第3話 ギャルは元彼のプレゼントをゴミ箱へぶち込む

「はぁ……」


 俺はショッピングモールの通路でひとり溜め息をつく。ギャルの言葉にちょっと期待してしまった自分が恥ずかしい。


『彼氏にフラれたから、ちゃんと責任取って!!』


 なんて言われたから、俺が新しい恋人として激かわギャルと付き合えばいいのかなって思うじゃん?


「違った……」


 俺はスマホアクセサリー店の店内で楽しげに商品を物色している制服ギャルへと目を向ける。


「まさか『新しいストラップ』が欲しかっただけとは……」


 再びため息が出る。


 そりゃ、確かに言ったよ? 先週、彼女を帰りの電車へ乗せるために『もし彼氏にフラれたら何でも好きな物を奢ってあげる』って。


 だって、ストラップがちょっと壊れたぐらいで恋人と別れるなんて普通思わないだろ?


 というか、よくよく聞いたら別れた原因はストラップじゃなかったし。


 ギャルいわく――


 プレゼントの一部を紛失してしまったことを彼氏に謝ろうとしたら、先に別れ話を切り出されたらしい。


「でね! 聞いてよ、オッサン! アイツ、二股かけてたんだよ! 信じらんないし! あんなクズ、こっちから願い下げだし! すぐに捨ててやったわ、アイツから貰ったストラップ!」


「えっ、捨てたんですか? この前、あんなになるまで探したのに?」


「当たり前じゃん! あんなもん、ソッコーでゴミ箱行きだし!」


 そう言って彼女は元彼のストラップをゴミ箱へぶち込む様子を再現してくれた。


「――あれはちょっと笑えたな、ふふっ」


 現在、俺は学生鞄を抱えながら通路でひとり、彼女がストラップを選び終えるのを待っている。


「ねえ、オッサーン! あーしのスカート見てないでさ。ちょっとこっち来てー!」


「ちょっ!?」


 その場に居合わせた買い物客の視線が集まる。俺は駆け足気味に彼女の元へ向かい、小声で訴えかける。


「スカートなんて見てませんって!?」


「え? だってオッサン、こっち見ながらニヤニヤしてたじゃん! それよりさ、見て見てー。どっちがいいかな?」


 ギャルは嬉しそうに2つのストラップを見せてくる。どちらも前に付けていた物と同じくギラギラしたチェーンタイプだ。


「そういう感じの物が好きなんですか?」


「え? 好きって言うか、こういうの以外つけたことない」


 正直、どちらもピンと来ない。俺はディスプレイされた商品に目を向ける。


 この子見た目は派手だけど、こういう『ビーズタイプ』の可愛らしい感じの方が似合うと思うんだけどな。


「オッサンはそういうのが好きなの?」


「うおうっ!?」


 突然ギャルにくっつかれて思わずのけ反ってしまう。


「なにその反応! オッサン、焦り過ぎじゃん! ウケるー!」


 ギャルは楽しそうにケラケラと笑い出す。


 俺は女友達がわんさかいるような陽キャじゃないんだ。恋人でもない女の子に急に密着されたら普通に焦るって!? というか、めちゃくちゃいい匂いするな、この子!!


 いったん落ち着こうと息を整える俺の隣で彼女は商品をひとつ手に取る。それは花型のビーズが散りばめられたピンク色のストラップだった。


「あーし、これにしよっかな!」


「え? それでいいんですか? 前の物と違って、かなり可愛らしい感じですけど?」


「うん! だってあーし、お花好きだし! ところでオッサン、彼女いたりする?」


「いえ、いませんけど……?」


 唐突だな。さすがギャル(←偏見)。


「じゃあ、オッサンのはこれね! の緑色!」


「え?」


「昨日貸してもらったハンカチ、アイロンで焦がしちゃったって言ったでしょ! そのお詫びに、あーしがオッサンに買ってあげる!」


 いや、まあ。その心がけは立派だが。職場にお花のストラップをつけて行けと?

 

「別にハンカチのことなら気にしなくていいってさっきも言った……って、いない!?」


 ギャルはすでにレジへ向かっていた。俺は慌てて彼女に追いつき学生鞄を渡す。


「あの、これ」


「あははっ。オッサンに持ってもらってたこと忘れてたんだけどー」


 ギャルはテヘペロしながら財布を取り出す。可愛いーな、おい!


「あ……」


 財布を開いたギャルはなぜかフリーズしている。


「ん? どうかしましたか?」

 

 ギャルは大きな瞳をウルウルさせて俺の顔を見つめてくる。


「お金なかった……オッサン、貸して……?」


 チワワみたいでキャワワ!


「ふふっ。高い物でもないですし、まとめて払いますから心配しないでください」


 俺はストラップ2つ分の代金をカードで支払い、彼女とともに店を出た。


「わはあああ! 超可愛いー!」


 隣を歩くギャルはパッケージされたままのストラップを眺めて目を輝かせる。喜んでもらえたようで何よりだ。


 これにて俺はお役御免ということになる。彼女と過ごす時間がちょっぴり楽しくなってきただけに残念でならない。


「約束通りストラップも買えたことですし、そろそろ帰りましょうか? 駅まで送りますよ?」


「何言ってんの! 次はクレープに決まってんじゃん!」


「え?」


「オッサンにも食べさせてあげるー」


「食べさせる?」


「そお! あーしがね『あーん♡』ってしてあげるうー」


「……」


 しょーがないなー! ちょうど俺も小腹が空いてきたところだし。それに、何でも奢ってあげるって言っちゃったしなああああ!


「お店って1階でしたっけ?」


「オッサン、ノリノリじゃん! あーしが連れていってあげるー!」


 俺の腕に制服ギャルの腕が絡んでくる。お肌がスベスベで気持ちいいじゃあないか!


 延長戦の始まりである。

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