第10話 同僚達はミタ!!

『…ウソだろう……』

某占拠物のドラマの主人公が言っていた決めセリフではないが…

社長や本部長に平謝りし足早にその場を離れた太郎。

徐々に加速する風景の中、目の前に迫る壁を左に避け、その先にある受け付けを凝視すると…

笑顔で受付嬢の二人と談笑する華恋が見え、思わずそんなセリフを呟いていた(笑)

「あ、山田課…長……?」

この世界に本当に加速装置があるのなら、今太郎が使ったのがそうだろう(笑)


太郎は、光の速さの如く華恋の背後を取ると…

「華恋さん、いきなりだけどちょ〜とこっちに来てもらってもいいかな?」

「あ、タッく〜ん♡おっは〜〜♪」

昨日より幾分かシックでおとなし目な服装の彼女だが、それでも相変わらず目立ってしまう美人である。

「おはよう…じゃなくてちょっといいかな?」

「アン♡どこ連れて行くし〜〜」

太郎は受付の二人に誤解されない様に、これでもかと不自然な作り笑顔を浮かべながら華恋の背中を押し、その場を離れ近くの自販機コーナーまで誘導していった。


そんな二人の背中を見送りながら受付の二人は…

『『…山田課長…タッくんって呼ばれてるんだ…』』

見た目と呼び名のギャップに《萌感》を感じつつ、暖かく見守ろうと心で誓うのであった(笑)


一方当の本人達はというと…

「は、華恋さん…な…何故こ…ここが解ったんです…か?」

「ん?だって名刺貰ってたし♪それよりもタッくん…これ昨日忘れてたっしょ♡」

そんな太郎のおどおどした口調の質問に、あっけらかんとそう答える華恋。

それで彼は思い出した…

昨日彼女が勤めるブティックを訪れた際、サラリーマンの悲しい性か、その場にいる全員に名刺を配っていて事を…

それとテンパリ過ぎていたからか、カウンターにコートを置きっぱなしにしてすっ飛んで帰った事をだ。

「あ、コート!わ…忘れてたん…だ…」

「何それ〜今まで忘れてたってダメじゃ〜ん(笑)」

華恋は笑いながら手にぶら下げていた紙袋からコートを取り出すと太郎に渡した。

今、彼女がつけている香水と同じ匂いを、ほんの少しだけオマケに付けて。


「…と…届けてく…くれたん…だ…わざわざ…」

「ウン♡今朝は暖かいからいらなだろうけど、夜は冷え込むかもだし〜、だから店に行く前に持ってきたん♪」

「あ…ありが…とう…」

そんな何気ない気遣いをされた事の無い太郎は、華恋のその気遣いにウルっときてしまう。

「ウフ♡御礼は昨日のリベンジで良いよ〜♪♪」

「え?え…え!!」

「またすぐ照れるなし〜♪じゃ〜仕事頑張ね〜♡」

「う…うん、は…華恋さんも…」

「ハイな♡じゃ〜ね〜〜♪♪」

最後はちょっと彼女らしいお茶目な部分を垣間見せながら、笑顔で手を振りこの場を去っていく。

そんな彼女の後ろ姿を見送りながら…

『やっぱり良い娘なんだよな……』

ふとそんな事を呟いた。

折しも背後からあびせられている視線に気づきもせずに…だ。


ガシ!!

おっと!太郎は不意に両肩を掴まれ、逃げられない様にロックされた!!

「第二営業部、課長を確保!直ぐ様容疑者を署まで連行するぞ♪」

「え?え?何これ?」

「課長…話は向こうでじっくり聞かせて頂きますから♡」

気が付けば彼は第二営業部のメンバー全員に囲まれていた♪


「エ?は、早田主任…?」

逃げられない様に早田がロックして♪

「課長!洗いざらい正直に吐いてくださいよ♪」

持っている鞄を剛が預かり♪

「そうですよ〜ちゃんと証拠も揃っているんですからね♡」

すかさず北斗はコートを預かって♪

「剛…それに北斗さん…?」

「さーー!皆さん朝礼まで後20分しかありませんからね♪」

手際よく東がエレベーターまでの道先を確保し♪

「ひ、東まで!あ、も、諸星止めて!!」

「主任、俺先にエレベーターを降ろしときます♪」

すかさず諸星が先行して段取りを整える♪


なんというか…

流れる様な素晴らしいチームワークである(笑)

「か、勘弁してくれ〜〜(T_T)!!」

そんな太郎の叫びも虚しく、彼は全員に拉致られる様に引きずられて行ったのだった…



…続く…

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