第2話 かっぱ来店

今日もコンビニバイトに出勤する二日目深夜2時。


俺、村松晴は昨日来店してきた魔王とエルフメイドのコスプレした人を思い出し眉をひそめつつ、レジに立つ。




昨日の話は誰にもしていない。


というか、できないよね。誰も信じてくれるはずないよね。


深夜のコンビニバイトしてたら魔王とエルフメイドのコスプレした人来てカツサンド万引きされそうになったんだよって完全に幻覚見た危ない奴だよね。


しかも深夜2時だから夢みてたって思われそうでやだ。絶対寝てたって思われる。




夢みてたって思われるのも嫌だしさ。




ピロリロピロリロ




「いらっし」




俺は、来店して来た客を見てこれは夢か幻覚か、休憩室で寝ている店長を叩き起こそうか考えた。




正直息が止まった。




目の前にいる緑色の生物はなんだ。


黄色いくちばしに全身ぬめっとした緑色の体。


140センチくらいの小さい体に、大きな頭部にギョロッとした目がコンビニの店内を見回して泳いでいた。


そいつがなんなのかは、頭部に添えてある"皿"で確信した。




あ、こいつもしかして河童?




.....いやいやいやいやいやいやいや!!いやいやいやいやいや!!ふざけんなよ夢でも見てるんだ俺は、疲れてるんだ昨日の今日で疲れてるんだわ。うん、そうだよ。もしかして河童?じゃねえよ。


深夜のコンビニバイト二日目深夜2時に来店したお客様が河童でしたってアホすぎるだろ。




俺は、頭を抱えてレジ台に突っ伏していた。


顔を上げたら人間。顔を上げたら人間がいる。そうだ、俺は見間違えたんだ。ちょっと緑色がかっている肌の青年と間違えたんだきっとそうだ。そうに決まってる。




ゆっくりと、顔を上げるとペタペタ、ペタペタと生々しい音とともにボロ布きれの薄汚れたナップザックを背負ってコンビニを歩き回る河童がいた。


フザケンナ現実。


助けて、もうやだこのコンビニ。


待って、昨日と同様に河童のコスプレしたその、人間の可能性も、ある、か?




俺はじっと河童を観察していた。


ペタペタと歩く足は水かきのような形状をしていて、かなりリアルだし、動きがもう人間のそれじゃなくて、モノホンって分かっちゃうんだよね。なんていうの、これは人間じゃないみたいなね。


疲れてるんだな俺。ほら、深夜2時だし。


当然か、幻覚が見えてもそりゃ、そうだよな。




河童は、飲み物コーナーの所から予想外にもペットボトルのコーラを持ってこっちにペタペタと歩いてくる。




いやダメだよ河童がコーラとか飲んじゃイメージ崩れるんだけど。




とかいっちゃダメだよね?河童もコーラ飲みたい時あるよね、ダメだよねそういう事思っちゃ。




それにしても大事そうに大事そうにコーラを抱えて持ってくる姿を見て、なんだかちょっと可哀想だなって思ってしまった。


河童もコーラ飲んでいいよ!




──お代を払ってくれればな。


昨日の魔王を思い出す。大丈夫だよね。そのボロ布きれのナップザックからお財布が出てくるんだよね。




コーラを背伸びしてレジ台に乗せた河童は、ナップザックをゆっくりおろした。


よーしよしよしいい子だ。




安定の接客。




「いらっしゃいませ」




ピッとレジ打つ。




「158円になります」




俺今どんな顔してるんだろ。ちゃんと笑えてるかな。




河童は、上目遣いで俺を見た。


大きく澄んだ瞳が俺をつかんで離さない。


よし、いい子だ。158円、ちゃんと払うんだぞ。




ナップザックから河童が取り出したのは、財布でも158円でもなく。




.....一本の、きゅうりだった。




いやどうすりゃええねんこれ。


こっちめっちゃ見てるぅ。きゅうりえ?き、きゅう、り?きゅうり型の財布とかじゃ、ないよね?


なにこれ、え?待って俺どうしたらいいのかわからない今。




俺の動揺した反応を見て、河童はあっ。という反応をした。


そっか!わかったよ。間違えちゃったんだ。きゅうりとお財布、ね?間違えちゃったんだ。全く河童族って結構可愛い間違いするんだなぁ。




ナップザックをごそごそする河童を温かく見守っていた俺に差し出されたのは三本のきゅうりだった。




いやきゅうりの数が足りないってわけじゃねえんだよ!!


つぶらな瞳でこちらを見上げる河童に、俺は、一応声をかける。




「ひ、ひゃ、ひゃくごじゅうはちえんで、その。えっと」




河童は、首を傾げた。


そしてまたナップザックを漁り出す。


いやまた絶対きゅうり増えるパターンだよこれもういいよきゅうりはやめてくれよ!




「わ、わかった、わかりました!もういいよ!俺がコーラ代払うよぉ!」




泣きそうになりながら三本のきゅうりを受け取る深夜2時半。




河童は、コーラを大事そうに抱えながらペタペタとコンビニを後にした。


俺は無表情に、音を立てず休憩室に向かい、ロッカーから財布を取り出し158円を握りしめ、袋に入れたきゅうりをカバンの中にそっとしまいました。


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