第7話 虎穴

 ソレントの武器庫はとあるコーヒーショップの地下に存在する。昼間は隠れ蓑としてコーヒーショップとして営業し、営業時間外となる深夜にはエージェントたちの住処へと変貌する。武器庫と言ってもただ武器を貯蔵しているわけではなくエージェントの任務に合わせた武器の選定と販売を管理人が行っており、特にソレントの武器庫は非常に評判がよくシンも頻繁に足を運んでいた。


(裏口から間を空けて3回ノック……前来た時と同じだな。)


 今宵も武器を調達しに世界中の殺し屋が来店していた。


(今日も賑わってる。それならあの手で行くか。)


 シンは店の盛況っぷりを見てすぐさま準備を始める。


(最低でも銃一挺とマガジン4つは欲しいところだが……わがままは言ってられない。イイの持ってきてくれよ?)






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(俺はウルブス。いずれ伝説になる男だ。


 ついに俺のところにも暗殺の依頼が来た。こりゃあボスからの信頼の証ってことで間違いねぇ。依頼自体は3週間先だが、張り切ってもう武器の調達に来ちまったぜ。俺にしちゃ高い買い物だったが、手を抜くわけにもいかないしな。


 十全な準備こそプロ意識の表れ……やはり俺こそが伝説の名を冠するにふさわしい。


 シンの野郎も馬鹿をやったもんだ。ま、俺に追い抜かれる前に追放されたってのはある意味幸運とも言えるがな。


 そもそも殺しの出来ねぇ半人前の癖につけあがり過ぎたんだよ。


 あんな奴タイマンならぜってー負けねぇのに。まだイタリアにいるらしいし、早いとこ俺の前に────)


 男がそう考えながら道を歩いていると、向こうから歩いてきた老人と肩がぶつかってしまった。男の方は何事もない様子だったが、ぶつかった老人はよろめきその場に尻餅をついてしまった。


「いたた……」


「…………ん? おいおい爺さん、アンタがぶつかってきたんだぜ。」


「えぇ、えぇ、そうですとも。本当にすみません。」


「ったくよぉ。気を付けてくれよな。」


 そのまま男はその場を後にした。


(シンの方の成功報酬も馬鹿にならねぇからな。早く出てきてほしいもんだぜ。


 俺はウルブス。いずれ伝説になる男…………)




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「ふう。久しぶりだったけど衰えてなかったね。」


 シンは老人のマスクを脱いで一息つき、戦利品である黒い箱を確認する。箱を空けると中にはハンドガンと6つのマガジンが梱包材と共に入っていた。


(よし、十分すぎる。あいつ新人ぽかったしセットで買ってくれるのを期待して正解だったな。さてと、長居しても危ないし早いうちに戻ろう。)


 シンは周囲に気を配りながらそそくさとその場を後にした。




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 ホテルに戻ったシンは静かに部屋の扉を開ける。だが扉を開けた瞬間、その気遣いが無駄に終わったことをシンは確信した。


「ただ……いま。」


「………………」


 時刻は午前4時半頃。普通の子供なら寝ていて当然なのだが、夕食後すぐに眠ってしまったアメリアはかなり早くに目を覚ましてしまった。アメリアは帰ってきたシンをただ黙ってじっと見つめていた。その瞳にはうっすらと涙が浮かんでいた。


「ご、ごめん。見捨てたわけじゃないんだ。ただやらなきゃいけないことがあって……」


「……話して。」


「えっ?」


「何してたのか、話して。」


「…………」


 武器の調達、という物騒な用事であったためシンは一瞬ためらったが嘘をついてもしょうがないと観念し、正直に話した。


「ソレントの方にね、ちょっとばかり武器を取りに……」


「敵の人たちには見つからなかったの?」


「うん、まぁ。武器庫に直接入ったわけじゃないし、変装もしてたからね。」


「え!? そ、それじゃあどうやって武器をとってきたの?」


 意外とぐいぐい食いついてくるなとシンは内心思った。


「武器を買ってたやつからすってきたんだよ。」


「へぇ~そんな簡単に出来るの。」


「ちょっとだけ手品を使ったけどね。」


「手品?」


「ちょうどいいや。見せてあげるよ。」


 そう言うとシンはコップに水を入れてベッドの横の小机に置いた。


「ここに座って。」


 そう言ってシンはアメリアをベッドに座らせる。シンはアメリアの隣に座った。


「僕から目を離さないでね。」


「うん………………えっ!?」


 アメリアは一瞬たりともシンから目を逸らさなかった。しかし隣に座っていたシンはいきなり視界から消えた。どこに行ったのかとアメリアが必死に辺りを見回すと、シンは小机の横で先ほど注いだコップの水を飲んでいた。


 コップの水をすべて飲み干すとシンは静かに笑った。


「ね? すごいでしょ。」


「何!? 何、今の!?」


 より一層興奮した状態でアメリアはぐいぐいとシンに迫ってくる。


「今のはね、当身っていう技で一瞬だけ相手を気絶させられるんだ。大体4,5秒くらいかな。」


「え、でも私全然気づかなかったよ?」


「そういう風に打ってるからね。結構練習したし。食らった人は時間が飛んだように感じるんだってさ。でも数秒程度だと食らってもぼーっとしてたな~くらいで済ませる人も多いし、そもそも人通りが少ないところとかだったらほぼ気づかれないから便利なんだよね。」


「すごいすごい! もう一回やって!!」


「あんまりやると体に良くないからダメだよ。」


「えーっ、面白いのに。」


「ごめんね、ちょっと僕も疲れちゃったから一旦寝かせて。」


 そう言うとシンは倒れこむようにベッドに体を預けた。


「チェックアウトは11時にしてるからそれまでに出る準備を済ませておいて……」


 それだけ言い残しシンは眠りに入った。




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