おまけ短編

ワタシ、どこかの誰か。いま雲の上にいるの。

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※最初のお断り※ カクヨムお題「スタート」に投稿しようとして遅刻して載せれなくなりました。

 もともとこういう考えでした、とかではないので一応パラレルとします。


  アーシャミーシャを考えながら書いたのもあり、もったいないのでここに追加させてもらいます。  二人が生まれる前のおはなし。


 ――――――――――――





 ――気がつけば、子供の頃とても憧れていた雲の上だった。


 どこまでも続く蒼天。

 足元には期待通りのフワフワの綿菓子のような雲。


 服は白いワンピース1枚。

 自分の身体がとても軽くてまるで羽のよう。

 なのに、思い通りに歩きたいように歩けるし、走れる、飛べる。


 私はその状態をしばし楽しんでいたが――遠くに、市場のようなものを発見した。



 ――まあ、行くよね。


 そう思った私は、市場へむかった。



 「はーい、こちらスキル、スキル売ってるよー!!」

 「こっちはクラス!! 遊び人から悪役令嬢までなんでもそろってるよー!!」


  ……なにかしら、ここ。


 近くにいた、白い羽をはやして頭に光ったリングがついている係っぽい人が声をかけてきた。


「やあ、来たね。転生ポイントの発行はもうしました?」

「はい? なんでしょうそれ」

「ああ、はいはい。こっちへどうぞ」


 係の人に連れて行かれる。

 動物園とかのチケット売り場みたいなところに並ばされて、ポイントが表示されたカードのようなものを受け取る。


「はいー、受け取った方は、次の転生のための、あちらの市場でクラスやスキル、生まれ等、自分でカスタマイズして交換してくださーい」


 えっ。


 転生後の自分って自分でカスタマイズできるん!?


 ドキがムネムネしながら、市場に向かうと。



「はーい、本日の『ヒロイン』は売り切れでーす!!」


 売り切れあるんだ!?


 えー……。

 それを聞いた周りの私に似た格好の人たちが焦ったかのように、商店のスキルやらなんやら買い急ぐ。


「えっえっ」


 眼の前でどんどん売り切れていく。


 売り切れた店舗の係員さんに買えなかったらどうなるの?、と尋ねる。


「そりゃあんた、何も買わないでそのまま転生するか、次の市場が開くまで待つかだね」


「つ、次っていつ」


「さあ……早ければ一ヶ月以内、遅ければ数年、もっと遅ければ数十年。雲の上でぼんやり過ごすことになるね」


「暇すぎる!?」


「まあ、でも余ったポイントや待つことによってポイントを多く貯めたりすることもできるからね。いっぱいスキルを買い込むために、仙人みたいに雲の上で長い時間過ごす人もいるよ」


「へえー……」

 そんな話をしている間に、どんどん店じまいが始まっていた。


「ああ……」

 雲の上ぼんやりコースかあ。


 私は諦めて、店じまいが進んでいく市場や、おそらく転生していく――光って消えていく人たちを見ていた。


「キミ、どうしたの? さては色々買い損なったね? ふふ」

 気がつくと傍に黒髪に青い瞳の青年が立っていた。


「うん、そうなの。あなたはこれから転生するの?」

 私は苦笑した。 


「ううん。僕はまだ……ポイントを貯めるのが楽しくて」

「……どうやってポイント貯めてるの?」


「雲の下、視えるでしょ?」

 言われて初めて、雲の下を私は眺めた。


「特に何も……あ、点滅してる光がある」


「うん、その点滅してる光はね。助けてあげられる光。ほら、おいで」

「えっ」


 私は少年に青年に手を引かれて、雲の上から落ち――はしなかった。

 彼に手をひかれて、適度な速度で降り、その光のところへ飛んでいく。


 目的地に着くと、その点滅する光が、蒼い光を発している。


「この色は悲しんで、立ち直れない色」

 そう言うと、彼は自分のカードを取り出して、光にかざした。


「なにしてるの?」

「僕のポイントを少しあげたの」


 光はどんどんと、活気をとりもどし、一瞬爆発するような大きな光を発したあと、力強い光へと――成長したかのように見えた。


「ふふ、きっと何かの力に覚醒した」

「覚醒!?」

「そう、この光は現世で生きていくのに辛い状況だった。けれど、僕がポイントを融通したおかげで、閃きもしくは何かしらの能力を得る道を開いた」


「そうか、良いことしたね。……でも、君はポイント減っちゃったんじゃない?」

「ううん、これみて?」

「ポイントが追加されてる!?」

「人助けポイント。多分感謝されたんだよ。返ってこない時もあるけどね。感謝されるとポイント増えて返ってくる」

「ポイント投資!?」

 私は思わず叫んだ。

 地獄の沙汰も金次第とは言うが、最近はポイント制も導入したのかい。

 まあ、ここが地獄なのか天国なのかなんなのかは知らないけど。


「ふふ。そんなかんじ。結構時間たってから感謝されて戻ってくる場合もあるよ」


「へ、へえー。君はそれずっとやってるの?」

「うん。でもそろそろ係の人にポイント貯めすぎだから、そろそろ行きなさいって言われてる。でも何買っていいのかわからなくてね」


 市場へ戻ると、かなり店舗は減っているが、長蛇の列の店舗がまだあった。


「あれは何? 人気のスキルとか?」

「ううん、あれはくじ引きだね」

「く、くじ引き!?」


「軽めのポイントを支払って、転生するのに、だいたいワンセット揃ってるカスタマイズ商品が当たるんだ。でもね、くじ引きだから、ハズレもあるよ。もちろん大当たりもあるけどね」


「ハズレこわいなぁ」


「だよね。……でも、長い時間雲の上で過ごすのは、嫌だって人たちが並んでるんだよ。……あー。僕ひいてみようかな」


「ええ!? ハズレ引かないか心配だよ!」

「ありがとう、でもそろそろ行かなきゃいけないし、このままだとまたズルズルここで過ごして係の人に怒られちゃいそうだから」


「……そっか。色々説明してくれてありがとう」

 私はハズレ怖いから雲の上ですごそう。


「じゃあね」

 青年は去っていった。


 ――その時、アナウンスがあった。


 『えー、次の市場開催は50年後ー50年後に決定しましたー。ここで過ごす50年は結構長いですよー。何もなしで転生されるか、くじ引きされるのをオススメしまーす』


 ……うぇっ。


 どうしよう。ここは居心地がいい、と思うけれど、ここで50年も過ごすって多分相当きついんだろう、とアナウンスからも『なんとなく』の感からもわかる。


「せっかくだから、くじ引き引いてみるか」


 違う店舗から『大当たりー(カランカラン)』と聞こえた。

 なんか……転生って結構大事なことだと思うのに、ノリが軽いなこの世界……。



 ※※※※※



「悪役令嬢セット!?」

 良い家に生まれて容姿も良く頭も良いが、人生の終わりが最悪になりやすいものです、と係の人に言われた。

 苦労する分、次こっちに来た時に良いポイントつきますよ! とか胡散臭い説明された。


「はいー。おめで……いや、めでたくはないですが、おめでとうございます。ですが、人によっては喜ばれますよ。 あ、あとこれおまけのティッシュ……じゃなかった、縁(えにし)の札です。お知り合いの方と転生されたい場合、あちらの枝に一緒に結んでみてはいかがですかー。一人で転生するより心強いかもしれませんよ、あ、あはは」


「ちょっと、そろそろどいてくれない!」

 後ろの少女っぽい子に急かされて、私は雲の広場っぽいところへ行き、ベンチに座ってうなだれた。


 悪役令嬢セットの説明書を読む。

「……断罪、追放、処刑……いくらポイント高くもらえるからって嫌だ!?」

 しかし、さすが最期が不運なためか、この説明書分厚い……というかいっぱいスキルの紙みたいなのが付けられてる。

 あーあ……しかたないけど、気が乗らないけどやるしかない。

 くじの引き直しは、一度これで転生してこないとできないらしいし。


「あれ、さっきの……どうしたの?」

 先程の青年がうなだれてる私に声をかけてきた。


「くじ引きを引いたんだけど……」

 私は事情を説明した。


「そっか……。そうだ、僕のこのスキル、あげる」

「えっ」

 そう言って彼は、自分の持っている説明書についているスキル用紙から、一枚ピッと引き剥がして、私の説明書に貼り付ける。


 そこには、『大幸運』と書かれていた。


「えっ」

「『大幸運』持ってたら、きっとその最期、運命を捻じ曲げてでも、とても幸せになれるよ。もしくは相殺できるんじゃないかなって僕思うんだ」

「いや、でもこれは君の」

「僕ね、さっきのくじびきで大当たりひいたの。他にもっといいのいっぱいあるから、大丈夫」

「でも……だめだよ!」

「うーん、それじゃ。縁の札使って、傍で転生しようよ。それで、君のその幸運で僕を助けて。ほら」


「え、縁って……あ、さっき説明されたあれか……って、ちょっとー」

 私は、彼に促されて同じ枝に札を結ばされる。


「ふふ、実は僕も不安だったから、誰かと一緒に転生したいなって思ってたんだ」

「……そ、そう」

「迷惑?」

 ここにきてちょっと不安そうな顔された。

「いや、私もそれは、助かるし、心強いんだけど、君に悪くて」



「大丈夫、じゃあ、行こうか」


 彼が薄らぼんやり光始める。

 私もそのやり方は、何故か知っている。


「う、うん」


 私達はなんとなく手を繋いで、光の球となり――雲の上の更にその上へ上昇し、次の人生をスタートさせた。



 ――よろしく、お願いします!



               『終わり』

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