第4話

 少年はタカヤと名乗った。僕は名乗る名がないというと、おじさんでいいよと言われた。ちょっと複雑な心境だけど、小学生から見れば、大人は全部おじさんだろうと思った。いい方に考えれば、親戚の叔父という年齢が確かに僕と少年の間では一番しっくりくる年齢差に思えた。兄というには遠いし、父親というには近すぎる。実際の年齢はともかく、外見はそんな感じだろうと。

 少年が塾の帰りにいつも寄るというコンビニで弁当を買った。代金を払う時、少し緊張した。自分が何者か分からないと、金も自分のものではない感じがする。タカヤはそんな僕を意地悪そうな顔で見ていた。

(記憶はないのにお金はあるんだ)

とでも言いたそうに。

 二人で並んで歩くと、少年は楽しそうに学校の話を聞かせてくれた。その話を僕は懐かしく聞いていた。記憶がないのに、不思議とそんな感じがした。


「でね、その、リョウジってやつがサイコーなんだ」

食事をして、タカヤのベッドで一緒に寝た。大きくなるまで使えるようにと大きなベッドを買ったのだそうだ。

 タカヤ少年は寝入るまでずっとリョウジ少年の話をしていた。タカヤとリョウジはライバルのような感じで、いつも競っているのだという。もっと小さなころは、二人ともバスケのスポーツ少年団に入っていたのだとか。バスケは大好きだったが、やがて両親が中学受験を見据え、勉強に力を入れ始めたらしい。それに伴って、彼らの放課後は、ボールを追うことから学習塾へと行き先を変えたということだった。

 それが、彼らにはとてもさみしいのだと、少年は語った。


 ちょうど翌日から学校は春休みに入り、タカヤ少年は塾の時間以外に遊ぶ時間ができた。その時間で、リョウジとバスケをするのだという。何故か僕まで連れて行かれた。

 話に聞くリョウジ少年は挨拶もそこそこに僕をじろじろと見た。明らかに警戒している目だ。仕方ない。得体のしれない大人の男が、親友と一緒にいるのだから。

 しかし、

「よし、合格」

何が気に入ったのかわからないが、合格点をもらえた。そうして、三人でバスケやゲーム、時々宿題もしながら過ごした。

 昼ご飯は僕がキッチンを借りてオムライスを作った。何故か作り方を知っていた。記憶がないのに、変なことは覚えている。

「……うまい。お母さんのオムライスと同じ味がする!」

タカヤはそう言ってばくばく食べた。何だか照れる。でも、嬉しかった。記憶がなくても、こうして誰かと繋がって、誰かを喜ばせることができる。そのことがほっとした。

 

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