第46話 八方塞がり

(遠野視点)


 このダブルス2は重要だ。ここを落とせば2敗目で後が無くなるが、勝てば一気にこちらに流れがいくだろう。そういう意味でこの試合は重要だ。潮林の相手は誰だろうか。まだ具志堅さんとジャクソンさんが出てきていない。彼らはどのタイミングで来るだろうか。


 しばらくすると対戦相手がコートに入ってきた。そこには具志堅さんの姿があった。もう1人は会ったことはなかったが、具志堅はダブルス2に出てきた。具志堅さんは俺の弱点を知っていると言った。その具志堅さんと当たることになったのは単なる偶然とは思えなかった。俺達はコートを挟んで向かい合う。


「これはこれは、お待たせしましたね」


 これまでと同じく煽り口調で話していた具志堅さん。俺はある気になっていたことを質問することにした。


「いえ、大丈夫ですよ。それよりも…」


「?」


「もしかして僕達がダブルス2に出ること、読んでました?」


「…流石に気づいたか。そうさ、俺はお前達がここで出てくることを知っていたよ」


「じゃあ、さっきのシングルス3も…」


「ああ、俺があの試合展開を指示したのさ。そしたら相手も思い通りに潰れてくれて、本当扱いやすかったぜ」


「やはりそうでしたか」


「お前らもあいつみたいに俺の手のひらで踊らされるだけだ。俺のデータは完璧なのだから」


「…良い勝負をしましょう」


「そうなると良いな」


 急に話し方が変わった。戦闘モードということか。


「あの人…、好き放題言いやがって」


 阿西が少し怒っていた。それもそのはずだ。仲間をあんな風に言われたのだから。


「俺達が勝ってあの人を黙らせるしかないな」


「…そうだな。頑張ろう」


 阿西は深呼吸をしてそう言った。


 試合は俺からのサーブで始まった。俺はフラットサーブをワイドに打って主導権を握ろうと考えた。リターンする人は具志堅さんだった。


(!。ワイドにもう移動している…)


 具志堅さんはワイドに打つということを読んでいたのか、素早くワイドに移動してリターンエースを奪った。


「0-15」


 続くポイントも俺のサーブは読まれていた。ならばストロークで相手から優位を奪うしかないと思い、返ってきたボールをスピンボールで打った。しかし打ったボールの先にはボレーヤーの具志堅さんがいて、綺麗にボレーを決められた。


「0-30」


(これも読まれているのか)


「遠野、次は俺がポーチ出るからフォロー頼む」


「うん、分かった」


 阿西からの提案で次はポーチに出て積極的に攻める作戦に出た。俺はスピンサーブをセンターに打つ。これでは角度もつけにくいから、読んでいたとしてもリターンエースは狙えない。正面には阿西、そこ以外は俺がカバーしている。準備は万端だった。


「ポン」


(なに…)


 具志堅さんの選択したボールは高いロブ。しかもこの弾道だと、ボールはベースライン上に落ちる。普通ならここで後衛の俺がグラウンドスマッシュを打つべき場面だが、俺はスマッシュを打てない。つまり俺にとっては不利なボールだ。やはり具志堅さんは俺がスマッシュを打てないことを分かっていたようだ。


(ならば…)


 俺は落ちてきたボールをドライブボレーで前衛を抜くショットを打った。打ったボールは綺麗に前衛の横を抜き、コーナー隅へ突き刺さる。決まったと思った場面だった。


(はっ!)


 何と打ったボールの先に具志堅さんがいた。これも読まれていた。具志堅さんはパッシングショットで阿西の横を抜き、またしてもポイントを獲得した。


「0-40」


 その後、阿西の強打、俺のジャックナイフといったパワーで押し切ろうという作戦に出た。

だが全てのショットを読まれている状況でそれらのショットを打つことは出来なかった。またしてもラリーの主導権を握られ、ポイントを失ってしまった。


「ゲーム潮林1-0」


「お前達の動きはお見通しだ。俺達には勝てないよ」


 チェンジコートの際に具志堅さんがそう言い放った。確かにここまでのポイントは全て打つコースを読まれて取られている。どうにかして意表をつくショットが必要になるが、それも読まれているかもしれない。考えれば考える程頭が混乱していく。ここからどうしていくかという決断に俺は苦労していた。


(喜納視点)


 この試合も俺はベンチコーチとしてコートにいるから何か効果的な作戦とかを伝えたい。前のシングルス3で負けてしまったからこそその思いは強かった。


 あの具志堅さんは遠野と阿西のショットがどこに打たれるのかを完全に読んでいる。それでジャックナイフも強打もどちらも封じている。


(もしかしたら…)


 俺はここでとある可能性について考えた。具志堅さんのこの試合の目的がこのジャックナイフや強打のようなパワーショットを打たせないことだったとしたら…、その為にショットのコースを読んでいるとしたら…


「阿西、遠野」


 俺は阿西、遠野に対してあることを伝えた。


「………」


「オッケー、やってみる。だったらこの作戦はどう?」


 俺の考えを聞いた阿西はある作戦を提案した。


「了解。じゃあ行こう、阿西」


「おう」


 さあ、この作戦が成功すればこの戦況はひっくり返せる。蒼京の反撃はここからだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る