㉕無人島生活7日目01● 私が出歩くと毎回そういう目に合うという認識をされ始めている。


 サバイバル生活7日目の朝。

 私は初めて一人で朝を迎えた。 


 ミーシャが譲ってくれたベッドの上で伸びをする。



 ……ミーシャはちゃんと1人で眠れたかな?

 あれだけ昨日『こいつヤバイ』と思ったものの。

 この数日、彼が見せた寂しさを思い出したら少し心配にはなった。


 昨晩、寝ながら考えた。

 恐らくミーシャがヤバくなる条件は、ミーシャから逃げ出そうとしたり、他の男性を好きになった場合なんだろう、と。

 だから、その当たりを気をつければ、少なくともヤンデレ化は回避できよう。


 そして逃げることを諦めるには、まだ早いから冷静にしてろ、と自分に暗示かけながら寝た。



 あれ、いい匂いがする。

 ハウスから顔を出すと、なんとハーマンが朝食を作っているのが見えた。


 うお、助かる!


 ……うーん、そして、良い……ですね。

 イケメン男子が腕まくりして調理してる姿とか、ちょっと萌えます。

 ハーマンはガタイが良い方のイケメンだから、調理器具が少し小さく見えるのもイイね~。


 ハーマンもコニングも攻略対象だけあって、やはりイケメンレベルは高いんだよな。まともでさえあれば。


 ヒロインが1人に絞れない気持ちもわからんでもないな。

 とくにゲームにどっぷりハマってたなら、この世界でも彼らをまとめて自分のものにしたいって思っちゃうのかもなぁ。

 だからと言って、課金アイテム使って人をとりこにするとか、やっちゃいけないよ。サンディ。

 そういえばサンディ、まったく見かけないけど、あんな一人で何もできそうにない子、どうしてるんだろう。

 まさか死んでないよね? それは流石に置いていったことに罪悪感を感じる。


 ただし、ドミニクス殿下を見捨てたことは許さんけども。

 ドミニクス殿下によると、サンディを庇ってツタに絡まれたあと、『ありがとう、貴方のことはわすれない』って逃げていったらしい。

 見つけたらそこはきっちりお仕置きしてやる。



 私は着替えて湧き水場へ行って顔を洗おうとしたら、そこにコニング伯爵令息がいた。

 

「あら、おはようございます。コニング様」

「あ、アナスタシア様、おはようございます」



 なんとコニングが洗濯をしている。

「洗濯なら私が……」

「いいえ、昨日ハーマン様と話し合って交代で男子の分は我々二人で担当することにしました。

 ですので、あなたはご自分のものだけを……お願いしたいのですが」


 気づかいが! 細やか!!



「うわ……ありがとう。でもシャツとかズボンなら私も手伝うよ。3人分は大変そうだよ。それに干す時はどのみち同じ場所に干すし。こんなサバイバル生活なんだからその辺は、あまり気にしないようにしてくださいね」


「……ありがとうございます」

 若干顔を赤くして俯いてジャブジャブしてる。

 まともになるとやはり、彼も可愛らしい一面を感じる事ができるな。

 後輩キャラだけに、こっちに可愛らしいと思わせてくる計算をされて作られていたかもしれない。


 他の攻略対象と比べると華奢なイメージを感じるけれど、その洗濯している手や腕は力強い。

 うーん、良いですね。




 私は顔を洗って、ついでに洗濯を済ませた後、食卓の方へもどるとハーマンが声をかけてきた。

「おはようございます、アナスタシア様」

「おはようございます、ハーマン様」


 食卓の上には、山の上で鶏が産んでた卵で作った目玉焼きが人数分並んでる。

 それと小麦で作っただろう……パンケーキ?。あとはフルーツ類。

 うわー美味しそう。

 わーい、食べる係ひさしぶり!


「朝食がもうすぐ整いますので、そろそろミーシャ殿下を起こしていただけますか? おそらく昨日は相当おつかれだったかと。オレも一旦、ドミニクス殿下を」

 そう言ってハーマンは、ドミニクス殿下を起こしにツリーハウスへ向かう。


「わかりました」

 私はミーシャを起こしに行った。




 樹の家のドアをコンコンと叩いてから開ける。

「ミーシャ、そろそろ朝ごはんだよ」


「ん……」

 寝てるだけなら、マジ天使……って、少し涙のあとがある。

 やっぱり寂しかったかな。


 私は袖口で優しくそれを拭った。



「……あ、アーシャ。おはよう」

 ニコリ、と微笑む見た目は大人、なかみは子供のイケメン。


「おはよう。今日はハーマンが朝ごはん作ってくれ――」


 むにゃむにゃ寝ぼけながら、胸に飛び込んできた。

 お約束か!!


「ミーシャ……」

「……ごめん!」

 ハッとして、顔赤くし、離れた。

 そこは純情なんだね……。

 昨日までのミーシャなら、気にしなかっただろうなぁ。



 しばらくして、皆で食卓を囲む。

 ミーシャは当然ながら、お誕生日席。いわゆる上座。第一王子だしね。


「船を今日から作る計画を建てようかと思ったんだけど。その前にね、人数が増えたからちょっとお風呂をなんとかしたいの」

 食事を開始してすぐに、ミーシャがそのように口を開いた。


「どうかされましたか?」

 ハーマンが聞く。既に側近のようだ。


「人数増えたから、アーシャ以外は温泉利用にしたい。アーシャも、もちろん温泉使っていいんだけど」

「ああ、そう言えば温泉あるって言ってたね」


「では男風呂と女風呂を作りますか」

「うん。どうせ……えっとサンディだっけ? 無事なら彼女もそのうちここに来るんじゃないの? ちなみにその子をザッと島中を視て探してみてるけど、今の所見つけられてない」


 あんな目立つピンク髪のヒロインが? どこにテレポートしたかわからないツタにからまった私を見つけ出すような目を持ってるミーシャの目で見つからないの?


 死んでいたとしてもミーシャならその痕跡見つけそうだしひょっとして、なにか課金アイテム使って私達を避けてる?


 コニングが挙手した。

「あ。すいません。僕は薬草関連を探しに行っても良いですか? 何かあった時用のポーション類を作りたいんです」

「ポーション……おくすり? 別にいいよ。ハーマンとドミーがいれば人手は十分だと思う」

「え、オレも?」

 ドミニクスサボるつもりだったのか? 働け。


「そっか、お薬か……工房も作ったほうが良さそうだね」

「え、そんな……! 恐れ多い!」


 そういえば、コニング伯爵家は、ポーションを扱ってましたね。

 たしかポーションを作るためのパッシブをもって生まれる子が多い家系だったはず。



「だって、皆の為に作ってくれるんでしょ? よろしくお願いするね」

 ミーシャはコニングに微笑んだ。

「―――っ」

 コニングが胸を抑えて、ウッ、てなってる。

 ミーシャのカリスマすげえ。


「コニング、大丈夫か」

 ハーマンが立ち上がってコニングの背中をさすっている。

 やっぱこの人、世話焼きだな。


「ふふっ」

 私はその様子が微笑ましくて、少し笑った。

 見ると、ミーシャもニコニコしている。


 ドミニクス殿下だけは興味なさげなノリの悪い顔だった。


「あ……じゃあ、私は何をしよう。さっき洗濯終わっちゃったし。食器洗って……山の畑に水やって漂流物チェックにでもいってこようかな」


 ドミニクス殿下以外が、不安そうな顔でこっちを見た。……ん?


「……良いけど、危ない……目に合わないかな」

 とミーシャ。

 危ない……目、と妙に間が開くのはどういう事だ。


「貴女が一人で出歩くと、また……」

 眉間にシワよせて難しい顔するハーマン。


「…………(顔を覆って赤面している)」

 コニング! 何を思い出している……!!



「なんだ? どうしたんだ……」

 怪訝な顔をするドミニクス。

 そうだね、あんたは知らないもんね。


「あのね。出歩くたびに毎回、めったに……あんな……目に合うわけないでしょう!!」

 だいたい、ツタ以外はお前らのせいだろ!!


「そ、そうだね。うん。わかった。じゃあアーシャはそれでお願い」

 ミーシャ!

 なんで顔が赤いのよ!!

 

 くそ……っ!!

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