久しぶりの学園




「どうかな、久しぶりの学園は。ユーリス君」

「相変わらず……馬鹿と雑魚しかいないな」


 久しぶりの教室を見渡した後の感想に「相変わらずだね……」と苦笑いをするプリック。このやり取り自体は懐かしいものがある。

 

 謹慎処分の間の一カ月、プリックとはまともに会うことが無かった。まぁ、プリック以前に学園の人間と面会すること自体なかったのだが。

 まさか「冗談女」ことシラと会った後、誰とも会わないとは想像していなかった。


 特に、プリックとは同じ寮の人間なのだからもっと顔を合わせることになると思っていたのだが——数にして三回くらいしか顔を見ていない。それでも女のような見た目は健在だ。


 男児、三日会わざれば——何とやら……ということを言っている奴が居たが、プリックの外見はどうやら変わらないらしい。


「——少しはみんな変わってると思うよ。ユーリス君がいない間、実践訓練とかもやったし」

「実践訓練……?」

「そう。王都のマテリアル防壁の外に出て実際に魔物を討伐したんだ。……まぁ、ユーリス君は既にやってたけど」

「——へぇ。そんなことをやってたのか」


 道理で学園の奴と会わないわけだ。

 この一カ月、自室で体づくりをしていた俺だが、昼や夜に学食へ行っても明かりが付いていなかったことへの説明もつく。

 寮生が俺しかいないから、ばーさんも「朝だけは用意する。昼と夜の飯は外で食べてきな」なんて言っていたのか。


「多分、みんな確実に強くなってると思う。この一カ月はほとんど実践訓練しかやってなかったから」

「それはよかった。クラスメイトが雑魚だと俺のやる気も落ちるからな」

 

 実際にどれほど強くなったのかは知らないが強いに越したことはない。

 仮にもこいつらは騎士団に入団するかもしれない奴らであり、俺が騎士団長になった後の部下ということになる。

 戦場において恐ろしいのは、有能な敵より無能な味方なのだ。俺の足を引っ張らない程度には強くないと困る。


 ——のだが、一カ月前と変わらないように見えるのは……気のせいだろう。


 実践訓練を一カ月やってもなお、弱いまま——なんてことはないはずだ。

 だから、俺の近くで「美人な教師がいた」などと興奮している奴らも少しは強くなっているハズなんだ。初日から何も変わっていないように見えるが。


「……それにしても、グロウハウンドをソロ討伐するなんて凄いね。流石ユーリス君! って感じだよ」


 俺が全く変わっていないように見えるクラスメイトに疑いの目を向けていることに気付いたのか、プリックが慌てて話題を振ってきた。


「冗談女から聞いたのか。……俺が倒したわけじゃない。勝手に倒れたんだ」

「謙遜しちゃってさ。ユーリス君の実力なら簡単に倒せるでしょ……って、冗談女って誰の事?」

「たしか学園医とか言ってたな。シラって名前の……冗談しか言わねぇめんどくさい奴だ」


 俺がそう言った途端、教室が大きくどよめいた。目の前にいるプリックでさえ、目を見開いて驚いている。


「——? 俺は間違ったこと言ってないからな。実際に会って見りゃ分かる。口を開いたら冗談しか言わない人間なんだ。あの女は」


 だから、あの女の話すことは全部疑ってかかれ——と言った所で、プリックが俺の肩を掴んで前後に揺さぶった。


「ユーリス君‼ 君知らないの⁉ シラ先生は超が付くほどの有名人なんだよ⁉」


 俺を揺さぶりながら言い切ったプリックの声が、授業が始まる前のやや騒がしい教室に響き渡った。

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