孤高の騎士? いいえ、ただの寂しがり屋で「素直になれないだけ」です。

豆木 新

朧げな過去の記憶

 ——泣いている子供ガキが、燃え盛る家の前で泣いている。

 日が沈んでいるというのに、家々を燃やしてなお燃え盛る炎が空を明るく照らしていた。耳をすませば近くに人がいるのか、阿鼻叫喚の悲鳴が聞こえてくる。

 そんな、どこか見覚えのある懐かしい風景。

 

 懐かしい——そう思えるのは当たり前だった。

 なにしろ、この悲惨な光景は実際に俺が体験したものなのだ。

 かなり前の出来事だが忘れられない、忘れることなどありえない記憶。

 

 ——この時、俺は魔物に家族を殺されたんだ。


   ***


「—— まだ家に家族が残ってるんだ! 助けてくれよ!」

「無理だ、ユーリス…… 。お前の家族はもう…… 」


 子供の叫び声と同じか、それ以上に悲痛な声が俺の名前を呼んだ。途端、瞼の裏に夜の暗闇のなかで燃え上がっている村の光景が浮かぶ。


「そんなはずない! 俺の家族は生きてる! 父さんも母さんも…… 姉ちゃんも!全員生きてるはずだ!」


 多くの家が燃え尽きて倒壊していくその中の一つ、まだ倒壊までには至っていない家の前で大人に掴みかかる子供の姿。—— その姿は間違いなく、俺の子供の頃の姿だ。


「無理だって言ってるだろ⁉ 俺たちじゃ魔物に敵わないんだ—— ッ‼ だいたいお前、首の所ケガしてるじゃないか! 人の心配してる場合じゃないだろ‼」

「こんな傷、痛くないんだ! それより家族を助けてよ‼ 大事な家族なんだ‼ お願いだから—— ッ‼」

「無理なものは無理なんだ‼ ここに留まってたら俺たちも魔物に襲われて死ぬんだぞ⁉ それでいいのか—— よく考えろよバカ‼」


 今でも鮮明に思い出せる。

 村が魔物に襲われて、家族が死んでいった時の—— 記憶。

 周りの大人に助けを求めて、それでもどうしようもなかった。


 泣き喚いて助けを求めることしか出来ない、俺の嫌いなガキの頃の記憶。


「…… 何で、だよ?どうして…… ?」


 ふいに子供が—— 小さい俺が泣き出した。


 この後に俺は、燃えて崩れていく家を見ながら魔物に復讐を決めたんだ。家族を殺していった魔物を絶対に許さない——と。


   ***


 だから俺は、ひとまず最強を目指すことにした。

 どんな魔物だろうと必ず殺せるように。

 ——ドラゴンだろうが、ゴブリンだろうが。

 強さに関係なく魔物を根絶やしにできるように。


 そう決意した日から、既に死んでしまった家族へ向けていた感情は全て魔物への復讐心へと変わっていた。

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