第11話 花の宴

暁の訃報後、さくらはずっと千春に寄り添ってくれた。

いつしか、千春は、さくらに惹かれ、さくらも千春に惹かれ。千春の感情が、少しずつ出始める。

悲しみや怒りをさくらにぶつけることも少なくなかった。

自分の気持ちに整理がつかず、悩み、裏庭の桜にいかなくなってしまった。

そして、桜の季節が終わり、桜はすべて散ってしまった。


「いいんですか?さくらさんのところにいかなくて」陽向が千春に問いかける。

「さくらといると、怒ったり、悲しくなったり、苦しいんだ」


運転手・陽向は千春を抱きしめる。

「それで、いいんですよ。…あなたは彼女に恋をしたのだから」


「もうごっこ遊びはおわりにしましょう」


陽の光で雪が解けるように、美雪が消えていく。

「あれは、現実ではありません、あなたが作り出した幻想です」


8年前、姉、美雪が病気でしんだ。

ひとりぼっちの千春が、姉を失い、自分の感情をすべて失わせ、かりそめの美雪をつくった。


回想シーンで、ひとりでしゃべっている、千春。

それを運転手は見守っていた。


千春を抱きしめ、涙する運転手・陽向。

(ずっと一人だと思っていた。でも一人じゃなかった。見守ってくれる人がいた…そうだ、暁もいたんだ。俺は…!!)


「俺、さくらのところにいくよ」


「いってらっしゃい」

陽向はいつものように千春を送り出す。


さくらのもとに走り出す千春。

(俺の中、ぐちゃぐちゃだ…。でもどんな怒りも悲しみがあっても、どんなに苦しくても…君を想う、この優しい感情は失いたくないから…)


さくらがいつもの通り、裏庭でまっている。

桜は、すべて散っている。

「さくら!!」

「千春…」


千春は、さくらがいつもやっていたように、桜の花びらを両手で頭の上に降らせるしぐさをした。


すべての桜の木々に、花々が咲くような光景が一瞬広がる。


「これが愛ってわかるよ。…悲しくなくても涙、出てくるから」


さくらは、胸にこみあげるものにこらえきれず、涙を流した。

不器用な千春の告白が分かったようだった。。

千春も、暖かい感情に胸がいっぱいになった。


寄り添う二人。

「大丈夫だよ、千春。桜は来年の春も咲くから」

「うん、また、一緒に見よう」

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