耳が悪い、と言ってはいけない

 一応始めに喚起ですが、こちら難聴や耳が聞こえづらい方を冷やかすなどの悪意は全くございません。

 ですので危険臭を感じましたら、ここでバックくださいませ。


 よろしいですか? では参ります。



 中学、高校共に部活動は吹奏楽部でした。

 中学入学時の当初は造形部(美術部と図画工作部が合体したようなもの)に入ろうと思っていたのですが、親しかった友人が「せっかく電子オルガンを習っているのだから」と吹奏楽に誘ってくれたのです。


 担当楽器はトロンボーン。長いU字の棒のようなものを前後して音を奏でる金管楽器ですね。

 本当はフルートが良かったのですが……音が全く出ず、センスのかけらもありませんでした。次点のクラリネットもダメ。木管楽器とは相性が悪かったようです。

 とすれば金管楽器か打楽器になるわけですが、〝どうせやるなら花形が良い〟と思いトランペットにしたかったものの体験定員オーバーで参加できず、代わりに空いていたトロンボーン奏者の先輩に「一杯どう?」のノリで引き入れられました。


 まんまと策に嵌まりました。

 この先輩、とても面白い方で人柄も良く、「いや、私トランペットが……」とは言えませんでした。おかしいですね、金管でもトロンボーンは難しそうだったので、絶対嫌と思っていたのですが。U字棒のポジショニングとか。


 結局、私はトロンボーン奏者になったのです。

 高校でも当たり前のように吹奏楽部に入り、当たり前のようにトロンボーンを続けました。



 さて、吹奏楽などのオーケストラにおいて、一番偉い人はもちろん指揮者です。

 ちなみに次に偉いのは、指揮者から見て一番左手前に座っているコンサートマスター、通称コンマス。女性だとコンサートミストレスになりますが、この方はオケ全体の音程の基準とされる重要な役割を果たしている方です。豆知識でした。


 話を戻そう(デジャヴ!)。


 高校部活の指揮者は誰が務めるのか、それは学校によって様々です。強豪校などは学生の中から選抜されて学生が務めるところもありますし、外部講師であったりしますが、殆どが顧問の教師が務めているでしょう。

 私の高校も顧問の教師でした。とても人情のある先生で、私の人生における尊敬できる三人にランクインしている方です。が、我々吹奏楽部員にとってこの先生は指揮者、つまり逆らうことのできない絶対的存在です。ヒエラルキーのThe頂点に君臨します。

 この絶対先生、ご本人も楽団に入っておりトロンボーン奏者でありました。よく隣で演奏されてイジられたものです。音で圧力かけられるのが一番怖い。


 そんな絶対先生の前では言ってはいけない言葉があります。

 それが本題、「耳が悪い」です。


 ありますよね、誰かが自分にとって不利な話をしているのに「ごめん私、耳悪いから聞こえんわ~」ってノリ。こうゆうノリの「耳が悪い」です。


 先ほどの絶対先生に言ってしまったら最後。


「ほー、耳が悪い? 耳というのはただ聞くための器官であって、ここで聞いたものを理解するのは全て脳で処理されることだ。つまり悪いのは耳ではなく……?」


 ……言いたいこと、お分かりですね?

 これ、絶対先生は信頼関係のある生徒しか茶化しませんので、ご安心を。


 我々吹奏楽部員は「キーッ!」とはなりますが、ニヤニヤする相手には何の言い返しもできません。ただ一発平手打ちは入れます(入れるんかい)。


 それ以来私は「俺、耳悪いんだよね~」というお声を耳にすると、あぁそれは言っちゃいけないよっ! と忠告したくなります。何だか某魔法学校長編ファンタジーの例のあの人みたいですね。


「耳が悪い」

 皆様も、口にする際はお気をつけて……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る