第3話おっさん、課金のレートもバグっていることに気が付く

俺はラスボスへの重い扉を開けた。


すると、真っ暗な闇の中に赤く光る双眸が見えた。


ヤベェ。ちびりそうだ。


「召喚! カーバンクル!」


頭上に光り輝く、氷の聖霊の召喚獣、カーバンクルが現れて、火竜に突撃する。


「……グアぁ!」


効いてる。効いてる!


俺はその隙をついて、一気に走り、竜の股を通り抜けて、奥へと進んだ。


「あった! ここが安全地帯だ!」


部屋の奥には洞窟があり、祭壇のような物の上に輝く水色のクリスタルがあった。


なぜ弱点の氷のクリスタルがあるところに住んでいるのかというツッコミは後だ。


上手く洞窟の中に滑り込むことができた。


次の瞬間、竜が背中を発光させ、大きな口から大量の黒煙と真っ赤な炎の熱塊が見えた。


「やベェ」


思わず目を逸らすが、ごぉおおおおおおおおおという熱塊が途中でかき消される。


「へ?」


その上、近づいて来た瞬間、グァっとダメージを受けて仰反る。


「Wikiの通りだな。よし」


Wikiが事実なことでホッと胸を撫で下ろしたが、剣で止めをさすのは危険過ぎる。


俺はガチャで手に入れた氷の短剣を投擲した。


「グアァアアアアア!」


予想以上に効いた上、怒った火竜はこちらに向かって来て氷のクリスタルで勝手にダメージを受ける。


「これ、氷の短剣じゃなくてもいいんじゃないか?」


俺は試しに腕に仕込んである、普通の短剣を投擲した。


すると、やっぱり怒った火竜はこちらに向かって進んでくれて、勝手にダメージを受ける。


もう1回やったら、キレたのか何度も何度もこちらに突進してダメージを受けて、更に怒って、突進して来る。


「よっしゃ。パターンに入ったぜぇ」


竜は同じ行動を何度も何度も繰り返す。


こいつ、馬鹿なのかな? なんで同じパターンでダメージ受けてんだろう。


なんか……気の毒になってきた。


すでに竜はもう息も絶え絶えに攻撃して来る。


必死に自分からダメージを受けにくるから、なんか、俺が悪いヤツになったような錯覚を覚える。


竜の足元はおぼつかなく、小鹿のようにプルプルと震えて辛うじて立っている次第だ。


「……すまん」


なんか、謝りたくなった。


だが、放っておけば俺が死ぬ訳だから、止めをさすよりない。


「召喚、カーバンクル!」


そう言うと、召喚獣が竜に攻撃して、竜は怨嗟の声を上げて、断末魔とともに、息絶えた。


竜の体は黒い粒子となり、霧散して消えた。


『盗賊のレベルが80に上がりました。ドラゴンスレイヤーの称号を手に入れました』


そして、ドロンと言う音と共に金貨と宝箱が出現した。


よし、ここからは俺の盗賊の腕の見せ所だぜ。


俺はそうほくそ笑むと、アイテムボックスから鍵開けの道具一式を取り出した。


冒険者ギルドに盗賊と登録すると、女神様から加護が受けられる。


器用さの補正が主で、戦闘にはあまり役に立たないが、ダンジョンに入るには盗賊は必須だ。


何故なら、隠密と索敵のスキルで斥候としての役割は重要だし、そもそも宝箱を開けるには高位の魔法使いか盗賊が開けるしかない。


俺は器用に宝箱の鍵を開けると、鑑定した。


鑑定と言ってもスキルや魔法ではない。ギルドの書物と経験から学んだ鑑定だ。


俺はこの宝箱に危険はないと判断した。


色は紫、金の縁取りがされていて、形は通常の宝箱、様々な紋様が描かれているが危険なミミックや爆弾の罠の特徴は見当たらない。


宝箱を開けると1振りの剣が出てきた。


「これ、かなり価値のある剣じゃ? そうだ。Wikiで!」


調べると、SSR武器ユースティティアと書いてあった。


「伝説の……聖剣だ」


俺はステータスを確認しようとした時、何か通知みたいなのが来た。


『1周年記念の無料300連ガチャ開催、ディスカウントショップも開催』


俺はステータス画面から無料ガチャを引いて、ディスカウントショップを見た。


……10000ギル、金貨1枚で天空石10000のレートか。


どうも、武器や強化素材も天空石というところで購入できるようだが、かなり高価だ。


しかし、聖剣はまだ強化できると気がつき、更にWikiでアミュレットやスフィア、武器のパッシブというのも強化できると知った。


それで、聖剣だけでも強化しようと思って、金貨1枚で天空石を購入した。


「……は?」


俺は目を拭ってステータス画面を見直した。


……さっきまでの天空石の所有料は0だったのに。


現在の天空石の在庫は。


――――――――――――――――――――


名前:おっさん


職業:盗賊Lv80


[天空石:100000000]


[ギル:110000]


[HP:64(+5000)]


[MP:24/24]


[攻撃:128(+5000)]


[防御:64(+5000)]


[魔力:16]


[速度:256(+5000)]




◆装備


[武器:聖剣ユースティティア(SSR)]


[防具:革鎧]


[召喚獣:氷のカーバンクル]


[その他1:アミュレット]


[その他2:スフィア]


◆固有スキル


[ゲームプレイヤー(SSR)]


◆スキル


罠外し(大)、鍵開け(大)、隠密(大)、探知(大)、察知(大)、剣術(小)




◆称号


[ドラゴンスレイヤー]


――――――――――――――――――――


俺は天空石のレートがバグっていることに気がついた。


ついでに、聖剣の性能もバグっていることに気がついた。


「あー!!!! こんちくしょう!」


俺は思った。


なんか、この世の中の仕組みって、ちょろいような気がする。


みんな知ってたんだろうな。俺も若い頃に気がついてたらな。


そう、今まで、俺だけが気がついてなかったんだ、と。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る