第7話 かぐや姫来店(後半)

「参上...くっくっく我が下僕達、帰りが遅いから様子を見に来てみれば何を遊んでいるの?10分以上我を一人にしたら月に帰ると前にいったはずでしょう?」




バサっと持っていた黒いレースの傘を店内でさすのやめてくれませんかね。




「かぐや姫...可愛い」




「最高に可愛いでおじゃるよ」




「かぐや姫に心配かけさせてしまった...」




え?え?




「15分もお部屋で一人にさせてしまった.....何て罪深い事をしてしまったんだ!!」




「下僕失格です...」




え?え?何どういう事。


もしかして、この和服ゴスロリ美少女がかぐや姫?


何?俺の知ってるかぐや姫と違う。


こんな...こんなあの、厨二病に発症して自分の事を魔の眷属と勘違いしちゃった系の人と違う!!グレてる!!竹取の翁もびっくりだよ!!




「鬱陶しい朝が来る。さっさと闇夜に紛れるわよ下僕達」




「え...でも、まだ買い物が」




「...失望の片鱗。はぁ、我の望むものを手に入れられない無能な下僕はいらないわ.....」




ため息交じりで心底呆れたように言うと、




「月に帰るわよ」




低い声でぼそりと呟くと五人の公達は、血相を変えてかぐや姫に駆け寄っていく。




「やめて!かぐや姫!行かないでたもう!」


「朝まで探すでおじゃる!」


「大丈夫です、もう見つけました!これですよね!これですよね?あれ?これですか?」


「行かないでください...かぐや姫!私にできる事ならなんでもしますから...何でもご命令ください」


「今日中に必ず見つけだします!もう少々お時間をください!」




ゴスロリの小さいかぐや姫に必死にすがりつく五人の公達。




はたから見たらただのロリコン集団だった。


だが実際は女王様と下僕のような関係だ。


俺は、レジ台から離れかぐや姫の前に立つと、




「一旦ちょっと皆さん、暑苦しいので離れてください。俺はこのかぐや姫さんに少し話があります」




「其方もかぐや姫の美しさに魅せられたのか....だがかぐや姫は渡さんぞ!」




「ちょっと熱血の人、黙って離れて下さい。大丈夫です。手荒な事は絶対しませんから」




俺が冷静に、真剣に一人一人見つめると


公達は渋々離れていく。




かぐや姫は怯えたような、でも威厳は忘れないと言う表情で、




「何よ。一般人」




「一般人じゃないでしょ」




俺は、俺より背の低い彼女に目線を合わせて、




「ダメでしょ、年上の大人をからかったりしちゃ。自分の欲しいものは自分で手に入れなきゃ、変な暗号文を書いておじさん達に買ってきてもらおうとせずに自分でちゃんとコンビニに来なきゃダメでしょ」




「なっ、何だ貴様、我に説教すると申すか!」




傘を突き上げ、ドタドタと地団駄を踏み出したかぐや姫に、俺は冷静に彼女を見て答える。




「貴様じゃないでしょ、君は見るからに俺より子供でしょ。レジの、お兄さんでしょ」




「う、うるさい!黙れ、黙れ!我と下僕の主従関係を貴様にとやかく言われとうないわ!」




「主従関係じゃないでしょ。あのおじさん達はね、君が我儘ばっかり言って困ってるんだよ。君の我儘に付き合ってあげてるだけなの。そんなおじさん達にたまには肩でも揉んであげたらどうなの」




「☆○2×<#〒*!!」




言葉にならない声を上げ顔を真っ赤にしたらかぐや姫は、




「我は昔からおじいさんとおばあさんに褒められた事しかなかったのに、こんな見ず知らずの冴えない人間に...しかも説教されるなんて、我は怒ったぞ...月に変わって竹をスパンと割るかの如く貴様の体も真っ二つじゃい!」




随分物騒な事いう子だな。




かぐや姫は、赤い左目を左手で隠し、意味深なポーズを決め、




「震えて刮目せよ...我の漆黒の翼を!」




かぐや姫が背負っていたリュックサックの背負う部分に赤いボタンがあって、かぐや姫がそこをポチッと押すと、ンバッと背中のリュックから黒い羽が飛び出てきた。




「ど、どうだ!驚いただろう!魔法だぞ!我は貴様と違うのだ!こうやって貴様も魔法でめっためたのぎったぎたにしてやるんだぞ!」




シュッシュッとボクシングのパンチの真似をしているかぐや姫に、




「.....あんまりおじさん達を困らせちゃだめだよ。わかった?」




「スルーするな!お前!許さんぞこらー!」




ぽかぽかと俺にぐるぐるパンチを食らわせるかぐや姫。




「ありがとうございます!」




「助かりました!!」




後ろでそのおじさん達の声がしたと思ったら、店長が音もなくレジに立っていた。




「て...店長」




グッと親指を立てる店長に、俺がかぐや姫と話している間に何が起きたのか理解するのに数秒かかった。




公達の手には各々商品をカゴいっぱいに入れて満遍の笑みを浮かべていた。




「かぐや姫!『甘い果実を模した傷ついた満月』買ってきましたよ!」




メロンパンだった。




「かぐや姫!『軽やかに口の中で踊る支柱』です!」




いろんな種類のじゃがりこだった。




「かぐや姫!『魔氷から作られた青く彩られし盾』でおじゃるよ!」




ソーダバーだった。




「かぐや姫!『刺激的な黄金の黄昏を飲み込んで』見つかりましたよ!」




ジンジャーエールだった。




「僕のも見てください!色んな種類の『異世界の青春聖書』ですよ!」




分厚い漫画雑誌だった。




「いやー、あの人は凄かったですね。瞬時にかぐや姫の求める物を探し当てて...」




かぐや姫は、満遍の笑みで店長を見ていた。


まさか──。




「決めたわ!さっきの男を我の下僕とする。あんた達はクビよ」




「そ、そんな!かぐや姫!そんな事言わないでください!!」




困惑する公達の間を、店長はのっしのっしとかき分けこちらに歩いて来た。


ゆっくりと、店長はかぐや姫の前に屈むと、




「あんまり、大人をからかうもんじゃぁねぇよ。お嬢ちゃん。後店内では傘は差しちゃいけねえってお母ちゃんに教わらなかったかぃ...?」




大きな片手をかぐや姫の頭にずしっと乗せた。


まるでそれは、巨人が捕食する人間の頭を鷲掴みにしている様だった。


かぐや姫から笑顔が消え、ガタガタと震えだした。




「殺さないで.....」




涙がポロポロこぼれ落ち、消え入りそうな声で彼女が絞り出した言葉に、




「かぐや姫に手を出すな!」




「かぐや姫を泣かせるなんて許せません!」




公達が駆け寄って来て、店長をかぐや姫から引き剥がそうと力一杯五人で摑みかかる。


勿論あの店長だ。五人がかりでもビクともしなかった。




「かぐや姫を殺すなら私を殺すでおじゃる!」




「其方には感謝しているが、かぐや姫を


泣かせるなんて許せないです!」




まるで、目の前で繰り広げられているのは巨人に立ち向かう人類との戦いのようだった。




「みんなぁ...我の為に...ぐすっ我、酷い事いっぱい、言ったのに」




「かぐや姫!私達はそんな事全く気にしておりません!」


「そうですよ!可愛いかぐや姫が健康で、元気でそして、笑顔でいてくれさえいれば我々は嬉しいのです」


「そうでおじゃる!我らはかぐや姫が大好きなのでおじゃる!涙ではなく麗しのかぐや姫には常に笑顔でいてほしいでおじゃるよ」


「かぐや姫の為なら命を捨てる覚悟です」


「僕は、かぐや姫に下僕と罵られても、嫌な気持ちは全くありませんよ。むしろ毎日が...ハァッご褒美だと感じています!」




一人高らかにドM発言した奴がいたけど気のせいだよね。




店長がかぐや姫から離れると、公達はかぐや姫の所に駆け寄って、かぐや姫を守るように店長の前に立ちはだかる。


店長の恐ろしさに、カチカチ歯を鳴らして震えるおじゃるもいたが、そんな事よりかぐや姫を守るという気持ちが全員からひしひしと伝わってきた。




店長は、フッと微笑んで、




「なんだよ、あんたら格好いいじゃねえか...お嬢さんを、俺みたいな奴から守ってやるんだぜ」




グッと親指を立てた店長に、




「これが僕らの下僕魂ですよ.....」




ドエムのかみどえむなごんさんが後ろを向きながらそっと、親指を立てた。


何だよ下僕魂って。そんなんでいいのかあんたらは。




かぐや姫を守りオタサーの姫を囲うようにして出ていった公達の背中を腕を組みながら見ていた店長は、




「最近のわけぇもんのファッションは奇抜なのが多いねぇ...」




と呟いてボリボリ頭をかきながら休憩室に戻って行った。




いやなんか俺途中置いてけぼりでドラマが始まってたけど一つ言えるのは、さりげなく悪役に回った店長が格好良すぎるって事だけだ。

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