第20話 先代魔王は人間に擬態する



『【緊急速報】世界改変を検知 ──気象庁速報ネット』

『国連が世界87カ国に対し、緊急避難警報を発令』

『インドの著名な予言者「世界はじき滅びる」』

『指定危険団体・真の魔王を信奉する会〝ラウラ・スタローグ〟は改めて先代魔王復活を主張』


 ──シロが無表情で見せてきたスマホの画面にはそんな文字が躍っていた。


「あの……シロ……さん?」

「これは、一体、なんなのですか」

「わ、我は何もしらぬ」

「この前、洞穴ここを出ていかれるときに妙なことを口走ってらっしゃいましたよね? ──我、ちょっと世界を書き換えてくる、とかなんとか」

「…………」


 全力で視線を逸らすラウラ。

 この洞穴はラウラの魔術によって最近は常に適温に保たれているのにも関わらず、冷汗が止まらないのはなぜだろう。


「というよりシロ、スマホを持っていたのだな」

「私、魔王軍では表向き上、敵情視察の任にも就いていますので」

「そういえばそうであったな……」


 こう見えてシロは形式上は当代魔王の直属の部下なのである。


 ラウラの全裸事件から一週間。

 実務に追われていたシロは久しぶりに、このラウラの臨時の住処──もとい封印指定区画に訪れていた。


 シロは自分の身体を抱き寄せて、顔を真っ赤に染めながら言う。


「あ、あの時、わ、私の身体にあんなことをして放置しておきながら、なんていう騒ぎを起こしているのですか……!!」

「我は何も知らぬ。何も知らぬぞ……」

「現実を見てください! 外の世界は大事です!!」


 ふーっ、ふーっ、と荒い呼吸を繰り返して、シロはまくし立てる。


「こんなことばかり繰り返すようなら、大人しく封印されていてください!」

「ぐ……、ぐぬぬ」


 すると、ピコン、とラウラの投影していた画面から通知音が鳴る。

 それを見て、慌てて布団の上から起き上がった。


「ま、まずいっ、もうこんな時間か!」

「まだお話は終わっていませんよラウラ様! まさかまた配信ですか!?」

「いや、違うのだ」


 ラウラは首を横に振り、


「──今日はこれから、カエデたそのオフ会があるのだ」

「はああああ!?」


 シロは目を剥いて絶叫した。


 ラウラはせっせと事前に準備していた──もとい魔術で生成しておいた──カジュアルな服装に着替え、靴を履き、バックを背負う。

 そこに立っていたのは、冴えない男子高校生の日曜日風の恰好をしたラウラだった。


「ふふん、どうだ。完璧であろう? 我、今、完全に人間に擬態しきっている……!」


 どや顔を浮かべるラウラ。

 しかし、シロはそれをスルーして、さらに目尻を吊り上げる。


「何を言っているのですか! こんな世間は大騒ぎになって──なによりも魔王軍本部だって今、世界改変の件で大騒ぎなんですよ!? 人間が攻めてくる予兆だとか言って全国の警戒レベルを一段階上げる予定ですらあるんですから!!」

「ふむ、ではなおのこと我がカエデたそのフォローをせねばなるまいな」

「どうしてそうなるんですか!!?」


 すると、シロのスマホが鳴動する。

 見れば、スマホの画面上に念話の魔法陣が描かれていた。

 ……どうやら魔術もある程度、デジタル化できるらしい。

 シロはハイテク少女なのだ。


「……もうっ、誰ですか、こんな時にっ!」


 シロは苛立ち交じりに電話を取り、


「はい、第七師団のシロです。……はい、……はい。は? えぇえ!? エルフの郷の近くで人間が焼畑農業を始めた!? そんなのはそちらで対応してください! ウチはあくまで遊撃部隊であって、魔王軍の便利屋じゃないんですよ!? 適当に水精霊ウンディーネを手配するなりして防止策を検討してください!! ──いや、まってください、だからウチではやらないって……ああ、もうっ!! 電話切られたあ!」


 涙目を浮かべてこちらを見てくるシロ。

 そんなシロに向かって、ラウラは敬礼すると、


「お勤めご苦労さまである、我が愛しの秘書シロよ。──では、我はオフ会に行って参る」

「他に言うことないんですかあ、ラウラ様!?」


 シロがあまりに不憫だったので、ラウラは│水精霊ウンディーネ召喚用の先代魔王特別製の術式を渡しておいた。


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