捻じ曲がった「正論」




——さっきまでとは打って変わり、場内に大歓声が響いた。


それもそのはず、聖剣のアクティベートなど、実際に見ることはほとんど無いに等しい。それを実際に見れたとなれば興奮もするだろう。


おまけに、聖剣が強い光を帯びている。一週間前に突きつけられた時は光ってなどいなかった聖剣が、今は眩いほどに輝きを放っている。


「……やっと使う気になったか」

「君が使わせたんだ。——後悔するなよ」


 今度はクルトが間合いを詰めてきて斬りかかる。それを、俺はギリギリのところで躱した。


 早く鋭い攻撃、先程までより明らかに強くなっている。

 そう、これだ。この状態のクルトを倒してこそ、俺の強さの証明になる。


「聖剣を持った途端に生き生きとしやがって。さっきまで一方的に殴られてたことを忘れんじゃねぇぞ!」

「忘れてなんかいない。が、もう二度と一方的に殴れると思うな」


 攻撃が止んだ一瞬をついて攻撃を繰り出す。が、それは容易く弾かれて、反撃として無数の青い剣閃が襲い掛かってくる。


「——クソッ!」


 言わずもがな、聖剣は刃の切れ味も凄まじい。ドラゴンの鱗ですら断ち切るほどに。

 そんな、一太刀でも浴びたら体が真っ二つになる斬撃を、木剣で受け止められるはずがない。受け止めようとすれば木剣ごと真っ二つになるだろう。

 だから、いちいち斬撃に対して側面から剣を当てて、弾くように防御するか躱すしかないのだが——、それにも限界がある。


「……少しは、君に傷つけられてきた人達の気持ちが分かったんじゃないか?」

「ふざけるな! かすり傷を負わせた程度で調子に乗りやがって……」


 その言葉通り、受けきれなかった斬撃がかすり傷となって俺の身体に刻まれていく。クルトが聖剣をアクティベートさせてから、短時間で既に数えきれないほどのかすり傷を負わされた。


 ——だが、負けるわけにはいかない。

クルトが騎士団長になったところで何も守れやしないのだから。

クルトより優れていることを証明するために、騎士団長になるために、こんな所で負けるわけにはいかない。


「聖剣を使ってようが、お前なんかに負けてられねぇんだよ‼」

「…………だとしても、君が他人を傷つけていい理由にはならないはずだ」


クルトが言ったことを無視して、今度は俺がクルトに斬りかかる。全力で放った渾身の連撃——だが、その攻撃は難なく防がれた。

 一言も喋ることなく、涼しげな表情をして、俺がどんな攻撃を繰り出そうとも全て簡単に防がれる。

その態度が際限なく俺の怒りを沸騰させていく。


「————ッ! 何か言ったらどうなんだよ‼ クルト——ッ‼」


 その言葉と重ねて剣を振り下ろす——が、これもまた防がれた。


「——テメェ、いい加減にしろよ……ッ!」

「……いい加減にするのは君の方だろう。ユーリス」

「——あぁ⁉ なんだと?」

「いい加減にするのは君の方だろう——そう言ったんだ」


 クルトはそう言い放ち、受け止めていた俺の剣を振り払った。


「今までの試合で——君はどれだけの人を傷つけた‼」

「——————」


 クルトがなぜ怒りに震えているのかは知らんが、珍しく声を荒げた。事実を見ていないコイツが説教をする権利などないだろう。


——そう思ったが、俺の口は動かなかった。


「今日だけじゃない、一週間前のアレもそうだ‼ 相手が襲ってきていたからと目を瞑っていたが——本当は殺す必要なんてなかった‼」

「————だから?」

「——ッ‼ 何でそこまで人を傷つけられる⁉ 何で他の人の気持ちを少しも考えない‼ 他人を思いやれなかったら魔物と変わらないだろう‼ 違うかユーリス‼」


 肩を上下させて、荒く呼吸をしながらクルトがそう言った。相当頭にきていたのか拳を握り、怒りに打ち震えている。 


「他人を思いやれなかったら魔物と変わらない——か。だったら、お前らは他人を思いやっているのか?」

「あぁ、もちろんだ! 君が傷つけてきたクラスメイトたちは誰も、他の人を傷つけていないじゃないか‼」


 クルトが一言喋るごとに、俺の怒りが込み上げてくる。

どこまでもクルトは現実を見ようとしない。それがウザく、目障りなんだ。


「——違うな。他人を思いやってなんかいない。お前らはただ、和気あいあいとやってるだけだ。思いやってるふりをして、実際には自分のことしか考えていない」


 俺は唾を吐き捨てるようにクルトに言い、睨みつけた。


「クルト……お前、騎士は人を守る存在だとか言ってたよな。だったらなんで、王国の人間は毎年死ぬのに騎士団は死なない? 普通は逆だろうが」

「それは——ッ」

「王国民の命より騎士団に所属している人間の方が全てにおいて優遇されるからか? 王国民の命すらまともに救えない騎士に存在価値なんかないだろ」


 言い放ち、剣をクルトに向けて構え直す。


「だから殺すんだ。思いやりも、騎士としてのプライドも無いからな」


 ——そうして、俺は再びクルトに斬撃を放った。

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