廃墟での肝試しは罰せられることがあるのでやめましょうね。

八月 猫

第1話 廃病院の肝試し

 よく廃墟で行われている肝試し。

 所有者のいる建物に入ったりするんですから、当然良くないことは分かっているんですけどね。

 特に動画撮影をしてネットに上げたり、中で騒いだりすることが増えた昨今、すぐに警察に通報されたりします。

 まあ、そもそも建物によっては古くなっていたりして危険ですよね。こういうのって夜に行くものだったりするので余計に。


 でも少し前までは、肝試しといえばお墓か廃墟と相場が決まっていまして、当然お墓もアウトではあるんですけども……。


 これは今よりも結構昔のお話。

 私と友人が肝試しをしたことで手痛い目にあった話です。

 出来ればこれを読んだ方が肝試しとして廃墟を選ぶことをしなくなればと思います。


 私の地元には山裾に廃病院がありました。

 それこそ昭和の中期ころから放置されていたとかいないとか、父親に聞いてもはっきりしない頃から使われずに放置されたままの建物でした。

 外観はコンクリートで出来ている3階建てですけど、中に入ると床が木で出来ている昔の学校のような構造の病院で、そのことからも時代を感じました。


 当時の私は大学生で、夏休みのある日、地元の友達4人でそのうちの1人の家に集まって遊んでいました。

 誰がそんなことを言い出したのかは覚えていないんですが、夜も更けた頃に誰かが肝試しをやろうと。あの病院に行こうと。急にそんなことを言い出したのです。

 その当時はみんな当たり前のようにそんなことをやっているような田舎でしたから、私も特に罪の意識も無く賛同しました。

 前々から幽霊が出るという話を聞いていて興味ありましたから。


 その友人の家は、その時は他の家族が出かけていていなかったので、電気を消して戸締りをして、懐中電灯片手に庭に止めてある車に乗り込みました。

 この時点で結構みんなのテンションは高かったです。

 幽霊が見たいのではなく、このシチュエーションに興奮している子どもですね。


 車で20分ほど走った茶臼山の麓にその廃病院はありました。

 周りには民家も街灯も何にもなく、病院前の道を抜けていった先も山へと続いた先で途切れているような辺鄙な場所。

 だからこそずっと放置されていたのかもしれません。


 病院の建物前は土が露出したままの空き地が広がっていて、道路との境に柵はあるんですけど、ちゃんと車が通り抜けられるだけの隙間が作られていました。

 多分誰かがその部分の柵を壊していたんですね。


 敷地に入ると車のヘッドライトに病院の建物が浮かび上がってきます。

 この時点でホラーです。

 今からホラーゲームが始まるよっていうオープニングムービーです。


 車内のテンションはこの時がマックスだったと思います。

 みんな口々にウオー!とか騒いでいた記憶があります。


 入り口前に車を横づけにして停車し、エンジンを切ってしまうと周囲は真っ暗闇。

 それぞれが手に持った懐中電灯の光だけを頼りに入り口へ向かいました。


 ガラスが割れて無くなっている鉄で出来た扉がありましたが、別に鍵がかかっているということはなく、手で押すと簡単に開いて入ることが出来ました。


 中に入ると少しえたような臭いと、藪の中で草刈をしている時のような青臭い匂いがしました。


 玄関を上がると、そこからは木の廊下です。

 軽く軋む音と、自分たちの足音が廊下に響きます。

 この辺りから少しずつ怖さのせいでテンションが下がっていきます。

 自分たちの好奇心を後悔するまであと少しです。

 それがはっきり分かるのは、誰一人としてどこかの部屋の中に入ろうと言うことなく、ただただ4人で廊下を歩いているだけなのです。


 しかしこれは肝試し。

 最初に怖いとか帰ろうと言った奴の負けなのです。

 そこには男も女も無い真剣勝負の場。

 決して負けてはならない戦いが始まっているのです。


「なあ、どっかの部屋に入らな――」


 私はそいつのお尻を全力で蹴りました。

 馬鹿なの?何で自分から勝負のハードル上げようとするの?

 BET釣り上げてお前に何の得があるんだ?

 ここに捨てていくぞゴラァ!!


 お上品なわたくしは当然そんなことは口には出しませんことよ。



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