DQN系美少女を全力で支えたら、めちゃくちゃ良い彼女になった件

あおぞら

第1話 恋をしました

 ———一週間程前の話だ。


「あー、何で俺が奢らなきゃいけねーんだよ……もう金欠だっての」


 平日の夜8時。

 俺———暁月快斗あかつきかいとは、友達とカラオケに行った帰りにぼやいていた。


 勿論カラオケ自体は楽しかった。

 友達が『じゃんけんで負けた奴がカラオケ代全額負担な!』とか言う頭のおかしいことを言い出さなかったら、の話だが。


 そのせいで一気に楽しく無くなったね。

 こちとら三〇〇〇円ちょいしか持ってないのに一人一〇〇〇円×三人分やぞ。

 もう財布の中身スッカラカンだわ!!


「はぁ、マジでどうしよ……親に土下座でもすれば少しはお金貰えるかな?」

「———にゃー」

「おん?」


 失意に落ちていたその時———突然結構大きな猫の鳴き声が聞こえた。

 パッと周りを見てみるも、愛くるしい猫の姿は見当たらない。


 だが、猫好きとしては、猫の鳴き声が聞こえれば探したくなるもの。

 勿論俺も猫は大好きです。


「何処だ~~俺の猫ちゃ~~ん」


 俺はこんな夜に一人、気持ちの悪い呼び方をしながら探していると……少し寂れた公園のベンチ付近に一瞬だけだが、猫の姿を見た様な気がした。

 嬉々として公園に近付く俺。


 しかし———。



「おいで、アイ。今日もご飯持って来たよ」



 ———俺より先に猫に触るJKが居た。


 まさか人が居るとは考えていなかった俺は驚いて立ち止まる。

 同時に、俺は猫よりも猫に餌を与えるJK———同じクラスの美少女に目が向いた。


 公園の街灯に照らされた、少しキツそうだがそれが霞む程の端正な顔立ち。

 光を反射してキラキラと輝く金色の髪。

 猫に向ける慈しむ様な優しい眼差し。

 普段とは違い優しげな口調。

 口元には少し笑みを湛え、抱っこした猫に向けて◯ゅ~るをあげる姿は正しく聖母の様だった。 


 俺は学校で知る姿とはあまりにもかけ離れた美少女の姿に恐る恐る声を掛ける。


「あの……佐倉絵里奈さん、だよな?」

「……っ、だ、誰っ!?」

「にゃっ!?」

「「あっ、ま、待って!!」」

 

 俺に話し掛けられた美少女———佐倉絵里奈は話し掛けた俺を見ると、驚いた様に目を見開いて叫んだ。

 その声に猫が驚き、逃げ出そうとする。


 俺と佐倉絵里奈は逃げる猫に声を上げるが……猫はそのまま公園の草木の茂みに入っていってしまった。

 逃げた方を見ながら佐倉絵里奈は一瞬残念そうにするも、直ぐに再び俺をキッと睨んだ。


「アンタのせいで逃げたじゃない!!」

「えぇっ、俺が悪いの!?」

「当たり前じゃない! アンタが私に話し掛けなかったら逃げなかったし!!」

「しょ、しょうがないじゃん! 俺だって普段と違う佐倉さんの姿にビックリしたんだよ!」


 先程とは一変してヤンキーの様にキレる佐倉絵里奈と、美少女にキレられてビビりながらも反論する俺。

 

 いや怖ぇぇ……昔からキツイ性格の女子は苦手なんだよ俺。

 この性格さえ治せば少し顔はキツくてもめちゃくちゃモテそうなんだけどなぁ……。

 

「……何? そんなアタシをジロジロ見て……もしかしてアンタも何時もと違って変だって言いたいわけ?」

「卑屈すぎん? 俺は全然変じゃないと思うぞ」

「……は? 何、お世辞? アタシに好かれようとか思ってんの?」

「違うに決まってんだろ、俺の好みは清楚系美少女ですぅー!」


 俺がそう言うと、佐倉絵里奈はドン引きした表情で零した。


「うわっ……キモ過ぎるんですけど」

「ごはっ!? い、いきなり言葉の剣にぶっ刺さて……うおっ!?!?」


 ゴチンッ!


 胸を押さえながら後退る俺だったが、丁度出っ張っていた石に足を引っ掛けて後ろから盛大に地面に頭を打った。


「ぐぉぉぉぉ……」


 い、痛いけど……それより恥ずいんですけどぉぉぉぉ!?

 絶対笑われるだろ、これ。

 詰んだな、俺の学校生活。


 痛み、と言うより美少女に物凄いダサい姿を見られた羞恥と未来への悲観とか何やらで転げ回る俺だったが……。


 

「———だ、大丈夫!?」



 俺は動きを止めて、言葉を失った。


 ダサいこけ方をした俺を茶化したり笑うでもなく。

 見下す様な視線を向けるでもない。


 先程まで俺を睨んできた彼女が、本気で心配そうに眉尻を下げて俺の顔を覗き込んできたではないか。

 更には流れる様に俺の頭を自身の太ももに乗せると、いつの間にか濡らしていたらしいハンカチを俺が打った所に当てくれる。

 

 美しい顔が近付く。

 金色の髪が俺の頬に当たった。

 彼女の茶色の瞳には、心配や戸惑いがありありと浮かんでいる。

 

「ねぇ、大丈夫!? 結構痛そうだったけど!?」

「あ、いや……」



 そんな彼女の言葉や姿、行動に———俺は一瞬で恋に落ちた。

 


 チョロいと思われてもいい。

 何と言われようとその日あの時、俺は彼女に恋をしたのだ。


 しかし、彼女は一つの問題を抱えていた。

 それも高校生にとって相当な問題だ。

 

 俺が恋に落ちた美少女は———悪い噂の絶えないDQN系美少女だった。


 元々あまり素行の良くない女子や男子とつるんでいた彼女は、学年一のイケメン男子にクラスメイトの眼の前でクラスメイトの大人しい女子を虐めていたと糾弾されて以降、孤立していた。

 何なら偶に元々つるんでいた奴らから呼び出されたりもしているようだった。


 勿論当時は自業自得だと思っていたが……どうやら何か理由がありそうだ。

 だってこんな全く仲の良くない俺を……それも自らの癒やしの時間を邪魔したこの俺を心配してくれるのに、悪い人な訳がない。


 絶対にその理由を暴いて彼女の立場を逆転させてやる……!

 そして俺は彼女と付き合うんだ……!

 


 こうして俺はその時———彼女を全力で支えることを誓った。



————————————————————————

 DQNが分からない人も居るかもなので、一応説明を。


 DQN———非常識で軽率な行動をする人。または品位に欠ける人や粗暴な人のことも指す。


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