魔法が使えず無能と蔑まれたので、物理で無双し使い魔たちと一緒にダンジョン攻略してみせます。

織侍紗(@'ω'@)ん?

一話 白髪の少年

「行ってきます。母さん」


「ああ、気を付けてね。アレフ」


 病で床に伏せっている母に挨拶をして、白髪で銀の瞳を持つ少年、アレフは家を出た。アレフは召喚士、と呼ばれる者たちの中の一人である。召喚士は召喚士の指輪を使って、使い魔を使役し戦う者たちの総称であった。


 そしてこの国、バレンシアの中心にある闘技場。そこで戦うことにより召喚士たちは報酬を得ることが出来る。ちなみにアレフまだ一度も勝ったことはない。

 だからアレフは召喚士の強さの基準であるランクで最低のFからあがったこともない。


「お、アレフじゃねぇか? 今日も負けに行くのか? お前には才能なんかねぇんだからさっさと辞めちまえばいいのによ」


 家を出て直ぐ、隣人の男性がアレフに声をかけた。髪の色は緑で少し小太りのおじさんだった。


「トーマスおじさん、おはよう。才能は無いの否定しないけど、俺には召喚士の道しかないからね」


 アレフは言われ慣れているからか、そんな批判的な言葉にも全く意に介す様子はない。そして、自身の頭に手を置いて、トーマスに続けてこう話す。


「この髪じゃ誰も雇ってくれないから。それに、父さんも目指した場所を目指してみたい」


「カールの背中を追いたい、か……ミューズも大変だな」



 カールはアレフの父、ミューズは母の名である。アレフの父は常々遺跡ダンジョンの最深部への興味が尽きなかった。最深部になにがあるのか、誰が何の目的で作ったのかを追い求めていたのだ。しかし、戻らなくなった。それから十年以上が経っている。


 そして、この国では白髪の人間はほぼ生まれない。そして、その全員が蔑まれている。それこそ捨てられるような子すらいる。

 トーマスとは小さい頃からの付き合いもあるのでまだマシだが、それでも言葉の端々にからはアレフを見下しているのがわかる。トーマス自体はそんな意思はないのかもしれないが、経験上その部分が滲み出てしまっているのだろう。

 トーマスはアレフの父が行方不明になってからは特に、母や自分のことを家族ぐるみで気にかけてくれている良い人だ。だから、アレフも言葉の節々から見下しているのが感じ取れるとしても、嫌な気持ちで会話を返すことは無かった。


 ちなみに何故白髪だと蔑まれているのかと言うと……


「まぁその姿じゃ魔法が一つも使えないのは一目でわかっちまうからなぁ……」


 トーマスは頭をポリポリとかきながら呟いた。そう、アレフは全く魔法が使えないのである。別に魔法を必ずしも必要としない職業もあるが、それでも同じ条件なら魔法が使えた方がいい。火をおこすにしても他人の手を必要とする人間を雇うなら、必要としない人間を雇う方が良い。それに白髪の人間を雇っているだけで、陰口を叩かれることもままある。

 だから白髪のアレフにはまともな仕事はなかった。仕事につけない白髪の者たちは、闘技場の地下にある遺跡ダンジョンで集めた物を売ったりして生計を立てるのが常だった。そして、戦う術を持たない者たちは遺跡ダンジョンに巣食う魔物たちに殺されるのも常であった。


 遺跡ダンジョンは地下何階層まであるか不明。何故ならば地下五階までしかたどり着いた者がいないから。ちなみに地下二階から地下五階までは森の中のような作りになっている。


 バレンシアの周囲には砂漠が広がり何も無いので、地下一階は開墾され、田畑や牧場のようなものもある。地下五階にはボスがおり、挑戦する為にはD以上の召喚士にならなければならない。


「まぁね……だから俺にはこの道しかないんだ。でも、今日は負けに行く訳じゃないよ?」


「お? 今日は勝てるって言うのか?」


 腰に手を当てて、トーマスはグイッとアレフに顔を近づけてそう茶化したが、アレフは首を横に振った。


「いや、今日は遺跡ダンジョンに潜ろうかと思って。まだまだ勝てないし、今日なら邪魔も少ないだろうからね。召喚士は皆、ランキング戦に行ってるだろうから……」


「まぁこれ以上なにかしても強くなるとは思えないが、邪魔も少ないのはそうだろうな……」


 今日は月に一回の召喚士のランクを決める日である。召喚士にとってとても重要な日だ。何故ならばランクの高さは収入の高さに直結するからである。


 闘技場では毎日のようにバトルが行われており、勝てば賞金が手に入る。当然、上のランク同士のバトルの方が賞金は良くなる。だから皆、上を目指すのである。ちなみにF同士ともなると観客もいないので賞金は無い。


 召喚士は強くなる為に遺跡ダンジョンに潜る者もいるが、そんな者は稀だった。何故ならば闘技場での闘いは召喚士自身への身の危険はほとんどないからだ。

 賞金も良い、身の危険がない。そんな状況で危険な遺跡ダンジョンに潜ろうとする者が少なくなるのも道理。


 ただ、そういう遺跡ダンジョンに潜る者が、アレフの獲物だったり戦利品だったりを横取りすることが多かった。これはアレフが蔑みの対象になっていること、そしてアレフが弱いからだった。


 ランク戦のある今日なら、召喚士達はほぼそちらに出ているので、遺跡ダンジョンに来る者はいないだろうと考えていたのだ。召喚士のランクを上げて収入を増やすのが最善。だが、それが見込めないのであれば、遺跡ダンジョンで狩りや採集をして、収入に繋げるしかない。採集はまだしも、アレフ自身の能力と使い魔の性能故に狩りはなかなか厳しいものがあるのだが……


「まぁ、少しでも強くなってバトルに勝てれば収入にも繋がるし、急がば回れってやつかな?」


「しかしなぁ……お前の努力は認めるが、才能は如何せん……っと」


 そこまで言いかけたトーマスは後ろから、ドンッと押されてつんのめった。その背後には黒い髪と黒い瞳を持つツインテールの少女が立っていた。

 そしてその少女は腰に手をあて、無い胸をドンッと張ってトーマスにこう告げる。


「お父さん! 何言ってるのよ! 努力に勝る才能は無いわ! アレフはいつか絶対、ずぇーーーーたいに強くなるんだから!」


「っとルディアか……いくら娘の言葉とは言っても超えられる壁と超えられない壁があるからなぁ……っと……」


 そこまで話したところでキッとルディアに睨みつけられて、トーマスはバツが悪そうになってしまう。


「あはは、ルディアか。そう言ってくれるのはありがたいけど、ルディアに言われるとなぁ……すぐに抜かれちゃったし」


 ルディアは今年で十五になる少女である。アレフとは三つほど歳が離れている。小さい頃から隣に住んでいたこともあり、仲良く遊んでいた。また、アレフの努力も間近で目にしてきた事もあり、アレフの数少ない理解者でもある。


 ルディアはアレフと対称的な黒い髪で黒い瞳の少女である。白髪が何も魔法を使えない象徴だったと同時に、黒い髪も特別な意味を持っている。


 髪と瞳の色は魔法の才能を測る指標にもなっている。赤が強ければ火属性の魔法の才能に長けて、青が強ければ水属性の魔法に長ける、といった具合である。

 黒髪黒目は全ての魔法に長けている証である。それはどんな使い魔にも相性が良いということにもなるのだ。

 実際、既にルディアはDまで位階を上げている。三年経ってもFから動けないアレフと違って、今年召喚士になったばかりの彼女が……である。


「何言ってんのよ、アレフだってきっとすぐにあたしに追いつくわよ! もしかしたら今日のランク戦で一気にDに……」


 その言葉を遮るように、アレフは手をパタパタと横に振りながら答えた。


「それはないって、ランク戦で飛び級はないからね。それに今日は出ないつもりだしね。遺跡ダンジョンに潜るよ。勝つ為にはもっともっと鍛えないと……」


 苦笑いを浮かべて答えるアレフに対して、ルディアはアレフが左手に付けている指輪を指さした。


「ねぇ、ならやっぱり使い魔変えた方がいいんじゃない? アレフがいくら鍛えたって限界あるわよ。しょ、しょ、召喚石の一つや二つくらい、あたしがあげるわよ」


 何故か最後に少し照れたルディアを余所に、アレフは左手を顔の前まで持ち上げ指輪を見つめた。


「いや、いいって。こいつは親父の形見だからね」


 その見つめた指輪は召喚士の指輪と呼ばれる物である。召喚石から召喚される使い魔は、この指輪につけられた召喚石に宿る。一つの指輪に付けられる召喚石は一つのみ。アレフの指輪には一体の使い魔が既に宿っていた。

 使い魔を変える方法は一旦解放するしかない。指輪に付けた召喚石を壊せばよいのだ。もちろん、壊れた召喚石は価値も無くなり、召喚した使い魔は消え去ってしまう。


「でも、上のランクに行ったらどうせ役たたずになるのよ? なら固執する必要無いじゃない?」


 当然上のランクになればなるほど、強い使い魔をより多く連れている召喚士が有利になる。使い魔達はレア度が決まっており、そのレア度毎に強さの最低値と最大値も決まっているからだ。


「まぁね…… そりゃ仰る通りなんだけど、その時はその時で考えるさ。こいつはそのままで他の使い魔も召喚してもいいんだし……」


 指輪を見続けるアレフはそう呟いた。この指輪は父から貰った最後のプレゼントであり、その日が父の姿を見た最後の日であった。その指輪とその指輪に宿っていた使い魔はアレフにとっての父の形見といったのは、そういう理由からである。行方不明ではあるが、十年も戻らないのだ。アレフは父は死んだと言われても否定はしないだろう。


「ってか時間大丈夫か、ルディア? お前は位階戦に出るんだろ? さすがにまずくないか?」


 ハッと思い出したかのようにアレフはルディアにそう言った。他の召喚士に会わないように、アレフはわざと遅めの時間に出たのである。ルディアもランク戦に出るならばとっくに向かっていないとまずいからだ。ランク戦は低ランクの者たちから始まるとは言え、さすがに立ち話をしてていい時間ではなかった。


「あー! そうだった! 急がないと!」


 慌てて駆けていくルディアの背中を見送り、アレフはトーマスに会釈をした。


「じゃあ俺もそろそろ行きますね」


 そう言ってアレフは黒いコートのフードを目深に被り、歩き出したのだった。


 アレフがふと顔を上げると既にルディアの姿は見えない。大通りを左に曲がったようだった。

 するとアレフはルディアの向かった方向と反対側に歩き出し、大通りではなく細い路地を遠回りして闘技場に向かっていった。


 バレンシアの真ん中には十字に大きな通りが走っている。その中心に闘技場がある。北の端に王達が住む館があり、その周辺は地位の高い者達の住まいが広がっている。

 闘技場を挟んで東西に走る大通りには商店が集まっており、いつも人で賑わっている。その大通りを挟んで南側一帯が、一般の人間が住む区画である。

 街はぐるりと城壁で囲まれており、周囲は見渡す限りの砂漠となっており、この世界にはポツンとこの国だけが存在している。闘技場は何万人と観客を収容することができる。この国の半分近い人数を一度に収容することが出来るのである。


 ルディアの向かった大通りを通った方が闘技場には早く着くのだが、いかんせんアレフにとって大通りは人通りが多くて苦手なのだ。フードを目深に被ってはいるが、当然アレフのことを知っている者も多い。だいたいが良くない印象を持っているのだが……


 特に召喚士の連中は酷いものだ。上のランクにもなると収入も多くなるので目指す者も多いが、その面、ライバルも多いし、ランクが高くなればなるほど傲慢な者も多くなる。アレフとまともに話をする者などルディアとその他数名くらいしかいないのだ。


 いつも歩いている道である、遠回りとはいえそれほど時間はかからずに闘技場の入口まで辿り着くことが出来た。中からは歓声も少し聞こえてくる。ランク戦を観戦出来るのは召喚士のみである。いつもはこの数倍、いや数十倍の歓声で盛り上がっているのだ。

 

 闘技場の入口の門の脇に小さな扉がある。この扉を開け、階段を降りると地下に遺跡ダンジョンの入口がある。誰でも入れるその扉をアレフはガチャリと開けると、階段を降りていった。二十段ほど降りた薄暗い部屋の中心には魔法陣が設置されている。

 アレフがその中心に立つと魔法陣が作動し、辺りは白い光に包まれたのであった。

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