第22話 先代魔王は天然である



 ロケバスが着いたのはは国道から枝道に入って十分ほど走ったところにある住宅街だった。

 その一角だけは軍用のコンクリート壁や、鉄条坊で今でも厳重な管理体制が敷かれていた。

 表に立つ警察官にドライバーはカードを見せると、中へと通された。


 今回のオフ会の現場──D級ダンジョン、ガリル洞窟=三軒茶屋である。


 かつての大戦で更地になった場所に作られたらしいロータリーにバスが止まると、一斉に下車する。

 ラウラもまた肉侍とともにロケバスを降りた。


 すると、停まっていたもう一台のロケバスから降りてくる男たちがなにやら騒然としていた。


「何事だ?」

「ああ、きっと彼のことでござるな」

「彼?」


 ラウラが訊ねると、肉侍は頷いてロケバスから丁度降りてくる一人の男を指し示す。

 それはラウラと──外見上は──同年代の若い青年だった。

 それだけではなく、この場にいる中でも特に顔の造形が優れており、身長もまた180センチメートルほどありそうなほど高かった。服装も当然、洗練されており、ラウラには人間のセンスはよく分からないが、いわゆる〝オシャレ〟に該当するような恰好をしている。


「何者なのだ」

「ご存じありませんか? 超有名クラン《レッド・ガントレット》の会長・アツシでござるよ」

「ふうむ? 強いのか?」

「ええ、中々の手練れでござる。ライセンスランクはカエデたそと同じA級でござるし」

「ふーん」


 ライセンスランクとかいう聞き慣れない言葉が耳を通り過ぎていったが、ラウラはそのまま眺める。

 そのアツシとかいう男は他の男に囲まれながら、進路上のラウラの近くを通りがかる。

 すると、不意に彼と目が合った。

 ラウラは違和感を覚えて、眉を寄せる。


「……へえ? 同い年くらいの奴がいたんだ。しかも、割とまともそうな奴がさ・・・・・・・・・

「小僧。今、我を貴様と同列に並べたか?」

「は?」


 アツシの表情のみならず、その場の空気が凍り付く。

 アツシは立ち止まると、目を吊り上げてラウラへ詰め寄った。


「お前、いま僕に向かってなんつった? てか、は? 〝我〟? お前、相当ヤバイやつじゃん」

「ら、ラウラ殿、い、いったい何を……!」


 ラウラは首を横に振って、


「そうか……我の偉大さに当てられて、自分も同様の立場に至ったような気がしてしまっているのであるな……哀れであるな。しかし、我に憧れる気持ちもよく分かる。大丈夫だ、我は貴様を責めぬからな」


 慈悲深い優しい目をしながら、アツシの肩をぽんぽんと叩いた。

 逆に、見る見るうちにアツシの額に浮かぶ青筋が増えていく。


「さっきからお前、一体何言ってんだ!? おいっ、喧嘩なら買うぞ!!」


 すると、騒ぎを聞きつけたマネージャーが駆け寄ってくる。


「ちょっとちょっと、何の騒ぎですか!」

「コイツが頭おかしいこと言ってきて喧嘩を吹っかけてきたんだ!」

「アツシさん、勘弁してくださいよ~。今日はそういう・・・・人たちもいるって事前に伝えておいたじゃないですか~」

「……ッチ。早くカエデちゃんのとこに連れていけよ」

「だから今、それで呼びに来たんですよ。──皆さん、こちらです! ついて来てください!」


 そう言って、マネージャーはファンたちを率いて、ロータリー沿いに並ぶ軍用テントに向かって歩き出した。

 それに続こうとしたラウラに、アツシが寄ってきて耳打ちする。


「……お前、後で覚えておけよ」

「? 悪いが、我の記憶力はいい方ではないのだ」

「そういう意味じゃねえよ!!?」


 そうして、ラウラたちはカエデが待っているという軍用テントへと向かった。



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