元冒険者のおっさん、スキル【魔法少女】で世界を救う

なごみ村正

序章 魔法少女と決意と旅立ち

第1話 変身!!

 俺の住まいである、ボロく狭い小屋のような借家。

 その玄関先にて、俺は今日初めて目にした全身ふわふわの生き物と対峙していた。

 見た目は猫ともウサギともつかない未知の生命体だが、それ以上に奇妙なのは、ことだ。

 その生き物は、つぶらな瞳で俺をまっすぐに見つめてこう言った。



「お願いだポン! 魔法少女になって、この世界を侵略する魔神と戦ってほしいポン!」



 魔法少女──と言われても、何のことを言っているのかさっぱりわからない。

 この世界には魔法使いなら掃いて捨てるほどいるが、魔法などと強調する例は聞いたことがない。

 もしも少女の魔法使いになれという意味なら、そんなことは不可能に決まっている。なぜなら──。



「……俺、35歳のおっさんなんだけど?」



 呆れながらそう聞き返すと、謎の生き物は首をぶんぶんと横に振った。


「おっさんなのはわかってるポン! でもキミには素質があるんだポン! 魔法少女になると言いさえすればなれるんだポン!」


「ポンポンうるさいな……そんなこと言われても信じられないぞ」


「この世界の命運が、キミの存在にかかってるポン! お願いだから『なる』と言って欲しいポン!」


「ああ、もう……言えば満足するのか? わかった、なるよ。なります。何が目的なのか知らんが、気が済んだら出ていってくれよ」


 あまりにもしつこく言い寄られ、俺はうんざりしながら話を打ち切るつもりでそう答えた。


 その瞬間──謎の生き物の瞳が、まばゆいほどに光り輝いた。

 比喩ではなく、本当に光を発していた。


「契約は成されたポン! ボクの力で、キミを魔法少女にするポン! さあ、見るポン。これがキミの新たな姿──!!」


「……え? ちょ、ちょっと待っ……!」


 俺は何か嫌な予感がして止めようとしたが、手遅れだった。

 まばゆいほどの光に全身が包まれていき──。



「……う、うう。何ともない……のか?」



 すぐに光が収まったのを感じ、ほっと胸を撫で下ろしたのも束の間、違和感に気づいた。

 声が、やけに高い。

 自分の手を見つめると、いつものごつごつした大きな手ではなく、別人としか思えないほど小さくて華奢な手だった。

 それこそ、少女のような──。


 まさか。

 そう思いながら寝室の戸棚に駆け寄り、手鏡を引っ張り出して自分の顔を見た。



 そこに映っていたのは、幼くも可憐な顔を真っ青にして鏡を覗き込む少女──変わり果てた、俺の姿だった。



「な……何じゃ、こりゃあああっ!?」


 俺は全力で叫んだが、その叫び声すらも、可愛らしい少女のものへと変わり果てていたのだった。

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