第4話 助けられた話/……恩人

俺は商店で買ったパンを、ひと齧りしてから当たりを見回す。

ここは王都近郊の協会等がある、比較的安全な場所だ。


俺が先程倒したモンスターから出た金貨を手に持ちながら眺めていると


「お兄ちゃん!あーそぼ〜」


と話しかけられた。おそらく齢5歳ぐらいであろう女の子。

後ろから


「おい!……アネラ!……すみません……シスターに知らない人に、話しかけちゃ駄目って言われてただろ?!」

とその子に注意をする声が聞こえてきた。


(おそらくその子とは血が繋がっていないであろうが、その関係性から兄弟なのではないか?と俺は思った)


その言葉を聞いて、アネラと呼ばれた少女は


「なんで?私分かんないよ?……優しそうな人に話しかけたらなんでダメなの?」


「そ、それはだなぁ……えーっと……うーん……」


俺は立ち上がりながら彼等に近づくと


「いやぁ、いいものを見せてくれたお礼だ!……こいつはチップって事で」


そう言って手に持っていた金貨を投げて差し出す。

驚く2人に俺は


「──でも本当に無闇に話しかけない方がいいぞ?……世の中は君が思っているよりも、はるかに優しくないからね……分かった?」


「うん!ありがとう!」


そう言って”たたた”〜と駆けてゆく2人を見つめて俺は懐かしい記憶がふと、頭をよぎった


◇◇




──俺が12歳の時。里が騎士に襲われたあの日のその後の事


俺は疲労により森の中で倒れてしまった。幸いなことにスキルは発動していたから、敵意を向けてくる奴らは皆殺しにしていてくれたが


しかし、俺はもうお腹も空いていたし喉もかわいていた。

そういえばこの世界に転生してきた時もこんな感じだったなぁ……と俺が思いながらぼーっと佇んでいると


「ちょ?!だ、大丈夫〜?!」


「おい!……あ、あんた無事か?」


俺に話しかけて来る男女がいた。……どうやらスキルの対象になっていないことを見るに敵意は無いようだ


俺は血だらけの格好のまま2人におぶられて彼らの家に運ばれた。

そこで俺はついに意識を失った


◇◇


「あ?!目が覚めたっぽい!……お兄ちゃん!!」


「マジかよ……あの傷から生きて帰ってくるとか流石にすげえぞ!」


「あ、あんた達は……?」


俺はそう言いながらも彼らが何かをするのでは無いか?と気が気で仕方なかった


その様子に気がついたのか女の方が


「あ、あのね……私はロファ!……この辺で冒険者をしてるんだよ!……んでこっちの無愛想な奴が」


「誰が無愛想じゃ!……ゴホン。……俺はリド……妹のこいつと一緒に冒険者をしてるもんだ」


冒険者……?(……確か魔物を狩って得たお金と素材を使って生活する奴ら……だったか?)


「そうか……ありがとうございます……」


俺がそう言うと彼等は


「まぁまぁ気にしなくていいよ!……そんなことよりも聞いた?……竜と騎士が戦闘を起こしたんだって?……何かね〜」


竜、騎士……あぁ、あいつらは……


俺は吐き気が襲ってきてそのまま伏せる。

ちくしょう、俺が狩りに出かけていなければ防げたのに……!


俺のその態度の変化に、ロファは慌てて


「あ、やばい!もしかしてウチなんかやっちゃった?」


「あのなぁ……人には人のトラウマってもんがあんだよ!……まずはゆっくり休ませてやれよ」


俺は、気にしなくていい……すぐに治る。そう2人に告げると、2人は安心したように俺にご飯を持ってきてくれた


「おらよ?……こっちはいつも金欠でな……すまねぇ……こんなもんしかねぇけど……よ」


十分すぎる。と俺は感謝をする

彼らが持ってきてくれたのは”少しだけ冷めてしまっているし、よく分からない具材が入っているスープ”と”カチカチだけど優しい味のパン”だった


「美味しい……少し変な具材が入ってるけど……それでも……ああ……美味しい」


その様子をにこにこ、と眺めるロファとリド。彼等からは一切敵意を感じなかったし、嫉妬も、何も無かった。


ただ、優しい冒険者に出会えたことを俺は感謝することしか出来なかった



◇◇



2日後、俺は彼らと一緒に狩りに出る事になった。

2人はまず俺を連れてギルドに登録する為に街に行こう、と行ったのだが


俺は自分のスキルの危険性を知っていたから、それはやめておこう。と伝える


一応、ギルドに行かなくてもギルド登録する方法があり、そのひとつが


「……指定された魔物の討伐をして、その素材をギルドカードにはめ込む……か」


確かにそれなら離れていてもギルド登録ができるわけだ。


俺は送られてきたギルドカードを手に持ち、そこに自分の名前『ジン』と書かれていることを確認すると


「ありがとう、では狩りの手伝いをしよう」


そう言って2人とともに狩りに出かけた。


─俺は基本後ろから弓をぺちぺちと撃つだけ。なぜなら俺にヘイトが向いたやつは、独り残らず殲滅されるという特性を利用し

わざとヘイトを向けさせてスキルで倒す。


そんな技術を俺はバルバロッサから学んでいた。

それ以外にも、『斧術アックススキル』、『剣術ソードスキル』、『槍術ランススキル』、『弓術アロースキル』、そして竜に教わった古の魔法。


俺は別にスキルにかまけて自分を磨くのを怠ったりはしていない。というか、が現れた時、太刀打ちできないと詰む。

俺はそう考えていたから、ひたすら修行していた。


「ロファ!そっちに行ったぞ!……くらえ!俺の槍ィ!」


パカーンという音がして戦っていたモンスターが吹き飛ばされる。

この世界の魔物、(まあモンスターとも言う)それは人族を憎む性質を持つ。


かつて神が人間ばかりを依怙贔屓した結果、それに嫉妬した魔物たちが人間を襲うようになった……とかバルバロッサは教えてくれていた。

……あいつなんでも出来たんだよなぁ……


俺はもうこの世にいない竜を惜しみつつ、ロファとリドが戦っているモンスターを眺める


『バリバリベアー』


バリバリの名の通り、雷を纏って襲ってくる熊。そんな感じの見た目だ

サイズは現代日本で見たクマよりも少し大きく、攻撃も割と苛烈だった。


まあ、俺にとっては大した的では無いが


俺はゆっくりと立ち上がり、『弓術アロースキル』のひとつ、『剛射パワーショット』の構えに入る。

弓矢を魔力で作り出し、それを5本一纏めにすると


「……はぁ!」


クマの動きが一瞬止まった瞬間、その脳天にぶち当てる。

当然、そんなダメージを受けてヘイトが向かないわけがなく、こっちに向かって向きを変え突進してくる。


「2人とも、離れて!」


俺はそう言いながら突っ込んでくるそいつを眺めて


「……まぁ、弱肉強食だからね……」


そう、呟きながら


──『ターゲットロック』──


──『【迎撃】を開始します』──



無数の矢を体にぶち込む。……即死である


俺は何とかスキルに巻き込まなかったことを喜びつつ、改めて2人にお礼を伝える。


──こうして、俺はギルドに所属する人になった。




◇◇◇



───そして俺は彼らの笑顔を忘れない。

いや、忘れることが許されない


あの日、たまたまダンジョンで出てきた魔物に取り憑かれた2人の笑顔を、幸せそうな……そして敵意に満ちたその笑顔を


──「俺は忘れることが認められない」─

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