第5話 巫女の修業はさらに続き、彼女の魔力を覚醒させる

 異世界からの攻撃に反応して、カタリナの魔力は覚醒することができた。


 その夜、月夜見つくよみは考えていた。


(はるかな次元と時間を超え、カタリナを攻撃しようとした敵がいるのね。そんなことができるのは、かなりの魔力と神秘の魔法を構築できる強い魔女) 


(はるかな次元と時間を超える強力な魔法はたびたび実行できない。だけど、これから起こる厳しい戦いのために、カタリナの巫女修業を急がなくてはならないわね)



 次の日になった。


 前日、カタリナは、生まれて初めて自分の強大な魔力を制御した。


 そのため、朝起きた途端、体のあちこちが痛かった。


「痛っ― 体中の筋肉を動かすととても痛いわ」

 カタリナはふとんからようやく立ち上がることができた。


 その後、月夜見が朝食を用意している部屋に歩いていった。


「おはようカタリナ」


「おはようございます月夜見」


「カタリナ、体の方は大丈夫。昨日、生まれて初めて、あれだけ大きな魔力を放出して大がかりな魔法を構築したのだから、体に負担がかかっているはずだわ」


「はい。今、起きた途端、体中のあちこちの筋肉が痛むことに気が付きました。生まれてから、体中がこんなに痛んだのは初めてです」


「そう。ところで昔のことを聞くのは酷だと思うけど許して。カタリナは転移する前の世界では貴族だったの? 」


「はい。侯爵の令嬢でした」


「侯爵!! 相当高い地位だったのね」


「自分では意識していませんでしたが、ロメル帝国では最高位の公爵が空位でしたから、実質的には私の家であるマルク公爵家が最高位でした」


「家来もたくさんいたのですか? 」


「はい。城の中には1000人くらいいました。私の回りでも侍女が5人ほど。ですから、何もかも侍女がやってくれて、1日の内、私は数歩しか歩きませんでした」


「そ――おなの」


 月夜見が何かひらめいたかのようにカタリナを見た。


「すると、今日から行う修業は、カタリナにとってかなり過酷ね。特に今日は、その体の状態で始めるのは大変だわ。どうしようかな。明日からにする? 」


「大丈夫。お願いします。機能、あれだけのことができたのだから。今日もがんばれると思います」


「じゃあ。ご飯を食べてしばらくしたら、また階段の前で待っていて」



「お待たせ」


 階段の前でカタリナが待っていると、月夜見がやってきた。


「はい。これを持ってください」


「これは? 」


「あなたのお国でも、たぶん御老人は使われていたに違いないわ。それは杖よ。あなたは御老人ではないけれど、今日、必ず必要になるわ」


 月夜見は、その後の言葉を小さな声で言った。


「たぶん。疲れ果てて、フラフラになるから」


「えっ、今、なんて言ったですか? 」


「気にしないで」


 月夜見はごまかすかのように、階段を降り始めた。


 それで、20段目の階段を降りたところにある道に入った。


 しばらく進むと、鳥居があった。


「カタリナ。これは鳥居といって、ここからが特別な場所であることを示すものです。ここから先は、山の神が宿る場所なのです」


「この門から先は特別な世界なのですか? 」


「はい。ですから、人間がこの先を歩くのには注意しなければなりません。かなりのエネルギーを使うでしょう。心も体も」


「この先を進むのが、今日からの修業ですか? 」


「はい。この先を進み。この山、海見山の神域を通るのです。最後は、登り道になります。頂上にある神社の社殿の裏まで登り切らなければなりません」


「距離はかなりあるのでしょうか? 」


「かなりあります。人間が知っている普通の山道として、1日かけてようやく進むことができる距離。さらに、神域を進むことで、大きな負荷がかかります」


「でもがんばります。時間制限はないのですね」


「時間制限はありません。この鳥居から神域に入り、別にある頂上の鳥居から出れば終わります。杖を使いながら、足下に注意して進んでください」



 カタリナは月夜見と別れ、入口の鳥居をくぐり神域の山道に入った。


 入った瞬間は普通の道で何も変らなかったが、進むうち不思議なことが起きた。


「くすくすくすくす」


 カタリナが山道を歩いていると、人間の子供のような笑い声が聞こえた。


「こんな山の中に、子供がいるのかしら。しかも、たくさんの子供の声がするわ」


「くすくすくすくすくすくすくすくす」


 だんだん、さらにたくさんの子供の笑い声が聞こえるようになった。


 カタリナは山道を進むのを止めて立ち止まった。

「誰、みなさんはどこにいるのですか」

 

 カタリナは声の主に話しかけた。


 すると、


「誰、みなさんはどこにいるのですか」


 カタリナが話しかけたとおりの言葉が返ってきた。


 彼女は知らなかったが、それは木霊こだまだった。


「えっ!! 聖霊のようなものかしら。でも悪意は感じないわ」


 しばらくして、彼女はまた歩き進むことにした。


 また、声が聞こえ始めた。


「あの人、優しそう。聖なるオーラをまとっているわ」


「聖なるオーラに触れたいわ。きっと、気持ちがいいに違いないわ」


「あの人に飛びついてもきっと怒らないでしょう」


 声の主の実体をカタリナは魔力で探査したが、脅威になるとは感じなかった。


「私に危害を加えないのなら、ほっときましょう」


 声の主達を無視して、カタリナは山道を進んだ。


 山道は斜面に作られ、道幅も狭かった。


 その内、彼女は大変な重さを感じ始めた。


 山道からそれて落下しては困るので、杖を使い必死に彼女は歩いた。


 貴族の令嬢として、カタリナはあまり体を酷使した経験はなかった。


 しかし、今は重労働だった。


 ゆっくりゆっくり進み、やがて頂上の鳥居が見える位置まで歩ききった。


 すると、今度もまた、鳥居のすぐ向こう側で心配そうに月夜見が待っていた。



 鳥居をはさんで、カタリナと月夜見は向かい合った。


「カタリナ。がんばったわね。私はあなたが途中の山道で倒れるかもしれないと心配したのよ」


「ものすごく疲れたわ。体中が重いの。一歩、前に歩くだけで大変でした」


「わかるわ。カタリナ、自分の回りを注意深く見てごらんなさい」


 月夜見に言われて、カタリナは自分の体の回りを注意深く見た。

 彼女は無意識に探査魔法を使い、霊的な存在を感じた。


 すると、


「え――っ」


 彼女の回りには、多くの聖霊が集まっていた。


木霊こだまという山の聖霊よ。おとなしくて、何も危害を加えないと思うから心配しないで、ざっと1万くらいは集まっているわね」


「え――っ」


「はははは、人気者ね。聖女としてカタリナのオーラは霊的な存在に安らぎをもたらすのよ。」



‥‥‥‥‥‥



 カタリナが転移した日本、海見神社から無限の次元・時間を超えた異世界だった。


 それは、カタリナが本来いるべき異世界。


 ロメル帝国の王都、王宮の妃の間に黒魔女ローザがいた。


 彼女は遠隔で魔王に謁見していた。


「魔王リューベ様、御報告があります。私が始末しようとしましたあの娘がまだ生きています」


「聖女になる最強の潜在魔力がある娘だな。潜在魔力は発現せず、無力。確かはるかな次元・時間のかなたへ運良く転移できて逃げたのではないか」


「はい。そうですが、転移先で誰かの助けを借りて、巨大な潜在魔力が覚醒し始めています。現に、はるかな次元・時間のかなたから私を傷を負わせる攻撃を」


「何!!!! もう、それほど強い魔力を行使したのか」


「ですから、はやく命を奪わなければなりません。やがて、失礼ながら、我が主、魔王リューベ様に手が届く存在になります」


「そうか。では、災いを早めに消しておくことにしよう!!!! 」














 


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