第9話 そして朝日を迎えた

「……はっ!?」


「なに飛び起きてんの?嫌な夢でも見た?」


 目が覚めると、『いつもの朝』だった。しかし、枕元を探してみると、子供用の銅剣があった。

 そして、全身が痛む。身体能力を強化する魔法の副作用だろう。


 ……ああ、わしはようやくあの日を乗り越えられたのだな。


「さいっこーじゃあ!」


 思わず喜びから叫んでしまい、舞いすら踊りそうになった。


「なに叫んでるの?なんかアンタ、昨日から変じゃない?」


 しかし、母さんの言葉で現実に引き戻された。


「いや、なんでもないぞ。して今日の朝餉は?」


「豚肉の腸詰めと、クリームスープよ。……やっぱりなんか変ね。昨日の朝から、やたらと成長して見えるというか……うーん、それも違うか」


 周回時の食事……ではないか。やはり、わしは乗り越えられたのじゃな。


「心境の変化があっただけじゃ」


 そう一言だけ返して、食事を楽しんでいく。

 これからなにしよう、何を鍛えよう、どんな本を読もうなどというこれからへの期待に胸を躍らせながら、わしは久しぶりのメニューを食べ終え、顔を洗うことにした。


「うぅむ……なんでこんな顔なのに、前世より女の子にモテるんじゃろうかのう」


 たらいに張った水の中には、わしの姿が写っていた。

 文句なしに可愛いとは思う。


 第一印象としては小生意気そうでいながらも深い知性を感じさせる紅い瞳が目につくと思う。

 いや、わしってお勉強が出来るだけで別に賢くはないから印象詐欺なのじゃがな。


 それに、年が年なので顔立ちには少女特有の幼さを残して……いや、実年齢よりも少しだけ幼く見えるかもしれないのう。

 だが、凄まじく可愛らしい顔をしていると思う。


 それと、この世界では前世の中世やこの世界の大昔ほどではないとはいえ、やはり水は貴重である。

 なのでそこまで手入れはされていないのに、髪や肌が自分でもやたらと綺麗だと感じる。


 インドア派だからかやけに色白なのはともかくとして、肌もぷにぷにのもち肌じゃし。

 あと、枝毛が一本もないのは我ながら異常だと思う。

 髪色は銀色で、わしの趣味のせいで腰まで伸びているが非常に綺麗で似合っていると思う。


 過小表現な褒め言葉になってしまうが、前世ではテレビや写真でも見たことがないレベルで可愛らしいと思う。

 実に将来が楽しみと言えよう。


 この世界ではそもそもの女の子の顔面レベルが高いのじゃが、それでも世界トップクラス。下手したら世界一可愛いかもしれないのう。


 まあ、いつまでも自画自賛していてもしょうがないのでさっさと顔を洗ってベイガル殿の家に行くかの。


 しかし、自分で自分を褒めちぎるのはさすがに気持ち悪いかもしれぬな。

 まあ、わしはスーパー美少女じゃからぁ?これくらいは許されるがのう!


 しかし、なんでこんな見た目で男だけじゃなくて女の子にもモテるんじゃろうか。

 男にモテたところで恋愛対象として見れぬゆえあまり嬉しくはない。モテる事自体は嬉しいといえば嬉しいがの。それだけ己に魅力があるということじゃし。

 だけど、恋愛対象である女の子にモテたほうが絶対に良い。とはいえ……やっぱり謎じゃ。


 前世でもそれなりにモテていた記憶はあるのじゃが……ここまでキャーキャー言われたりはしなかったからのう。

 まあ、どうでもいい話じゃな。彼女らとは付き合う気はないし。


 それより今日は賊共を倒した報酬の山分けの話をする日じゃ。


 やつらはどうにも指名手配されている国賊とか言う奴らじゃったらしく、国に突き出した者にはお金、あるいは米を渡すらしい。

 ちなみに生死不問じゃな。


「……で、こいつらの賞金はおそらく40万アル程度だと思う」


「すげぇ大金ですね。これだけあれば一生遊んで暮らせますよ」


 村長の言葉に喜色満面で返したのは、タダべー殿だった。

 なぜこんなに早く賞金額が分かったのかは知らぬが、たしかにとんでもない大金だ。


「で、俺はそのうち5分の3をアリアちゃんに渡そうと思う」


「かぁ〜!すげぇよアリアちゃん!一気に大金持ちじゃねぇか!」


「たしかにな。村にほとんど被害は出てないし、やつらは全員アリアちゃんに倒されたわけだし、妥当だな」


 思わぬ臨時収入がありそうだが、ここは断っておくことにした。


「いや、お金はいらぬぞ。アーキスの剣と、下っ端のアミュレットを一つ……いや、五つほど貰えればそれで良い」


 これに仰天したのは全員だ。

 今までのわしはとても無欲ではなかったし、本を買うためにもお金は必要なので断るとは思わなかったのじゃろう。


「だけどアリアちゃんよぉ……」


 その場にいた大人の一人の言葉を制して、言う。


「その代わり、わしの活躍を多少盛りつついろんな村で宣伝してくれぬか?特に、王都に伝わるように、の」


「それは助かるが……いや、読めてきたぜ。アリアちゃんは仕官してぇんだろ?」


「ああ、そうじゃ」


 わしの活躍を聞きつけた王やその配下が、わざわざスカウトしてくれるように活躍を喧伝してもらう……。

 そういう道筋じゃ。

 今回の件でよ〜くわかった。


 今までもわかっていたつもりだったが、本当につもりでしかなかったの。

 ……この世界では力がないとどうにもならない。


 それは単なる腕力だったり、権力だったり、いろいろな種類があるが、ともかく様々な困難に対応するためにいろんな種類の力をつけたい。


 そしてついでに、わしの名を歴史に残したい。

 歴史に燦然と輝く英雄たちのように、記されたい。


「なら、宣伝はいらねぇと思うぜ」


「……ああ、ベイガル殿は王都に伝手があるのじゃったな」


 ベイガル殿はその勇猛果敢さにより国の上層部にも好かれているが、それ以上に兵士にも好かれている。

 王都では未だに有名らしい。

 まあ、全部ベイガル殿自身が語った武勇伝からの情報だからどれくらい信用していいかはわからぬが。


「そういうこった。一応聞いておくが、武官が良いか?文官が良いか?アリアちゃんならどっちにもなれると思うぜ」


 一瞬悩んで……


「文官が良いかの。ただ、有事のときは戦場で戦えるような役職だと嬉しいぞ。それが無理なら武官で良い」


 と答えた。


「ははは、頼まれてやるよ。だが、最初はあんまり良いポストは用意してもらえねえぞ。ちゃんと活躍して成り上がるのが正攻法だ。あんまりコネも使ってほしくねぇしな。アリアちゃんならそんなものがなくてもいくらでも成り上がれるだろうしな」


 そうして、その場はお開きとなった。




 ――そしてそれから7ヶ月ほど経った。


 わしは鍛錬を続け、身体能力がだいぶ上がった。

 スキルレベルは槍術、弓術が2ずつ上がって21と18、体術が3上がって28。それと、体作りはできたと思う。


 剣術のスキルレベルが上がらないのは、わし以上の技量を持つ師匠がいなくて、なおかつ実戦経験をあれから積めてないからだろう。


 それと、なぜだかはわからないのじゃが、鍛えても鍛えても筋肉がつかないのじゃ。

 鍛えたぶんだけ身体能力は上がったし、成長したことにより身長は多少伸びたが、筋肉はつかない。


 未だにわしの体はふにふにのロリ体型だ。


 もう少し成長したいものじゃがのう。筋肉がつくのは……本音を言えば嫌じゃからこれで良かったが、もう少しないすばでーなお姉さんになりたいのじゃ。

 なんというか、のじゃロリから妖狐のお姉さんみたいな感じにクラスチェンジしたいのじゃ。

 まあ、所詮七ヶ月じゃ。肉体が成長していないわけではないし、乳も少しだけじゃが成長した。

 

 まだまだこれからじゃの。


 ともかく、今日はわしが王都へ行く日らしい。

 なんか迎えの兵士たちが来るらしいが、わしは最初からそれなりに高い立場で迎えられるようじゃ。

 

 村長の目論見は失敗したのかのう?


 バリバリ働き、権力を手にする未来を想像して……口に三日月を描いた。

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