第19話



 『呪いを解除するためには、愛する者と気持ちが通じ合うこと。』



 そう一言で言っても、人によってその場面は違ったようだ。



 ある人は、愛する相手へ告白し了承を得たとき。



 ある人は、愛する相手と口づけしたとき。



 ある人は、愛する相手との子どもが生まれたとき。



 ある人は、愛する相手と何年も共に生きた後で。



 ダミアンから渡された報告書には、口づけ以上の行為で呪いを解除されたケースも書かれており、セリーヌは思わず顔を赤らめた。



「これらと同じ行為をしたからと言って、呪いが解除されるわけではありません。」



 魔女は複数名おり、呪いを掛ける魔女によっても個性がある。そして呪いを掛けられた理由、掛けられた人間も当たり前だがそれぞれ違いがあり、一概に同じことをすれば呪いが解けるとは言えない。



「セリーヌ。」



 ルーカスは固い声色でセリーヌの名を呼んだ。



「はい。」



「どうか知っておいてほしい。僕は呪いを解除したいなんて全く思っていない。だから、セリーヌへ掛ける言葉も、セリーヌへ触れることも、全て僕がしたいと思ってするものだ。呪いの解除とは関係ない。」



「あ……。」



 セリーヌは納得した。きっとこの言葉を聞いていなかったら、そして後から呪いの解除方法を知ってしまったら、ルーカスがこれまでくれた言葉も、抱き締められて胸を高鳴らせたことも、今重ねている手すら疑ってしまっただろう。『呪いを解除するために、自分に良くしてくれていたのだ』そんな考えに捉えられていた筈だ。




「あの、ルーカス様。」



「うん?」



 セリーヌは今まで抱えていた疑問を尋ねることにした。



「どうしてルーカス様は私と婚約してくださったのですか?」



「え、そこから?」



 思わず間抜けな声を漏らしたのはダミアンだ。ルーカスは「ダミアン。」と低い声で呼び、ダミアンの方を睨んだがダミアンは謝る素振りは見せない。



「私は使用人全員の気持ちを代弁したまでです。」



 セリーヌがキョロキョロと辺りを見渡すと、部屋の端に控えている護衛やメイドたちが大きく頷いている。



「私たちは、殿下とセリーヌ様が婚約されてから二週間、毎日イチャイチャしているお二人を見せ付けられてきたんですよ。」



「別に見せ付けてはいない。」



 ルーカスの不満そうな言葉を無視し、ダミアンは続けた。



「それがセリーヌ様へお気持ちを伝えていないなんて、夢にも思いませんよ。」



 そう言うとダミアンは控えていた護衛やメイドたちを部屋から出し「少しの時間、二人にしますからちゃんと話してくださいよ。」と言い残し、自分も退室した。


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