第23話 怪しむ友達

 優ちゃん先生の現代文の授業をなんと名乗り切ると、本日の授業は終わりを告げた。

 担任の先生の担当科目が最後の授業だったため、そのまま流れで帰りのHRが行われる。

 連絡事項は特になく、HRは光の速さで終わりを告げた。


 いつもよりHRが早く終わり、教室は少し得した気分になる。

 放課後の予定を立てていたり、部活までの時間を少しでも友達と話していようとしたり、各々クラスでの時間を楽しんでいた。

 俺は真相を確かめるため、この後は有紗の家へと行こうと思っている。

 手早く荷物をまとめていると、隣の席で同じく荷物をまとめていた寺花さんの元へ、クラスメイトの水田亜紀みずたあきがヒョコっと現れる。


「美月―! 今日の放課後空いてる? 遊びに行こー!」


 水田さんが陽気な感じで寺花さんを放課後の遊びに誘う。

 すると、寺花さんは申し訳なさそうな顔で手を合わせた。


「ごめん亜紀。今日は予定があるの」

「そっかぁー。じゃあしょうがないね。また今度遊ぼう」

「うん、ごめんね」

「謝らなくていいよ! それじゃ、また明日学校でね」

「うん、またね」


 寺花さんは鞄を肩に担ぐと、水田さんに手を振りながらそそくさと教室を後にしていった。

 恐らく、放課後は来週の3Dライブに向けたレッスンが入っているのだろう。


「美月、随分急いでる見たいだけど、何か大事な予定でもあるのかな? 安野君は知ってる?」


 寺花さんが出ていく様子を見つめていると、突如に水田さんが俺に話を振ってきた。


「えっ? いや、知らないけど……。何かあったのかね?」


 寺花さんがVtuber活動をしていることは、この学校で俺以外誰も知らない。

 なので、普段寺花さんと仲がいい水田さんとはいえ、本当のことを俺の口から言うわけにはいかないのだ。

 よって、俺の反応も必然的にはぐらかすような形になってしまう。


「そっかぁ……安野君が知らないんじゃ本当に何だろうね」

「逆になんで俺が知ってると思ったわけ?」

「えっ? だって安野君、美月と仲いいでしょ? ここ最近毎日一緒に登校して来てるし」

「し、知ってたの⁉」

「そりゃまあ、一緒に教室に入ってきたら気付くというか? 周りから話も入ってくるし」

「そうだったんだ……」


 まさか、情報網がそこまで出回っているとは、流石は学校の『アイドル』。

 俺が寺花さんの人気っぷりに改めて恐れおののいていると、水田さんが意味深な笑みを浮かべながら俺を手招きしてくる。

 俺が顔を近づけると、水田さんが耳元で尋ねてきた。


「ねぇねぇ。美月ってさ、本当にアイドルしてると思う?」

「えっ、どうして?」

「だってさ、美月ってたまに、今日みたいに物凄く急いで帰る日があるでしょ? もしかしたら、何か活動してるのかなって」

「ど、どうなんだろうね。俺は聞いたことないけど……」


 嘘です。

 本当は、寺花さんがVtuber活動をしていることも知っているし、急いで帰っているのも、Vtuber関連の仕事であることも分かってます。

 けど、それを水田さんに話すことは出来ないので、またもや誤魔化すことしか出来ない。


「私心配なんだよねぇー。SNSで調べても、美月の名前も画像も出てこないの。アイドルとやモデル活動してないなら、他にどんな予定があるんだろうって。やましいことがないなら、教えてくれてもいいと思わない? 友達なのにね」

「そ、そうだね。まあでも、いつか寺花さんの方から話してくれるんじゃないかな?」

「どうかなぁ……」


 俺がフォローを入れると、水田さんは首を傾げながら懐疑的な様子。

 そのまま、寺花さんが出て行った教室の扉を見つめる水田さん。

 彼女の表情は、どこか哀愁が漂っているように感じられた。


「それじゃ、俺も予定があるからそろそろ行くね」

「あっ、ごめんね話し込んじゃって」

「平気だよ。それじゃ」


 俺は水田さんと手短に挨拶を済ませ、教室を後にする。


「水田さんと変な方向に話がこじれなければいいけど……」


 そんな心配をしつつ、俺は学校を後にして、有紗の家へと向かうのであった。

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