第2話 三人に一気に告られ――襲われる

 僕がTS薬で女になって一週間。


 この五年はなんだったんだ? と思うくらいにパーティメンバーの距離が近い。


 騎士のライザはことあるごとに胸で僕を包んでくるし、聖女エリスはお着替えを手伝う手つきがさわさわとしていやらしい。

 そうして、薬を渡してきたモリーに至っては魔術の研究を辞めて服飾の趣味に走ったらしく。もじもじ魔術師がいじいじ魔術師になるくらい、僕を着せ替えて撮影会をして遊んでいる始末。


 正直、魔王を討伐したせいでお金には困ってないからいいんだけどさぁ……


「毎日、こんなに楽しくていいのかな?」


 四人してベッドに寝転がっている際、ふと呟くと、すっかり小柄になってしまった僕を、エリスがそっと包み込んでくる。


「テーゼくんは五年も世界のために戦っていたんですのよ? これくらいのご褒美があって当然ですわ」


 ぎゅ~と頬ずりをするエリスを羨ましそうに眺めるライザとモリー。


 そのふたりの間にも、並々ならぬ感情があった。


 ――そう。三人は、旅の道中、ある『不可侵条約』を結んでいたのだ。


 『誰も抜け駆けをしないこと』。


 それが単純明快な三人の間の取り決めだ。


 テーゼが勇者として励むのは初恋のメリアーヌと結ばれたいからだ。

 その幸福を邪魔することは、誰であっても許さない。


 それが三人の共通認識だった。


 だから、


 誰にも見向きされなかった冴えない魔術師も、教団に騙されて幽閉され利用されていた聖女も、胸がデカいせいでどのパーティに行ってもセクハラに悩まされていた女騎士も。


 テーゼを好きになってしまっても、告白はしない。


 そう三人で決めていた。


 その拮抗が、メリアーヌの不義により崩れ去ったのだ。


 三人は、内心では叫び出したい気分だった。


『間男万歳! バイバイ、メリアーヌ!!!!』


 だが。均衡が崩された今だからこそ生まれるひずみもある。


 だれが、テーゼの初めてを奪うのか。


 これだけは譲れない。


 元来そういった性的行為に積極的でないモリーですらも、ことテーゼに関しては最初のパーティメンバーは自分だったという矜持がある。

 『私が一番最初に好きになったのに!!』――だから、引っ込み思案な彼女も勇気を出してネグリジェを脱ぐ。


「テーゼくん……あの、その……」


 まさかの先制攻撃に、エリスとライザも慌てて服を脱いだ。


「ダメダメ! 一番乗りは私ですわよ!?」


「誰がいつ決めたんだ、その順番は。処女ふたりは黙って見ていろ」


「えっ? あの……皆……?」


 テーゼは三人のあられもない姿に思わず顔を両手で覆った。

 そうして叫ぶ。


「僕! 今、女の子なんですけど!?!?」


「「「それが何??」」」


 三人の鋭い眼光に、二の句が継げなくなるテーゼ。


「テーゼくん……ずっと、好きでした」


「私もですわ! あなたから受けた恩義、忘れた日はございません!!」


「私のことをいやらしい目で見なかった男はキミだけだったんだ、テーゼくん」


 そうして、三人は『不可侵条約』を同時に破った。


「えっ? うそ。スるの? この姿のままで……!?」


「女の子同士の方が存外気持ちいい、との噂ですわよ♡」


「待って待って。モリー! 元に戻る薬は!?」


「ごめん。今は手元にないよぉ」


「それでいて、私達の我慢はもう限界だ。覚悟してくれ、テーゼくん」


「ちょ、嘘でしょ!? わぁあああ――きゃああ!!」


 その日テーゼは、処女を失った。


 だが、朝になっていつもと同様にエリスのおっぱい枕に包まれ目を覚ますと、全身を心地の良い疲労感と充足が包んでいるのがわかった。

 何より、三人に思う存分愛されて、心が満たされている。


(女の子同士でも……案外イケるもんだなぁ)


 テーゼはその日、ナニカに目覚めた。


 三人に愛され満たされる生活を数週間もしていれば、感覚も次第に慣れて、モラルすらも麻痺してくる。


 そんなある日、テーゼの中にはある計画が思い浮かんだ。


(できる。できるぞ……!)


 今の僕になら、できる。


 今こそ、メリアーヌとアレクに、一泡吹かせてやるときだと。

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