第13話 皇女な弟子と同棲生活!?


「それで、なんでルーシィ殿下が私の部屋にいるんですか……?」


「決まっているでしょ? 私があなたの弟子だから」


 ルーシィはあっけらかんと言い放つ。

 ここは俺の部屋。それも教授としての研究室ではない。


 寝室だ。


 魔法学校の教授となった俺は、教師用の寮に住むことになった。恨みを買っているクラウスだから、最初は若干警備に不安はあった。だが、魔法学校はそう簡単には侵入できないように結界が張られている。


 同僚の教師たちも指折りの実力者だから、むしろ自分の侯爵邸よりも安全かもしれない。

 それは良いのだが、なぜかルーシィが俺の部屋にいる。帝姫殿下で、女子生徒が男性教師の部屋にいるなんてありえない。


 俺がそう言うと、ルーシィは首をかしげた。

 そして、よりにもよってベッドの上に腰掛けて、足をぶらぶらさせる。

 

 ラフなワンピース姿だが、スカート部分の丈が短くて、下着が見えそうで目に毒だ……。


「なんで? 別におかしなことじゃないと思うけど」 


「いやいやいや、ルーシィ殿下だって一応女の子なんですから、男の部屋に軽々しく出入りしないでください」


「い、一応、なんて失礼ね! 私はこれでも学校一の美少女で有名なんだから!」


「自分で言いますか、それ?」


「だって、事実だもの。そうでしょう?」


「まあ、ルーシィ殿下が可愛いのは客観的事実だと思いますが」


「ふ、ふうん。そっか。クラウス先生も私を可愛いと思うんだ……」


 ルーシィが顔を赤くしながら、真紅の髪の毛先を指先でいじる。

 照れているのだろうか?

 

 実際、ルーシィは可愛いと思う。ゲームでも俺は一番可愛いキャラだと思っていた。

 それは外見はもちろんだけれど、その仕草や性格も含めてのことだ。


 帝国のために献身し、どんな事態に陥っても勇気を失わない、まさにヒロイン。颯爽と魔法を使い、あらゆる敵を打ち倒す。

 その可憐さと美しさは誰もが目を引くだろう。


 それでいて、女の子らしい可愛いものが好きだったり、ツンデレな面があったり。人間としても弱くて臆病なところもあって、それを克服しようとしている。

 そういうところをひっくるめて、可愛いと思う。


 しかし、だからこそ問題なのだ。


「ですから、そういう美少女が軽率に男の部屋に入るのはですね……」


「軽率ではないわ。だって、私はこの部屋に住むんだもの」


「は?」


「師匠と弟子は一心同体。同じ部屋に住み込んで、魔法を教わる。昔からの伝統でしょう?」


 たしかに百年ぐらい前はそうだった。魔法の師匠は弟子を住み込みで教える。

 それは技術だけでなく精神面を教えるために必要なことだった。魔法を使うための倫理、人としての生き方、とか、そういうことだ。


 だが、それも昔の話。近代的な教育が普及した「帝国」では、師匠が弟子をつきっきりで教えたりはしない。


 魔法学校でも指導教官という形で教えるだけで、いわゆる「師匠」のような精神的なものではなくなった。


「ルーシィ殿下、いつの時代の話をしているんですか……?」

 

「今、この瞬間のことね。私はここに住むから」


「いや、それはまずいというか……」


「なんで?」


「ルーシィ殿下だって、子どもじゃないんだからわかるでしょう?」


「あら、私は子どもよ。まだ魔法学校の生徒だもの」


 くすくすとルーシィは笑う。もし俺が「子どもだ」と言ったら怒るだろうに、都合のいいときだけ自分が子どもだというのだから悪質だ。


「それとも、クラウスはなにか困るようなことがあるの?」


 ルーシィがからかうように言う。俺は肩をすくめた。


「そうですね。ルーシィ殿下はどうして師匠と弟子が同居しなくなったかご存知ですか?」


「学校とか代わりの制度ができたからでしょ?」


「それもありますが、いろいろな不祥事があったんですよ。男性の魔術師が、弟子の貴族令嬢を妊娠させたりとかね」


「に、妊娠!?」


 ルーシィが顔を赤くしてうろたえる。セクハラ発言になるかと考えたが、ここはファンタジー世界。セクハラという概念はない。


 強めに言わないとルーシィは言うことを聞かないだろう。


「それって、赤ちゃんができちゃうようなことを……したってことよね?」


「そうなりますね。男女が一緒の部屋に住んでいれば、そういうことも起きるということです」


「クラウス先生も私にそういうことをしちゃうってこと?」


「いや、俺はそんなことをしませんが……」


「なら、大丈夫よね?」


「だ、だからそういう問題ではなく……」


「私はクラウス先生を信じているから平気」


 ルーシィはふふっと楽しそうに笑った。

 このお転婆皇女をどうしたものか。


 俺は頭が痛くなってきた。世間知らずのお姫様だから、男を信じるなんて言えるのだろうが……。

 ルーシィは俺がゲームで一番好きなキャラだ。その本人が目の前にいれば、下手したらなにかしかねない。


「だいたい寝床はどうするんですか?」


「このベッド、広いし二人ぐらい寝れない?」


「寝られません!」


「えー、ダメかしら?」


 ごろんとルーシィが寝転がり、仰向けになる。

 その拍子に16歳の少女にしては大きい胸が揺れて、俺はつい目で追ってしまう。


 俺はいい大人なのに……。

 いや、大人だからこそ、このメスガキ皇女をわからせないといけないのか。


 俺はベッドの上のルーシィに覆いかぶさるようなポーズを取る。

 ルーシィが「えっ」と慌てた表情になる。


「く、クラウス……先生?」


「さっき何もしないって言いましたが、あれは嘘です。そんなふうに挑発されたら……俺だって何もしないわけじゃないんですよ?」


「そ、そんな……その……私、そんなつもりじゃ……」


 どぎまぎした表情でルーシィが瞳を潤ませる。

 よしよし、いい調子だ。これに懲りたら、俺の部屋には来ないように、と言おう。


 ところが、ルーシィは目を閉じてしまう。

 そして、とんでもないことを言い出した。


「私、初めてだから……ちゃんと教えてね」


「へ?」


「き、キスの仕方とか、わからないもの」


 ルーシィはぎゅっと目をつぶった。





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