第33話 準決勝③「実力伯仲」

 お互いに王手がかかった三セット目が開幕する。

 試合開始直後からアザレアは、ダッシュ攻撃で強気に攻め始める。二セット目を落とした直後だが、攻めの動きに全く躊躇がなかった。


(徹底的なガン攻め。戦術を変えるつもりはなさそうだな。だが、最初よりは相手のスピードに慣れてきたぞ)


 アザレアが二刀を振り下ろすと、ギルスはカウンターで合わせようとする。

 律はカウンターを読み切っていたのか、アザレアの攻撃モーションを即座にキャンセルした。カウンターの受付時間が終わった瞬間、無防備なギルスにアザレアは高速で切りかかる。


「くっ……!」


 カウンターを失敗した代償は大きく、ギルスがアザレアの連撃の餌食になった。こうなってしまえば、コンボからの脱出は容易ではない。最悪の場合は、一セット目のようにKOまでコンボを完遂される可能性もある。


(……こっちの防御策を的確に潰してくるな)


 防御の拙さに反して攻めは天才的で、律はギルスの行動に対して、臨機応変にコンボルートを変えていた。


(ブラストは使えるが……下手な使い方をすれば、カウンターブラストでこっちがやられる)


 防御の最後の切り札としてブラストが残っているが、律が警戒しているのは明らかで迂闊には使えない。


(相手のコンボミスはまず期待できない)


 操作精度の高い律がコンボをミスする可能性は皆無に等しい。劣勢を覆すには、自力でこの窮地を切り抜ける必要がある。


『りっちゃん選手のギアが上がりました。これが国内四位の底力ですね』


(悔しいがインファイトでは、りっちゃんの方が俺より上だ)


 段々とアザレアのスピードに目が慣れてきたが、春雪は未だに律の攻めに対応しきれていなかった。

 宙に浮かされているギルスが槍を駒のように回転させる。


(その割り込みは強引過ぎます……!)


 空中攻撃での暴れというハイリスクハイリターンな選択に葵は声を上げる。

 アザレアがモーションキャンセルで攻撃のタイミングをずらし、ギルスの反撃をかわす。


(マスター、ヤバいよ……反撃が読まれてる……!)


(いや、狙い通りだ)


 先ほどの反撃は読み合いに勝つためではなく、アザレアの攻めを無理矢理中断させて仕切り直すのが目的であった。

 アザレアの攻撃が止まった一瞬で、ギルスはバックステップで後退する。アザレアがギルスを追いかけると、槍が接近を拒む。

 アザレアが近づこうとすると、ギルスの槍が阻止し、得意の攻めを押さえ込む。


『一セット目のようにアザレアの接近拒否を徹底してますが、今度は上手くいくのでしょうか?』


 中距離はギルスの優位な間合いだが、敵を封殺するのは容易ではない。事実、一セット目では完全な接近阻止はできなかった。

 春雪は無理に攻めず、回避と迎撃に意識を集中させる。


(……何度も攻められたから、一セット目よりは相手の動きに対応できるようになった)


 ギルスはリーチの差を活かして、アザレアが懐に入るのを阻止していた。

 ギルスは完璧に相手の動きを抑えこんでいるように見えるが、敵の怒濤の攻めは春雪の神経を磨耗させていた。


(アザレアにもう一度近づかれた負ける。絶対に接近は阻止する)


 待ちに徹したギルスに近づけず、アザレアの体力はじわじわと削れていく。

 ギルスが攻めを止めたことで、今までのハイスピードな攻防と打って変わって、試合の展開がスローになっていた。


『……最強神選手は国内最強のアザレアの攻めを凌ぎ切るつもりのようです』


 ギルスは堅守を五分近く維持し、アザレアの体力を迎撃だけで八割近く削っていた。だが、春雪の集中力も限界寸前であった。


(ここまで耐えてきたが……キツいな……)


(マスター、このまま耐え抜けば勝てるよ!)


 迎撃が少し遅れると、アザレアとギルスの攻撃が同時に当たる。

 攻撃が相打ちとなり、両者がダウンした。だが、どちらもKOしておらず二人がほぼ同時に起き上がる。

 互いに最後の一撃を放とうとするが、ギルスの槍が僅かに速くアザレアに直撃した。

 この一撃が試合を決め、アザレアの体力が尽きた。


『薄氷の勝利ですが、最強神先取が続けてセットを取りました』

 

(……りっちゃんの反応が一瞬遅れなければやられたのは俺だった)


(最後、マスターより反応が速いりっちゃんが反応しきれなかったのはどうしてだろう)


(俺の推測だが、試合中に何度かカウンターを見せたのが効いたのかもしれないな)

 

 律戦では一度も成功はしていないが、ギルスは試合中にカウンターを数度使っている。

「迂闊に攻めればカウンターがあるかもしれない」と意識してしまえば、反射神経に優れている律でも一瞬対応が遅れる。試合の勝敗を分けたのは、その一瞬の隙であった。

  

(マスター、この試合を取ったのは大きいよ!)


 どちらが勝ってもおかしくない接戦を勝ち切ったことで、春雪が決勝へのリーチをかける。逆に律は後のない状況に追い込まれていた。


(まだ勝負は着いていないが、俺が二本先取した。りっちゃんも今まで通りのプレイはできないはずだ)


 負けられない状況ならば、律が得意な攻めも鈍るのではないかと春雪は予想する。

 春雪がリードした四セット目で、律はキャラ選択でしばらく考え込む。

 追い詰められた律が選んだのは、アザレアではなくギルスであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る