第11話 あなたは自分の魅力を自分が知らない

 神宮悟じんぐうさとるは驚いた。 


「しまった!! 今日は、サークルでバーベキューやるって言ってたっけ―― 」


 彼は東都大学の剣道部に入部していた。


 しかし、対外試合100連敗中で、大学の代表となることはなくなっていた。


 100連敗している理由があった。


 彼は普段、恒星の鎖を両手・両足につけているが、それでも、普通の人間と比べると最強の剣士だった。


 ただ、力の加減をするのが難しかった。


 対戦相手に大けがをさせてしまうかもしれないリスクが常にあった。


(現世の最終守護者が、普通の人に大けがをさせるわけにはいかない)


 そう考えた結果、彼はわざと負け続け、自分の力を隠した。


 それまでは、エースで全国大会で優勝したこともある彼が、突然負け始めた理由を誰もわからなかった。


 やがて、彼を批判しはじめた部員も現れた――


 このため、彼の家の神社の下の浜でバーベキューをするイベントも不参加とした。


「あっ!! あれは神宮だな。横にいるのは彼女か? 外人さん? ものすごい美少女だな!! ほんとうにダメなやつだ。落ちるとこまで落ちたな」


「よせよせ。あんなやつ相手にするのを止めよう。もう、剣術の道を極めようとする意欲も全く無いし。剣の腕もボロボロだろう」


 ところが、誰もが予期しなかったことが起きた。


「神!! 宮!! く!! ん!! 」

 月夜見とよく似ているが、シャープな容貌をした女性だった。


 彼女に、そのままうまく、なんとか通り過ぎようとした神宮悟は、カタリナとともに呼び止められた。


 彼と同じ東都大学の剣道部員である北川咲良きたがわさらだった。




「北川さん!! 」


「びっくりね、こんな場所を歩いているなんて。今日は部でバーベキューをやる日でしょう。もっとも、あなたなら悪気ななく忘れてしまったのに違いないけど」


 次に、北川はカタリナの方を見た。


「ふ――ん。わかる。あなたの女性の好みとしてはドストライクね」


「ドストライクですか? 」


 横から、カタリナが無邪気に聞いた。


「美しい方。さしづめ、西洋でいう聖女様なのかしら。ごめんなさい。質問の応えは、日本でよく使われる言葉です。私のような女の反対という意味です」


「???? 」


 カタリナは北川が言った意味が、全くわからなかった。


「悟さん。この女性とお知り合いですか。月夜見によく似た美少女ですね。でも、精神がとてもシャープな気がします。もしかしたら、剣士ですか」


「こちらは、僕と同じ東都大学の剣道部に所属している北川咲良いたがわさらさんです。この国、最強の女性剣士で、男性ですら勝つことはとても難しい人です」


「そうですか。咲良さん。私はカタリナ、あるやむを得ない事情があって、悟さんの親戚の海見神社にいそうとうしながら、悟さんに剣をならっています」


「カタリナさん。たぶん、人間の中で神宮君より強い剣士はいないな。私にはわかる。彼は桁外れに強い。そして、自分の実力を自然に隠してしまう」


「何を言うんですか。負けたことの無い北川さんと異なり、僕は公式戦100敗中ですよ。だから、みんなにも愛想をつかされるぐらいのクズですよ」


「違います!!!! 」

「違います!!!! 」


 カタリナと北川咲良きたがわさらが全く同時に、とても強い口調で言った。


「‥‥‥‥ ありがとうごさいます」


「カタリナさん。私はあなたのことがとても好きになったわ。ただ一つ、史上最強の剣士である神宮悟じんぐうさとるの妻になる資格があるのは私だけです」


「‥‥‥‥ 咲良さん。実は私もあなたのことが大好きです。でも王女様、私は公爵家の娘で身分は落ちますけど、王女様には負けません」


「王女様?? なんで私が王女様?? 」


「古き言葉で『サラ』って、王女という意味じゃないですか」


「はははははは あなた、神宮君と相性が良いわ。天然ね。さあ、いらっしゃい。おいしい料理が焼き上がるから」


 北川咲良きたがわさらは、いやがる悟、そしてカタリナをみんながいる場所に引っ張って行った。


 2人はあまり歓迎されなかった。


 しかし、そのうち、女性グループの中に入って行ったカタリナは、みんなの心をつかんで言った。


 彼女の優しい心とオーラはみんなの心をなごませ、平和を感じさせた。


 反対に、男性グループの中に入ろうとした悟は拒否された。


 誰1人も口を聞いてくれなかった。


 これまでの経緯と、今日は、2人の美少女に好意をもたれていることが何となくわかったからだ。


 だけど、そこまで極端なのは異常だった。

 悟は下級生を中心に絶大な人気があったからだ。



 カタリナが転移した日本、今、同じくらいの若い女の子達と楽しそうにいる砂浜から無限の次元・時間を超えた異世界だった。


 それは、カタリナが本来いるべき異世界。


 ロメル帝国の王都、王宮の妃の間に黒魔女ローザがいた。


 彼女は遠隔で砂浜の様子を監視していた。


「カタリ――――ナ とても楽しそうね。その場所は素敵ね。これから食事するの。私のカタリ――――ナ 食べ過ぎに注意するのよ。それじゃ、運動させてあげるわ」


 黒魔女はとても無気味な形状をした魔剣を手にした。


 その魔剣は、永遠の暗闇から魔力を引き出すものだった。


「その場所には精神の暗闇が満ちているわ。特に、あなたが愛する守護騎士に向けて――ね」


  黒魔女は、心の中で念じた。

(ビーダーク)


 その瞬間、魔剣から強烈な暗闇のエネルギーが放射された。


 そして、無限の次元・時間を超え、カタリナ達がいる砂浜に届いた。



 やがて、神宮悟に強い反感をもっていた男の子達の心の中に、深い暗闇が生じた。


 暗闇は彼らの心全体を支配し、


 最後には体をも支配した。


 全てを暗闇に支配され、生命力を無くした若い男の子達は変身した。


 それ姿は、もう死んでいるグールだった。


「キャ―――― 」


 砂浜に悲鳴が響き渡った。


 瞬時に神宮悟は反応した。


 しかし、彼は今日、練習用の木刀しか持っていなかった。


(なんで、突然、グールに変身してしまったのだろう)


 彼の気持ちは、心を共鳴させている月夜見にも伝わった。


(悟。大丈夫。鎖を外して戦う? )


(いりません。グールならば、木刀で神速で動いて、グールとして動くための神経系統に最大限の打撃を入れ、消滅させます)


 すぐに彼は木刀を構えた。


「疾風は吹き荒れる」


 そう言うと、彼は信じられないほどのスピードで動き、グールとして動くための神経系統に最大限の打撃を入れた。そして、消滅させた。


 その結果、若い男の子達は人間に戻り、気を失い砂浜に倒れていた。


 やがて、意識が戻った。


「どうしたんだ。今、一瞬、気を失ったみたいだな」


 カタリナが悟のそばに近寄ってきた。

「今、風の型を使いましたね」


 悟は小さくうなずいた。


 ところが、彼にとって、非常に困ったことが起きた。


 北川咲良きたがわさらが彼に近づき、満面の笑顔で彼を見て言った。


「見ました!!!! 最高の剣技・風の型でした。やはり剣の達人・剣聖。隠すのが大変だったでしょう。覚えておいて、あなたは自分の魅力を自分が知らない♡♡ 」





 









 

 

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