第5話

 ドゥルン! ドゥルン! ドゥルン!

 爆音とともにそいつらはやって来た。

 オートバイが、バギーが、自転車を支えて立つジュンサーの前で停止する。

 やつらが降りて来る。

 数十人の悪党の群れだ。

 どいつもそれぞれの武器で武装し、凶悪なツラ構えをしているが、中でも目を引くのは、赤毛の細マッチョの男と、その親衛隊といった様子の六人の悪党だった。

 細マッチョの男は肩に黒光りするガトリングガンを担いでいる。

「ヒャッハー! てめえがジュンサーか?」

 細マッチョの男は口を開いた。

「俺様の子分をやってくれたみてえだな? そいつはアレかい? 俺様をガトリンガン・ジョニーと知ってのことなのかい?」

「そうです! ガトリングガン・ジョニー! こいつがテディとテリーを投げ殺したポリ公です! へへへ、ジュンサー! このトミー様が落とし前をつけに戻って来たぜ! やっちまってくだせえ、ガトリングガン・ジョニー!」

 誰かと思えば、先ほどの拳銃持ちの悪党である。こいつはジュンサーを指差してわめいている。

 不意に、ガトリングガン・ジョニーの凶悪そうな顔が青ざめる。

「おい、てめえ、俺の子分。てめえ、今なんつった?」

「へ? こ、こいつがテディとテリーを投げ殺したポリ公ですって言いました」

「ちげーよ。その先だ、先。その前に俺様をなんて呼びやがった?」

「が、ガトリングガン・ジョニー……」

 ズダダダダ!

 ガトリングガンが火を噴いた。

「あばばばば!」

 拳銃持ちの悪党は踊るようにしてくたばった。その体はハチの巣状態だ。

 ガトリングガン・ジョニーは言った。

「ボケが! 俺様を呼ぶときは様をつけろ、様を! もしくは心からの敬意を込めて親分と呼べ! 呼び捨てにしてんじぇねえよ、カスが!」

 悪党どもはゲラゲラと笑った。

「さて、と……。おい、こら、ジュンサー」

 ガトリングガン・ジョニーはガトリングガンを脇に抱えながら、ジュンサーに向き直った。

「俺様の子分、つってももう死んじまったが、あいつが言ってたとおり落とし前はつけさせてもらうぜ?」

「……」

「なんでも俺様たちのお楽しみを邪魔してくれたそうじゃねえか? ああ、コラ? この暴力の時代に、よえーやつらから奪おうが何しようが、俺たちつえーやつらの勝手なわけだ。それを邪魔するっつーのはいってえどういう了見だ、コラ? 正義のヒーローにでもなったつもりか?」

「……俺は」

「アア?」

「ジュンサーは、しいたげられている者たちのために闘う、それだけだ」

「……プッ」

「……」

「プッ、クックックッ、ハーッハッハッハッ!」

 ガトリンガン・ジョニーは腹を抱えて笑い出した。つられて、他の悪党どもも腹を抱える。

「寝言は寝て言え! 犬のおまわりさん! 新世界警察機構の飼い犬が! そうだ、てめえは犬っころだよ!」

「……」

「犬はおとなしく犬小屋で寝ていろ! そしたら骨でもくれてやるよ!」

「……」

「どうした、なにか言ってみろ!」

「……ひとつ、言っておくことがある」

「なんだ?」

「ジュンサーは犬ではない、戦士だ!」

「ほざけ飼い犬うううっ!」

 ガトリングガンガン・ジョニーがガトリングガンを持ちあげ――

 ジャキ! ジャキ! ジャキイ!

 ガトリングガン・ジョニーの親衛隊が、その他大勢の手下どもが、武器を構える。

 拳銃が、ショットガンが、サブマシンガンが、バズーカが、一斉にジュンサーを狙った。

 しかし、次の瞬間――鳴り響いたのは、やつらの銃声ではなかった。

 ガゴオオオオン! ガゴオオオオン! ガゴオオオオン!

 六たび銃声。

 ガトリングガン・ジョニーの六人の親衛隊が、はじかれたように後ろへ吹っ飛ぶ。

 運良く撃たれなかったその他大勢の手下は、ガトリンガン・ジョニーは、あっけに取られて硬直する。

 こんな早撃ちは見たことがなかった。

 六連発拳銃の銃口から煙が上がる。

「破砕拳銃ローリング・サンダー! 犬死にだな、ノラ犬ども」

 ジュンサーが言い終えるやいなや、恐慌をきたしたその他大勢の手下どもが、武器を放り捨て、われ先に逃げ出す。ばっ、化け物! などと叫びながら、一目散に逃げた。

「おい、コラ! てめえら!」

 残されたのはガトリングガン・ジョニーただ一人だった。

 ガチャリ! ジュンサーは自転車のスタンドを立てた。

「くそったれ……!」

 さすがのガトリングガン・ジョニーも、その凶悪なツラを真っ青にしていた。しかし、こいつはあることに気づいた。凶悪なツラに凶悪な笑みが浮かぶ。

「ヒャッハー! やってくれたな、ポリ公! だが、調子に乗るんじゃねえぞ! てめえのそのバカつえーリボルバー、今は弾切れだろ? 六人殺すのに六発撃っちまったからな! リボルバーの弾は六発! 六引く六はゼロ! どうだ、図星だろ? 要するに今のてめえは丸腰だ! つまり、俺様の圧倒的優位! てめえの早撃ちがどんなに早くても、空っぽの拳銃なんざオモチャ同然だぜ!」

「特殊警棒エクスカリバー!」

 ジュンサーは拳銃をホルスターにしまうと、左腰の棒を引き抜いた。伸縮式の細い警棒だった。

 ガトリングガン・ジョニーが嘲笑う。

「ヒャッハー! そんな棒きれ一本で何ができる?」

「試してみるか?」

「死にさらせ! ガトリング、ベイビー!」

 ズダダダダダダダ!

 ガトリングガンが火を噴き、銃弾が、破壊が、まき散らされる。

 一秒にいったい何発の弾丸が吐き出されるのか? 調べていないからわからないが、この時、ガトリングガン・ジョニーがばらまいた銃弾は途方もない数だった。

 普通の人間が標的なら、そいつはたちまちハチの巣になって死んでいただろう。

 だが、しかし、ジュンサーは普通の人間ではなかった。

「バカな!」

 ガトリングガン・ジョニーの目が驚愕で見開かれる。

 チュイン! チュイン! チュイン!

 ジュンサーの手が光のような速さで動き、銀の警棒が複雑な軌跡を描く。

 ガトリングガン・ジョニーのばらまいた死の弾丸は、何十発、あるいは何百発という弾丸は、すべてはじかれ、叩き落とされた。

 そして、終わりは訪れる。

「くそっ!」

 ベルト給弾式の弾倉がすべて尽きたのだ。それはガトリングガン・ジョニーにとって絶望を意味した。

「弾切れだな」

 ジュンサーが告げる。淡々と、息も切らさずに。

「くそっ! 化け物が!」

 ガトリングガン・ジョニーはガトリングガンを放り捨てると、全速力でオートバイへ走った。

 

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