となった、不衛生な甲板の上で多くの兵士が病気になり、艦隊の五分の二の人間が死んだ、その中にはイキタスの妻、イベリオルカもいた、そしてさらに二か月が過ぎたところで食料が尽きた、ある船では暴動が起き暴動のすえ死んだものを食べ飢えをしのいだ、イキタスは自分の妻の遺骸を船員に食べられてしまった、そして怒ったイキタスはその船員を殺し、そしてそれを食べた。そして食料が尽きて二か月がたったその時、イキタスの乗る船の船員が陸を見た。


 彼らが足を踏み入れたその地は、未知の大地に満ち、その美しい風景はかつて誰も見たことのないものだった。深緑の木々は風にそのエメラルドに光る葉を躍らせ、サファイアよりも輝く青い鳥が聞くだけで癒されるような美しい歌を奏でている。病人の病は癒え、そこに立つだけで飢えを忘れた。そして入植者の一団は植民地作りを始めた。彼は安全に世界大陸と新大陸を結ぶ航路を見つけ、王は新大陸を治めた。


 しかし、長い航海のすえ疲れ果て人格を消耗しきった王の心までを癒すことはできなかった。莫大な資産や世界大陸中から集まった美しい妃を持ったとしても、癒されない、王の欲望は彼を追い詰め、彼は環境破壊を繰り返した。木々が切り倒され、川が汚染され、大地が傷ついていく。彼らの行動が大地の守護者である古のドラゴンの怒りを招いた。


 ドラゴンは怒りに満ちた瞳で、翼を広げて空を舞った。その咆哮は地を揺るがし、彼が作り上げた村はドラゴンによって消し炭になった、イキタスは自らが引き起こした災厄に驚愕し、絶望の淵に叩き落された。そしてそのドラゴンの劫火にその身を焼かれた、そしてそこには彼の影だけが残った。しかしながらイキタスはそれだけでは終わらなかった、イキタスの影は彼のその身と良心と人間らしさを劫火で焼かれ、その憎悪が焼き切れずに残ったものだった、その闇は広がり、新大陸を覆い、イキタスの憎悪によって汚染されつくした、木々は枯れ、泉からは毒が沸き、鳥は死に、牛は骨となった、そしてその陰から無数の手がドラゴンへ伸び、包み込んだ、そしてドラゴンをも支配した、怒り狂う彼の意思と同調するかの如くドラゴンはその怒りの炎で世界大陸の九割の生物を灰へと変えた。

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