第49話 繋がる心、

 身長5m超えに躯体を持つディリュードは今まで戦ったどの悪惑よりも強くて素早い。一歩踏み出すだけで地面が砕かれて、十数メートル先にいるバスターの首を一瞬で掴んで上に放り投げる。


「何だそのバカ力!」


 ディリュードは飛び上がってバスターに下から膝蹴りを当てると、今度はバスターの足を掴んで地面に投げて叩きつける。バスターが地面にぶつかってバウンドした次の瞬間、ディリュードは上から突き刺すように跳び蹴りを喰らわせる。

 

「ぐっ……やるじゃねぇか……」


「そんなもんですか? No.01の巨剣バスターさん」


「まだまだ……ッ! おぉらぁあああーーー!!」


 バスターの心臓が真紅の炎を帯びると、その両手は溶岩のように赤くなってディリュードの片足を掴んで起爆する。

 この隙にディリュードの踏みつけから脱出したが、爆発の黒煙が散るとディリュードの足はほんの少しだけ溶けていた。この程度の攻撃ではダメージが残らないのか、足は一瞬で元通りに再生した。


「バスターさん!」


「シンスケか!?」


 ほかの通りまで投げ飛ばされたシンスケが戻って来て合流する。そしてカムイも連戦続きで損傷具合がひどいが、仲間の姿を見た途端に気力が湧いて立ち上がって自分を奮い立たせる。


 そんな彼らのホコリまみれでボロボロな姿を見たディリュードは鼻で笑った。


「ハハハハハ、どいつもこいつも一杯一杯でみっともないですね」


「あぁ、みっともないぜぇ。仲間のために命を張るってのはこういうことンーだろうが!」


「そんな無意味な──」


「無意味なんかじゃねぇよ! 未来を守るために必要ってんならテメェをぶっ倒して、吸収した姫様とトモミを助け出すだけだ!」


 拳を自分の胸に当てて深呼吸すると、バスターはその強き意志が宿る熱い両眼を見開いた。


「これで最後だ、お前ら!! いっっくぜぇーーーーー!! 来いッ────」


「「ディリュードォ!!」」


「……グドロも居ないのに舐められたモンですね」


 バスターとシンスケが同時に飛び込んで合わせ鏡のように左右の拳を放つと、ディリュードはそれに応じるように真正面からパンチを合わせる。

 双方がぶつかると、衝撃に圧縮された風が破裂して近くの車や信号機を粉砕する。


「群れたって無駄なんです、よッ!」


 ほんの少し力を込めるだけで向かってくるバスターとシンスケを押し返して吹き飛ばす。彼らの影に隠れたカムイが太刀で斬りつけてくるが、ディリュードは余裕綽々で刀身を素手で掴んで止める。

 太刀を通じて稲妻が流れてくるが、ディリュードの身体も電流に合わせて微振動することで無効化してしまう。


「効きませんよ、


「その名を口にす──」


 カムイの言葉を待たずに太刀を引っ張って彼女の体勢を崩すと、ディリュードは刀身を掴んだまま奪って柄をカムイの頭に打ちつける。

 いらなくなった太刀を適当に捨てながら、カムイの腹に回し蹴りを決めていく。カムイが蹴りの衝撃で吹っ飛ぶより先に彼女の首根っこを掴んで地面に叩きつける。


「その手を離せぇ!」


「ええ、いいですよ」


 カムイを助けようとシンスケはもう一度飛び込むも、ディリュードはゴミを捨てるようにカムイをシンスケに投げて返す。シンスケが彼女を受け止めた瞬間、ディリュードは高速でシンスケの背後に回り込んで、広げていた両翼を装甲ごと引き剥がす。


『あああああああああ!!』


『損傷許容度、超過……エラー……』


 ジェネシスは強制的に合体解除させられてシンスケの体から弾け飛ばされる。それでもディリュードの攻撃は続く。パワーダウンしたシンスケに向かってパンチを放つと、シンスケはすかさず両手とコアの装甲でガードするも防ぎきれない。

 アスファルトと瓦礫の上をバウンドしながら吹き飛ばされて、彼を守っていたコアとジェットもジェネシスと同じよう合体解除してしまう。


「シンスケぇ!」


 一歩ずつゆっくりと迫ってくるディリュードを睨みつけて、バスターはシンスケの横に駆け寄ってその容態を確かめようとする。


「俺はまだ……ハァハァ……くたばっちゃいねぇ……」


「ハハハ、まだ立ち上がるんですか? 正直言ってキミは戦乱の時代に生まれた方が才能を活かせそうですよね。まぁ、どちらにせよ人類はもう私が滅ぼすんですけどね」


 シンスケは怯むことなく震える足を押さえて立ち上がる、その眼で強大すぎる敵をしっかりと見つめている。


「お前は人間に寄生する生き物なんだろ! だったらなんで人を滅ぼす? お前だって最後には──」


「知ってますよ、そんなこと。どうせ手に入らないんなら、消えたって同じじゃありませんか」


「そんなのヤケクソになってるだけじゃん! 消えるんだったら一人で勝手に消えろよ!」


「…………3万年経って、まさかまた同じ言葉を聞くハメになるとはねぇ……」


 シンスケはその血塗れの右手をバスターに差し出した。


「シンスケ……お前、まだやれるのか……こんな状態でも……」


「余裕、ですけど? ……俺はあんなヤツには絶対負けないし、アイツから逃げるつもりもない。ここで踏ん張らなきゃ未来が無くなっちまう……カスミさんも藍沢さんもみんなの未来がッ!」


「だったら………………この先の未来を、生き続けて守り抜いてく覚悟はあるか?」


「もちろんだ」


「……わかった。未来の綺麗な景色をいっぱい見てくれよ」


 かの大悪惑が断ち切ることを選ぶというなら、王之鎧は繋ぐことを選ぶ。姫様から命を託され、約束を託され、そして今度は強き覚悟を持つ少年に未来を託す。


 バスターは差し出された手を握り返して立ち上がる。 

 名前と顔を忘れられても、心を受け継ぐ者がいれば彼らは決して消えない。いつだって王之鎧は人間の覚悟と勇気を守り続ける。


「何をするつもりですか……」


「よーーく見とけよ! これが俺たちの最後の合体だぁ!!」




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