第25話 魔界に百万分の1のおわびをさせる

 和の国の王都・王城を包囲した暗黒騎士軍団は50万騎以上。


 彼らは、整然とした隊列を組み、壮大なながめだった。


 軍団の司令官になったリボに報告があった。


「司令官様。王都の正門が開き、和の国から出撃がありました」


「ほう。我が方のこの莫大な数の軍団を少しも恐れないなのだな。さすがサムライだな。ところで、どのくらいの数が出撃してきたのだ? 」


「それが‥‥ 」


「良い。申せ。いかにサムライが強かろうか、我が軍団より数はかなり劣るだろう」


「数は1騎です」


「1騎だと!! ほんとうか!! 我ら暗黒騎士がバカにされたのだな。その1騎士はどのような騎士なのだ」


「はい。全身を緑色の甲冑かっちゅうで包んでいます。しかも、とても目立つ。とても美しい緑色です」


「えっ!!!! シャーが出てきたのか。即座に全軍に伝えよ。その場で戦闘態勢をとれ。やがて、ものすごい剣戟けんげきがあるぞ!!!! 」


「はい」




 シャーは和の国の王都の追手門の前に立っていた。


 彼はふと、自分の後ろの気配に気が付いた。


 そして振り向くと、予期しなかった光景が広がっていた。


 そこには、1万騎ほどのサムライの軍団が整然と待機していた。


 やがて、先頭に立っていた1人のサムライがシャーに近づいた来ていた。


「武蔵皇子おうじ


「国王様。ほんとうに申し訳ございません。サムライ達も私も、黙って見ていることはできませんでした」


「そうか。サムライの心ならば当然、そう考えるだろうな。それでは、後詰めをお願いする。最初は我が1人で切り込む」


「はい」




 その後、シャーは追手門から大きな堀にかかっていた橋を越えて前に出た。


 彼は聖剣を抜いた。


 すると、その瞬間、エメラルドのような美しい緑のせん光が輝いた。


 それは、相対している暗黒騎士達の視線を一瞬、さえぎった。


 指令官のリボが叫んだ。


「気をつけろ!!!! 来るぞ!!!! 」




 突然、一瞬――


 緑のレーザービームが発射されたようだった。


 それは、暗黒騎士軍団のどまん中に進み、切り裂いた。


 やがて最後に、レーザビームは元の場所に戻った。




 シャーは、その元の場所で肩で息ををしながら立っていた。


 やがて、疲れ切った様子で腰をおろした。


「はあ、はあ、はあ、はあ  やはり年には勝てないな。50万騎全部を切ることはできなかったか。半分くらいか‥‥ 」


 一方、暗黒騎士軍団は大混乱に陥っていた。


「司令官。やられました。半数が一瞬のうちに深く切られ、命を落しました」


 その報告を聞いた時、司令官のリボは動揺するどころか「にたっ」と笑った。


「老いぼれめ。生きた伝説といえども、老いには勝てないのだな。勝てるぞ。残った半数は、味方のしかばねを乗り越え前進。総攻撃だ」


 約25万騎にも及ぶ暗黒騎士の総攻撃が始まった。




 追手門の前に疲労困憊ひろうかんぱいでへたり込んでいたシャーは言った。


「聖女よ。申し訳ない。このままでは、あなたに対する少しのおわびもできていないまま―― 」


 シャーはその場で目を閉じた。


 彼は死を覚悟した。


 暗黒騎士達は恐ろしい突撃の声を上げて前進しているようだった。


 ところが――


 突然、暗黒騎士達の突撃の声がピタッと止んだ。


 周囲が明るくなり、戦場を皆が見上げた。


 空のはるか上空に光りの球体が現れ、やがてだんだん下に降りてきた。


 やがて、光りの球体は、シャーのすぐそばに降り立った。


 それは、聖女カタリナと守護騎士神宮悟じんぐうさとるだった。


「聖女、それに守護騎士‥‥ なんでここに」


「シャー国王様。和の国の援軍としてやってきました。あなたが私のために、魔界の反逆者として攻撃を受けることは十分に予想できました」


「剣聖シャー様。さすがですね。もう半分の暗黒騎士を平らげましたか。それでは、これから私が戦いを引き継ぎます」


「聖女と守護騎士様。和の国のサムライも国王シャー様をお助けします」

 いつの間にか、武蔵皇子をそばに来ていた。


 神宮悟が言った。

「皇子様、シャー国王様をお守りください。ここはまず、私が出ます。少し前、シャー国王様から世界最強のお墨付きをいただきましたので」


 そう言うと、神宮悟は聖剣:護国を抜き、構えた。


「25万騎ほどか、超光速で動き、そして剣を振わなければならないな。しかし、いかに暗黒騎士といえども、小惑星帯の中で剣を振うよりも楽かな」


 彼は動き出した。


 その動きは光りと同じようなスピードで、あっけにとられている暗黒騎士達の軍団に切り込んだ。


 ついさっきの剣聖シャーの動き以上だった。


 あっという間に、25万騎の暗黒騎士を倒してしまい、最後に司令官リボの前に立った。


「なんだ。剣聖シャーをはるかに越えるスピードと威力をもつ剣だな」


「あなたは切りません。だから、魔界に帰還して魔王リューベにお伝えください。年老いたとはいえ、魔界最高の功績を挙げた方に対するこの仕打ちは許せません‥‥


「‥‥それにカタリナさんに対して行ったひどいことも絶対に許しません!! 」


 神宮悟じんぐうさとるの表情には、彼の全ての気持ちが表れていた。


「今日、たくさんの暗黒騎士達の命を奪ったことは、せいぜい、聖女に対する魔界の100万分の1のおわびにしかならないでしょう」




 魔界の魔王城の謁見の間で、暗黒騎士リボが魔王リューベに報告していた。


「大変申し訳ありません。剣聖シャーの強さと、それをはるかに超える聖女の守護騎士の強さに完敗してしまいました」


「そうか。剣聖シャーの強さは予想どおりだったのか。それに聖女の守護騎士はそんなに強かったにか」


「はい。どうか、お許しください。もう、どうしようもないほど強いのです」


「そうかそうか。剣聖シャーより強い存在が、これで2つになったのか」


「2つと申しますと? 」


「わからないか。実は、このリューベもシャーに剣を習っていたが、最後にはシャーを超えて強くなったことをシャー自身も認めていたぞ」


「そうで、ございますか。では守護騎士とどちらが強いか楽しみでございますね」


「もう、結果はわかっている」


 魔王リューベはそう言った瞬間、リボを強い目でにらみ、殺気を払った。


「あっ!! 」


 剣を振ったわけではないのに、リボの体は真横に切られ、そこの倒れ命を落した。


「『楽しみだ』と!! 無礼な言い方だ!! 」


 同意を求めるように、魔王リューベは隣に控えていた魔女ローザを見た。


「御意。魔王様は絶対的に、最強でございます。魔王様があの守護騎士を殺して、さらに、私が聖女カタリナを殺す日がまちどおしくてたまりません」



 























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