㉒無人島生活6日目05■ いきなり大人ぶりはじめて動揺が隠せない

「僕は……ゴミだ……(ブツブツ)」


 樹の家――もはや拠点といった方がいいか。

 そこへ帰ると、コニング伯爵令息が樹の下で体育座りをし、青い顔で俯いていた。


「なんだ、これ……」

 私はコニング伯爵令息を指差し、思わず呟いた。


「ミーシャ殿下が例によって、正気に戻してくださったのですが、罪悪感で心が潰れたようです。ちなみにオレもそうだが、殿下達をお守りしなければという信念で保っております。でも実はかなり死にたいですよ(真顔)」


 ハーマン……!

 さすが将来の王宮騎士!



「……アーシャ、この人……コニングもここに住まわせてあげるの?」

「ミーシャ、あなたが決めるといいわ。ここはもともとあなたのお家の敷地みたいなものなのだから」

「んー……。まあ放っておくわけにもいかないよね……」


 そう言うとミーシャは、簡単なツリーハウスをもう一つ作った。

 ハーマンも手伝っているので早い。



 ハーマンのツリーハウスから見える位置にコニングの小屋が設置された。


 コニング伯爵令息は青い顔をして言った。

「恐れ多い、恐れ多すぎる……。もう、僕は息をしているだけで不敬罪なのでは……?」


「……そういうのはいいから、アーシャに謝ってよね」

 ミーシャ、割りと大人な対応するなぁ。

 頭が賢いからかな。


 一方、コニング伯爵令息はハッとして私に向かって土下座した。


「申し訳有りませんでした、エルヴェスタム公爵令嬢……!!」

「ちょ、ちょっと。もういいわよ。正気に戻ってくれたなら、私はそれだけで安堵できるから」


 色々とショックが残ってはいるけれども、引きずりたくはない。



「なんというありがたいお言葉でしょう……! こ、これからはお詫びを込めて誠心誠意、お力になります!!」


 コニング伯爵令息は海辺での私の姿を思い出したのか、赤面しながらお詫びしてきた。


 これしばらく寝てる時に思い出して足バタバタするやつだな。

 私も色々足バタバタしそうだよ。うん(遠い目)。


「あー……まあ、お互い助け合っていきましょう……」

 そりゃね、ハーマンもコニングもやった事自体は許せないんだけれども、ヒロインのせいで頭がおかしくなっていた訳だから彼らも被害者なんだよね。

 私も平気なわけではないのだけど、まあ、許さないとしょうがない、みたいなとこはある。

 言ってみればここの王様であるミーシャが、彼らを許していることだしね。



 コニング伯爵令息は、気持ちを落ち着けてきます、と早速自分のツリーハウスへ登っていった。


 それを眺めながらミーシャは言った。

「あと、僕の弟の……ツリーハウスもいるよね?」

 もう感動。なんて気が回る子なの。

 ああ、でもそうね、そうね、自分の弟だもの。家くらい作ってあげるわよね。


「……そうね、偉いわ、ミーシャ」

 私は頭を撫でようとした。が、手を取られた。


「偉くないよ、当然のことだ。……あと、もう……子供扱いしないで」


 !?


 み、ミーシャが……頭なでなでを、拒否った!

 そして子供扱いするな!?

 さっきまで、つい先程まで撫で撫で喜んでたじゃない!?

 どうして!?


「わ、わかった……」

 私は手を引っ込めた。

 まるで反抗期が始まった息子を持った気分だ……!?


 ミーシャは、ドミニクス殿下のツリーハウスをサクサクと作った。

 ハーマンのヘルプもあるとはいえ、めちゃくちゃ手早い。


 ドミニクス殿下、顔色悪いな。


 私は少し魔力の譲渡を行った。

 魔力を持っているもの同士は、相手に魔力を譲る行為が行える。

 細かく言うと、奪うこともできるのだけど。


 魔力をしばらく流してあげると、ドミニクス殿下の顔色が少し良くなった。

 どれだけの間、ツタに絡まれていたのだろう。

 まったく、世話の焼ける……婚約者だ。

 起きたらどうせまた、こいつとは喧嘩になるんだろうな。

 クッキーで頭おかしくなるその以前から……こいつとは反りが合わない。


「ツリーハウスへ運んで寝かせますね……よっ」


 ハーマンがドミニクス殿下を抱えた。

 ハーマンは成人男性をひょい、と難なく抱える。

 鍛えてんな。さすがだ。


「ハーマン様、ありがとう」

「いえいえ、臣下として当然ですとも」



 これで作業が終わり、かと思いきやミーシャの樹穴の近くにもう一つツリーハウスを作り始めた。


「ん? どうしたの」

「アーシャの家作ってる」

「え、どうして」


「……男女で同じ家は良くないかと思って。ごめん、気がつくの遅くて」

 え、えええ!!


「いや、何も謝ることないし。別に私は今更同じ家でも気にしないと言うか……」

 ミーシャは私のその言葉に首を横に振った。


「着替えとかもあるし、やっぱり女性は別室のほうが良いと思う。以前も言った通り、僕はベッドいらないから、後で運んであげる」

「あ、ありが……とう……?」


 ふ、複雑だ……。

 樹の穴の家、結構気に入ってたから、ちょっと寂しい!


 ミーシャ、今までを取り戻すかのように成長が速いな……。

 ハーマンの授業も、ついさっきちょっとやっただけだよね!?

 その『ちょっと』と先程からの自分の反省点で急激に成長したのですか!?

 なんかおかしくない?

 

 ちょっとお母さん……じゃなかったお姉さん、ついていけないわ!?

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