僕はあの猫を殺すことにした。

@Ascend55

第1話 普通の奴がテロリスト

全く持ってもう嫌だ。というかもうどうでもいい。生きるってなんだ。この世界はなんだ。死んだっていいんだ。殺したっていいんだ。僕は自由。なんだってできるんだ。


猫のダリア。雄。得意技は雌猫たちへのアプローチ、壁を蹴って飛び、高いところにクルリと回転してのぼること。実際にダリアの跳躍は優れていて、沢山の雌猫を魅了した。交尾したことだってあった。


でも、それはもう昔のこと。今年なぜか急に足が動かなくなった。いや、うすうすは分かっていた、この世界は残酷なこと、だんだんと身体は動かなくなり、ゆくゆくはできたことが出来なくなっていくことを。


それに自分は、そんな回転技で雌猫にアプローチするだけの、単純な猫ではなかった。そもそも、あの技だって雌猫へのアプローチのためだけに使う計画ではなかった。


この世界、猫界を、もっともっと良いものにするんだって、ずっと思ってきた。いつか人間たちにも、自分たち猫の世界が彼らが思っている以上に豊かで、僕らにしかない美しさがあることを理解させて、彼らの世界ともっともっと融合するんだ。そんな世界を創り上げるんだ。


ダリアは、ずっと夢見てきた。でもこの世界は残酷だ。僕達はコントロールされてきた。今は、爺が餌をくれるハウスに住んでいる。爺には不満はない。彼は良い人だ。


でもだからなんだ、僕は母さんに会えないじゃないか。母さんの記憶は少ししかない。覚えているのはところどころ。でも温かかった。そのあとしばらくはクドウさんという女性と一緒にいたはずだ。あまり覚えていないけど。そして、僕はある日迷子になったんだ。クドウさんと一緒にいたはずだったが、人間の乗り物にのって遠くに行ってからはぐれた。あとはそう、ここに住んでいる爺が餌をくれるこのハウスにたどり着いた。


ここの生活は悪くなかった。第一、他にもたくさんの猫たちがいることが分かった。自分も外に出て、歩いて、色々な猫と友達になれた。


僕は脚が強かったんだ。選ばれた力だった。だから、色んな所に飛べたし、食べ物だって沢山手に入れられた。ここには雌猫たちも沢山いたんだ。僕を好きな子たちだっていたんだ。


でも、もう駄目だ。この脚は動かなくなってきた。


最後にあの子。僕がずっと好きだったミャロに愛されたかった。ミャロ、僕は君のことずっと好きだった。君はまるで僕の飛躍なんか気にも留めていなかったけど、ミャロ、君のこといつも想っていたんだ。


でも、もうどうでもいい。僕が意を決して君に会いに行ったあの日、君は人間のテレビというものからながれるアイツばかり見ていた。


そう、バショウと呼ばれるあの猫。だれよりも高く飛び、だれよりも美しい、だっけ。人間のコンテストというもので優勝したんだっけ。確かにすごいよ。アイツの飛躍を見たよ。僕よりも高く飛んでいたね。でもそれがどうしたっていうんだ。


ミャロ、君は僕と何度も目があった、ヒゲをぶつけてふざけ合ったりもした。それに僕はただ高く飛ぶだけではなかった。高く飛んで取った食べ物を他の猫と分け合っていた。僕はみんなを幸せにしたいんだ。みんなお腹いっぱい食べられて、あったかい場所があって。そんな世界を創りたいって思ってきたんだ。

















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