第11話 戦闘

「悪いレティシア! 一体抜ける!」

「……ん! ……任せて!」


 俺の刃から逃れた、骸骨騎士スケルトンナイトがレティシアに迫る。

 だがレティシアは決して慌てずに、一瞬にして魔術式を記述した。


 ――闇属性攻撃魔術:崩壊の魔手


 赤黒く発光する魔術式。そこから無数の漆黒の腕が現れ、骸骨騎士に触れた。それだけで骸骨騎士は跡形もなく崩れ落ちる。

 それと同時に遠方へ向かって魔術を放つ。


 ――闇属性攻撃魔術:闇槍乱舞えんそうらんぶ


 影のように黒い槍が五本出現し、後方にいた魔物に向けて放たれる。飛翔した槍は直線上の魔物を貫通し、塵へと変える。


 ……安定感が違うな。


 凄まじく戦いやすい。俺はそう感じていた。

 取りこぼした魔物を倒すのはもちろんの事、俺が倒しにくい位置にいる魔物を攻撃したり、遠方からの攻撃を魔術で防いだりしてくれている。

 騎士団長として実力のある魔術師と共闘した事はいくらでもあるが、ここまで戦いやすいのは初めてだった。

 

 


 俺とレティシアは戦闘を繰り返し、ひたすらに進み続けた。休む暇もないとはまさにこの事。少し進むだけで魔物が波のように押し寄せてくる。

 

 初めは問題なかった。

 いくら魔物が出てこようが、レティシアの死の呪いで死ぬ。しかしある地点から明確に空気が変わった。

 一言でいうならば澱んでいる。進む毎に空気がへばりつくように重くなっていった。

 そこからだ。死の呪いが効かないアンデット系の魔物が姿を現し始めたのは。


 腐った肉を纏った人型の魔物、屍人グール

 骨に僅かばかりの腐肉を纏った犬型の魔物、腐犬スポイルドッグ

 骨の身体に骨の鎧を纏った騎士の魔物、骸骨騎士スケルトンナイト


 屍人グール腐犬スポイルドッグは何の問題にもならない。王国騎士ならば俺でなくても余裕を持って対処できるだろう。

 しかし骸骨騎士は厄介だった。さすがは死界樹海とでも言うべきか、単純に強い。


 筋肉もついてない腕なのにとにかく攻撃が重く、剣の技量も凄まじい。

 すくなくとも王国騎士の副団長ほどの実力はあるだろう。

 だがそれでも俺は一振りで倒せる。


 しかしそれではダメだった。

 問題は数だ。一体倒すごとに二体、三体と増えていく。

 一振りで数体は薙ぎ払わないと追いつかない。

 

 ……二十。


 ……二十六。


 ……三十三。


 気配は今だに増え続け、俺たちを包囲するように魔物が湧いてくる。それに段々と統制の取れた動きをしてくるようになった。


 ……司令塔がいるな。


 魔力の感知範囲を広げていくと、少し離れたところに一際大きな魔力反応を見つけた。

 おそらくソイツが骸骨か騎士を生み出し、操っている魔物だ。


 ……先に叩くか。


 そう決め、一歩大きく踏み込み周りの骸骨騎士を蹴散らす。そして、俺は足に力を込める。

 しかしその瞬間、骸骨騎士スケルトンナイトたちの動きが変わった。


「……チッ」


 つい舌打ちが溢れる。

 俺の狙いに気付いたのか、骸骨騎士スケルトンナイトたちが一斉にレティシアの方へと動き出した。

 魔術師であるレティシアは近接戦が得意ではない。それでもそこらの騎士よりは強いだろうが、今は相手が悪い。


 俺は大元を叩く事を断念、すぐにレティシアの元へと向かう。


「レティシア! 防御!」


 間に合わないと判断した俺は叫んだ。

 レティシアは即座に頷き、魔術式を記述。自身の周りに防壁を作り出す。


 ――無属性結界魔術:堅牢結界けんろうけっかい


 透明な結界が、骸骨騎士たちの剣を阻む。そしてその一瞬があれば十分だった。

 レティシアの元に辿り着いた俺は、骸骨騎士を一体残らず蹴散らす。


 しかし、状況は元に戻ってしまった。

 周囲には五十近い数の骸骨騎士とその他の魔物がいる。


 ……時間が経てば経つほど不利だな。だけど剣技を使う暇もない。


 剣技を使えれば、状況を打破できる。

 しかし、使うには僅かな溜めが必要だ。この状況下では使えない。


 ……なら!

 

 俺は覚悟を決めた。


「レティシア! 合図したら十秒間だけ死塔に転移してくれ! その間にケリを付ける!」


 要は俺一人になればいい。


 レティシアは一瞬だけ、逡巡したが頷いてくれた。


「……わかった。……だいじょうぶなんだよね?」

「ああ」


 俺は力強く頷く。そして不壊剣レスティオンを振るい、目の前の骸骨騎士スケルトンナイトを数体纏めて薙ぎ払う。

 骸骨騎士スケルトンナイトたちが雪崩のように吹き飛んでいく。

 

 一瞬の間隙かんげき


 ……ここだ。


「――いま!」


 レティシアは一瞬で立体魔術式を構築、その場から姿を消した。


「スゥゥゥ――」


 俺は大きく息を吐き出し、止めた。そして腰を落とし、一歩大きく踏み込む。


 骸骨騎士スケルトンナイトは無視でいい。いくら倒したところで意味がない。ならば狙うは大元。一際大きい魔力反応。


 ――我流歩法、縮地。


 音すら置き去りにする速度で疾走する。

 そして一瞬にして魔力反応の元へと辿り着いた。


 そこにいたのはボロボロのローブを纏った半透明の老人。多種多様な魔術で、人々を翻弄する魔術師の魔物、死告霊レイスだ。

 しかし死告霊レイスにしては魔力が多い。それにただの死告霊レイスは死霊魔術なんて物は使えない。基本属性魔術だけだ。

 骸骨騎士スケルトンナイトを生み出すなんて事はできない。


 ……ならこいつは……死告卿レイスロードか。


 大昔に一体で国を滅ぼしたと言われている伝説の魔物だ。相対してわかったが、確かにこの魔物一体で軍隊に匹敵する戦力を持っている。

 小国ならば滅ぼされてもおかしくないだろう。


 ……だけど終わりだ。


 懐に入られた魔術師ほど弱いものはない。

 死告卿レイスロードは今だにあらぬ方向を向いている。まったく俺の速度について来れていない。

 だからそのまま首を薙ぐ。

 すると空に溶けるようにして消失した。カランと音がして地面に魔石が落ちる。


 それと同時に術者のいなくなった骸骨騎士スケルトンナイトたちも霧散した。こちらは魔術によって生み出された魔物なので魔石は落とさない。


 あとは屍人グール腐犬スポイルドッグだけだ。

 俺は再び縮地を使用して、残党の殲滅を開始した。

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