第23話 剣聖と言われた魔族がいた3

 暗黒騎士10万人の軍団の中に、指令長官であるシャーはいなかった。


 シャーは前日から、国王の職務に専念すると言い、軍務を部下に委任していた。


 このため、今は副官のリボが暗黒騎士10万人の軍団を率いていた。


「シャー様が私に軍務を委任された第1日目に大変な仕事が発生したな。聖女とその守護騎士が和の国を通り過ぎるなんて、許されることではない」


 昨日、シャーはリボに「通してあげなさい」と言っていた。


 しかし、魔王リューベは全ての魔族に対し、聖女とその守護騎士の殺害を指示していた。


 だから、通してしまうと後日、魔王リューベからどのようなおとがめがあるのか分からなかった。


「いかにシャー様が暗黒騎士のマスターで、伝説の剣聖といわれた方であろうとも。ここは魔王リューベ様のお気持ちを優先する必要がある」


 リボは心のはるか奥底で、ひっそりと思っていることがあった。


(あの老人がなんで、まだ剣聖と言われ現役でいるのか。今や老人から剣を習わなかった者が大部分。だから、マスターと敬うことができない者が多いんだ)


(ここは、自分の指揮で、聖女と守護騎士を殺害すれば、自分が指令管に昇格できる。あの老人の後継者と言われる老人のひ孫ゾルゲを出し抜ける)


 その時、伝令があった。


「今、和の国軍が撤退し始めました。聖女も一緒にさがっています」


「何、それではすぐに後を追わなくては」


「しかし、1騎だけ、こちらの方に向かってきます」


「なに、1騎だけだと―― 」


「はい。装束・甲冑と帯びている聖剣から判断しますと、聖女の守護騎士だと思われます。守護騎士が我々の前に立ちふさがるように立っています」


「ふざけたことをやってくれるな。たかが、老人と互角に戦っただけじゃないか」


「リボ様。今の言い方は!! 『老人』とは、誰のことかわかりますよ」


「いいんだ。それよりも、我々の前に1騎でたちふさがた不届者を消しにいくぞ」



 戦場となる平野に風が吹いていた。


 かなり強き風だったが、かえって彼の気持ちを落ち着かせてくれた。


 暗黒騎士の大群の前に、神宮悟じんぐうさとるはたった1人で立っていた。


 暗黒騎士達は突撃体制を組んで、彼のことは気にせず後退した国軍を追おうとしているようだった。


「あれ―― なんにも気にされていないのかな。少しがっかり」


 その内、100騎を1群として突撃が開始された。


 神宮悟じんぐうさとるは聖剣:護国を抜いた。


 彼は聖剣に話しかけた。


「護国。行くぞ、カタリナさんを守るんだ」


 

 彼の意識はゾーンに入り、速攻で彼は動いた。


 そしていつの間にか、彼の体は聖女のオーラに包まれていた。


(悟さんを守りたまえ)

 一方、撤退をしながら、カタリナが祈っていた。


 その剣は光よりも早く、最初の1振りで戦闘の1群(100騎)全てを切り伏せた。


 やがて、数回振り、またたく間に100群《1万騎)を切り伏せた。


 暗黒騎士達はパニックになった。


「説明がつかない強さだぞ。なんで普通の人間が魔族である我々に勝るのだ」

「私は見たことがある。剣聖と言われたシャー様のようだ」

「聖剣が聖女のオーラを帯びている。魔族にとっては恐怖だ」


 残りの暗黒騎士達は恐怖に支配されていた。


 その結果、突撃命令との板場ばさみの中で、その場で固まってしまった。



 突然のことだった。


 戦場となった平野の上空に亜空間が開いた。


 そして、その中から暗黒騎士達が良く知る声が聞こえてきた。


「この司令官、暗黒騎士のマスター、剣聖と言われる時もあるシャーが命令する、『撤退しろ』全て私が責任を負う。魔王リューベ様にも説明する」


 固まっていた暗黒騎士達が動き出した。


 亜空間は閉じた。


 暗黒騎士の軍団はとても素早く撤退して行った。


 戦場だった平野に風が吹いていた。


 自分に最高に集中していた神宮悟じんぐうさとるは、風の感触を感じ、我に返った。


(よかった。暗黒騎士の軍団が撤退した。最初に最高の力で剣を振れたけど、あれ以上、同じくらいの軍団の突撃が続けば、どうなっていたか―― )


 やがて、彼の肩を誰かが優しく叩いた。


「えっ」


 彼が後ろを振り向くと、そこにはカタリナがいた。


 彼女は優しく笑いながら言った。


「お疲れ様でした。私の守護騎士は、やはりすごいですね」


(ああ、この優しい笑顔の聖女様を守り切ることができてよかった―― )


 彼はいきなり、その場に崩れ落ちた。


 カタリナは彼の頭をひざの上にのせて呼び掛けた。


「悟さん、悟さん、大丈夫ですか」


 彼女はすぐに安心した。


 彼が普通に眠っていることに気が付いたからだった。


「よっくり眠ってください。よく眠れるように私がお手伝いします」


 カタリナの美しい灰色の瞳が輝いた。


 すると、聖女のピンク色のオーラが神宮悟じんぐうさとるを優しく包み込んだ。


 彼の意識は、優しさに包まれ、深く落ちていった。



 国軍の兵士達が、深く眠り込んでいる神宮悟を王宮に運んだ。


 国王シャーから、そうするように指示があったのである。


 その日から10日間、彼はずっと眠り続けた。


 十分に眠った後、神宮悟はベッドの上で目を覚ました。


 すると、彼が眠り込んだ前、最後に見たのと同じ視線が自分を見ていた。


「カタリナさん。ここは? 」


「和の国の王宮です。シャー国王があなたを、ここに運ぶように指示ざれたのですよ」


「シャー国王は、あなたと再会するのを心待ちしていらっしゃいます」


「早くお礼に行った方がよいですね」


 その時、彼のベッドが置いてある部屋に小さな子供が入ってきた。


「あっ!! 目を覚されましたか!! 」


 武蔵皇子だった。


「皇子様がなんでここに? 」


「シャー国王が私を王宮に戻していただいたのです。国王直々の剣の修業も開始しました」


「えっ よかったです。剣聖と言われた方に教えてもらえば、とても強くなれるでしょう」


「ところで、国王が『彼は今日あたりに目を覚ますから、明日、会いたいとおっしゃっていましたが』」


 彼はカタリナがうなずいたのを確認して応えた。


「はい。もちろん、謁見させていただきます」


「私も同席します」



 次の日、神宮悟じんぐうさとるとカタリナは謁見の間にいた。


 国王シャーが言った。


「体の調子は元に戻られたかな」


「はい。ほぼ以前のように」


「それにしても、こんなに早く剣の道の奥義にたどりつくとは思わなかったな。神が領域のステージまで達したな。我の暗黒騎士軍団がお手伝いしたことになる」


 国王のその言葉を聞いて、彼は大変恐縮した。


「申し訳ありませんでした。戦争だったといえ、傘下の暗黒騎士達の命をたくさん奪ってしまいました」


けいよ。少しも気にしなくてもよい。戦場で命を落すのは騎士の常。死んだ彼らも悔いは残らなかっただろう。しかも、この世界で最強の剣で!! 」


「最強だなんて!! 剣聖のあなたから、そのようにおっしゃっていただくような高見に私はいません」


「それは全く誤っているぞ。我が宣言しよう。けいはこの世界最強だ!! 」










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