第5話

ハナには何の力もなく拒否する財力もない。

心がどこかよそにあるようなふわふわした状態で出発の準備が進んでいった。

NJのことはけして嫌いではないし、Kのパートナーになるゾマーのことも嫌いじゃない。

でもNJのこともゾマーのこともKのことも、考えることは辛さとつながった。

何も直視しないまま、宇宙に乗り出すことになった。


※  ※  ※


目指す座標を入力し、ワープに入る。数度ワープを繰り返し、目標のエリアにたどり着く頃には冷凍睡眠から冷めるようにプログラムし、ハナは孤独な旅に出た。

幸せな夢と、悪夢とを交互に見た気がする。

悪夢と思ったら幸せな結末にむかい、幸せを感じたら悪夢へと暗転する、そんな長い夢を見続け、起きるべきだと思っても起きることができなかった。

そしてNJに揺り起こされてハナは覚醒した。


起こされても起こされても、覚醒に抵抗していた気がする。本音では目を覚ましたくなかったから。

まどろみの中でKとのあの1年を想っていたかった。

プロジェクトシボでは、移住に適当な星をみつけたらその座標を送ることになっている。

それまではNJと二人で生きるしかない。

確率で考えれば二度とKには会えないだろう。

だからこそ、頭の片隅にはKが住み着くようになっていた。

彼との会話を、仕草を、頬をゆるめたはにかむような笑顏をその片隅で息づかせた。

迷うことがあればKに語りかけ、苦しい胸のうちもKに吐き出した。

いつでもまざまざとKを思い出すことができた。


それで孤独ではなくなった。


NJとは仕事のパートナーとして、うまくやることができていた。

お互い前の恋人を引きずり他人行儀のまま節度を保った。

心はお互い前の恋人のもとにおいたまま。


そしてハナはNJとパートナーとして宇宙を探索した。それからずっと。

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