定時制高校の隠れキャラは、ダンジョンランキング一位
@fox9378
第1話
「鞄忘れたんだけどさ」
顔を上げると、目の前に強面男子の顔があった。名前は
「下駄箱の横に忘れてきたんだわ」
「取ってきます」
俺はそう言って席を立った。教室を出ると、階段を降りて下駄箱へと急いだ。手提げ鞄のような紺色のものを見つけると、俺はそれを持って3階へと上がっていった。西荻は俺の席に座り、後ろの同級生と話し込んでいた。笑い声を上げていて、俺が鞄を差し出しても、西荻は見向きもしなかった。
西荻の机に鞄を置き、俺は窓際の後ろのほうでチャイムが鳴るのを待っていた。
「新宿の公園前に神威ダンジョンってさ、あるだろ?」
西荻が後ろに座る神無月に話しかけていた。
「興味あるんか?」
「ないけど、面白いと思ってさ」
「ん、ようわからんなぁ」
神無月は俺の席の後ろにいて、誰とでも話す気のいいやつだった。陰キャな俺にもたまに声を掛けてくれるし、話し相手にもなってくれた。どこかの方言のような話方をして、関西人のようなノリの良さもあった。
「俺とおまえで、ダンジョン行ってみねえか?」
「別にええけどよ。未成年でも入れるんか?」
「そんなことも知らなかったのかよ」
西荻はそう言って笑い声をあげる。席を立つと俺には目もやらずに、自分の席へと戻っていった。一時限目は数学だった。夜になり、俺は机の中の教科書をリュックサックにしまい、席を立った。
下校中に一人でダンジョンのことを思い出してみた。神威ダンジョンは新宿にある大きな公園の前に出現したものだ。再開発のとき、地下深くに重機で掘削していたときに、工事関係者が最初に発見した。
ダンジョン内には神威と呼ばれる、猫科を思わせる巨大なモンスターが現れる。通常のモンスターと異なり、神威はボスモンスターとなり、出現時間にも制限がある。
スキルを持っていて、スキルの引き運が良ければ倒せるボスなのだが、運が悪いと相手にはならない。ちなみにスキルの引きを外すと、引き直しができないので、ダンジョンも難易度が上がる。そんな、俺が引いたスキルは。
「良平君」
俺の名前が呼ばれた。振り向くと、クラスの女子三人組がニコニコ顔で見ていた。
「何でしょうか」
「良平君って、働いているの?」
「わからないです」
「わからないってなにそれ」
女子の一人が馬鹿にしたように笑う。
「良平君って頼まれたらなんでも言うことを聞いてくれるって感じするけど」
「そんなことはないです」
「西荻の鞄、パシられてたし、この前は自販機で飲み物買ってきてたじゃん」
「そうですが」
「じゃあさ、私達、これから万引きするの、ちょっと見張り番お願いよ」
女子の一人は安達といい、気の強い女だった。他の女子は安達に付き合っている感じで、ボス格は安達だった。
安達に連れられ、俺はビルの裏手にいた。覆面をした身長の高い男がいて、声は聞いたこともなかった。
「誰そいつ?」
「見張り番やってくれるって」
「安達の顔見知りか?」
身長の高い男は言う。表情は覆面で隠れていて分からなかったが、冷たそうな雰囲気はあった。
「そうだよ」
覆面の男は俺に耳打ちをしてきたのだ。
「言ったら殺すからな」
女達はどこかに消え、俺はビルの裏手の扉の前で待つことになった。防犯カメラはガムテープで塞がれていて、明後日の方向に傾いていた。しばらくして、先ほどの男が降りてきた。手には紙袋を持っている。
「見るか?」
「え?」
俺は紙袋の中身を覗くと、そこには札束がいくつもあった。
「金庫破ったんだよ。喋ったら殺すからな」
「はい」
俺は男の後ろを歩いていた。男が振り返ると、「じゃあな」と言って走って消えてしまった。
次の日になり、俺は5時に高校の門をくぐった。西荻と神無月が一緒に歩いているのを見かけた。彼らは意気揚々としていて、表情も明るかった。神無月が俺に気づく。
「お、良平君じゃないかい」
神無月は立ち止まり、俺が近寄るのを待っているようだった。
「ども」
「暗いのう」
西荻はじろりと鋭い視線を送ってきたが、俺には声を掛けたりはしなかった。
「昨日、寝てないんやで、俺たち」
「ダンジョンにいってたんですか?」
「そうやで、神威ダンジョンで徹夜で籠もってたんやで」
「別にいいだろ。こいつに話さなくても」
西荻がそういうと、神無月は苦笑いを浮かべ、西荻の隣に走っていった。神威を倒したのだろうか。昨日は神威が出現する周期だったから、ボスに出会っても不思議ではない。この日の授業にはパソコンがあり、俺は情報室にいち早く入っていった。パソコンが学校に入ったのは最近の話だった。俺はネットに繋いで、あるサイトに飛んだ。
神威ダンジョンの神威の記録を調べたが、倒した報告はなかった。今も生息しているかもしれなかった。
ふと後ろに気配を感じると、西荻が立っていた。
「おまえ、ダンジョン知ってるのか?」
「え、あこれは、開いたらたまたまで」
「たまたまだよな。ダンジョンの情報サイトなんて、俺でも開けねえのに、まさかおまえがな」
「これ、ダンジョンの情報サイトなんだ」
「この学校に、ダンジョンに詳しいやつがいたんだろうな。センコウかもな。おまえとこんな話するつもりねえけど」
西荻はそう言って離れた席に着いて、パソコンを起動させていた。
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