「追われている」




「ラビ、お待たせ……」

「あ、やっと来た——って、お姉ちゃんどうしたの……?」


 シラが壊れてから数分後、飯屋の前で待っていたシラの妹——ラビと合流した。


「あぁ、えっと……。君のお姉さんはちょっとショックを受けて傷心中——」

「——ただの自業自得だ」

「——げ。なんでアンタがここに居んのよ。ラルカディ」


 クルトのまどろっこしい説明に割り込んで端的に状況を説明した——。その俺の声を聴いた途端、ラビが顔をしかめ、明らかに嫌悪感をむき出しにした。


「ねぇ、お姉ちゃん。何でこんなのがここにいる訳?」

「あれ……言ってなかったっけ。ユーリス君が私をグロウハウンドから守ってくれたんだよ?」

「——コイツが? ……信じられないんですけど。クルト君の方じゃなくて?」


 姉と同じように黒い髪をした美少女。さすがは姉妹と言うべきか、姉と違うところは鋭い目つきと、貧相な体つきという所くらいしかない。

 そしてどうやら、妹の方は割とはっきりモノを言う性質の人間らしい。冗談ばかり喋る姉より優秀な人間なのは間違いないだろう。


 ——だが、なぜ俺がクルトと比較されないといけないんだ。


 俺とクルトなど比べ物にならない。それ程、俺の方が優れている。


「なんだお前、俺がグロウハウンド程度に負けるとでも言いたいのか?」

「違うわよ。私が言ってるのは「アンタは人を助けるような人間じゃない」ってこと」

「ほう——。よく分かってるな。確かに俺はお前の姉を助けてなんかいない。俺は俺の目的を達成しただけだからな」


 素直に感心した。俺がどれだけ「助けたわけじゃない」と言っても聞く耳を持たなかった姉の方だが、妹の方は俺が喋ることなく理解しているとは。


「——ほら、やっぱり。……そんなことより、コイツが来るなら先に言っといてよ。お姉ちゃん。知ってたら私来なかったのに」

「あはは——ごめん……」


 妹にまで責められ、もはや消え入りそうなシラを必死でフォローしようとするクルト。


 ——そんな、俺以外の奴が和気あいあいと会話している中、俺は申し訳程度に掲げられた店の看板に目をやった。


 店の入り口に掲げられた「食帝・ラーフィ」という黒地に書かれた白い文字が目に入る。


 食帝——とは、いったい何なんだ? 食の帝王ということだろうか。だとしたら多少は興味を惹かれる。

 

 そんな、聞いたことの無い店名に興味が沸いて、店の全貌を見ようと更に目線を上げた時——。


 屋根の上に、黒い服を全身に身にまとった三人組が立っていた。


「——————あ?」

「…………! 殺れ!」


 その掛け声と共に、黒服たちが一斉に視界から消えた。直後、三方向から鋭い殺気を感じる。

 

 その殺気が俺の脳に危険信号を出し、俺は状況を理解した。

 俺達はいま、何者かに襲撃されている——。


「————伏せろッ‼」


 咄嗟に叫び、持っていた剣を抜く。

 その間にも黒服たちは距離を詰め、もう、剣を振れば当たる位置にまで迫っていた。


「——え、なに……ッ⁉」


 未だ状況を理解できてないシラが出した疑問の声と、血しぶきが上がったのはほぼ、



 ——同時だった。

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