第7話 その日…太郎の夜

会社の同僚であり部下の女性から届いた咎める様なメールに腹を立てながら飲み終わった酎ハイのカラを台所に置くと、そのままベッドに潜り込む太郎…

そんな彼を夜の暗闇と静寂が優しく時を刻みながら包みこんでいた。


帰宅途中のアクシデント…

太郎にとってアレは、戸惑うばかりのイレギュラーでしかなかった。

偶然とは理解しているものの、あの娘との再会は一瞬誰かが仕組んだドッキリじゃないかと疑ったくらいだ。


だからなのか、以前部下の早田が言っていた…

『それ勿体無くないですか?まぁ〜その女子校生は年齢的に無理でも、知り合いに年上でフリーの女性とかいるかもしれないじゃないですか(笑)』

なんてセリフをすっかり忘れてしまっていた。

「でも…な…」

太郎は正直嬉しかった。

それは性的な意味じゃなく、自分の様な冴えない中年の事を覚えていてくれたばかりでなく、嬉しそうに微笑んでくれた上に頬にKissまでしてくれた事にだ。


何となく大学を卒業して14年…

猫丸産業に就職して営業マンとしてがむしゃらに働き、いつの間にか課長になって部下もできた。

コミュ障や人見知りを直したくて、不得意な分野の職種にあえてついたが、当時直属の上司である鬼無里(きなり)課長現・鬼無里本部長の親身な指導のお陰もあって気が付けばここまでこれていた。


そんな自分とは違いまだ若く、聞く所によると将来はあのブティックを経営しながらデザイナーとして活躍したいと言っていた。

見た目は…

まぁ〜確かに他人には誤解されそうなファッションで遊んでばかりで、チャラチャラしてそうに見えるが、ちゃんと将来のビジョンをしっかり見据えている。

特に今日は働いている店に無理矢理ひっぽられていったが、同級生兼同僚の他のメンバーも見た目で誤解されるかもしれないが、第一印象よりも遥かにしっかりしていそうで安心した。

「でも…俺には場違いな所だったな…」

初めて行ったあの手の店は、確かに太郎にはそう感じる所だろう…


すると…

「ん?安心?」

何故無意識にそんな事を思ったのか…

彼はそれが不思議でならなかった。


そして回想した…

掃除や洗濯は好きだけど料理は苦手。

母子家庭で父親の事は覚えていない。

母親が言うには某有名な人物らしい。

お酒は解らないが煙草の匂いは嫌い。

そう言えば最近ウィスキーボンボンで酔っ払ったそうだ(笑)


それと本人曰く男性経験は豊富だが、卒業前に皆手を切って現在フリーらしい。

そんな事を誤魔化しもせず、あっけらかんと話す彼女に逆に太郎は好感を持った。

自分の半分しかない年齢だからどう接して良いか解らなかったけど、自然と会話のキャッチボールができたし、話しててとても楽しかった。

特にだ…

食べてる時の幸せそうな表情が何だか嬉しくなる。

ただ…

彼女の母親と自分が同じ年なのは結構ショックを受けてしまった…


そんなとりとめもない事を思い起こしながら、ふと訪れた睡魔に身を寄せた太郎は、奇しくも華恋と同じ様に頭までスッポリと布団を被り自然と眠りにつくのだった。



…続く…













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