第11話 女湯に性自認女性の男性が入ったら?

 女風呂に遺伝子・認識・性器が男性の人が入った場合にどんな罪になるでしょうか。これは建造物侵入罪となります。つまり、許可されていない場所に入ったことで罰せられます。3年以下の懲役または10万円以下の罰金です。


 さて、刑法には法によって守るべき法律上の利益と言う概念があります。「法益」といいますが、さて、女風呂に男性が入った場合、一番守られるべき利益ってなんでしょうね?


 現時点では、女性個人としての尊厳の問題でも、羞恥心というマイナスの感情を侵害されたことでも、裸体の性的な価値という経済的な価値でも、風紀秩序の維持・性犯罪の防止と言った社会的な要請ではありません。単に許可されていない場所に入ったから、というのが理由になります。建造物侵入罪は親告罪ではないので検察は一応立件できることになります。


 まず考えるべきは、女風呂に男が入ることにより失われる法益は女性が裸を無断で見られたことではない、ということです。これはちょっと一般の感覚だと意外なのではないでしょうか。

 今回刑法改正で、盗撮が罪に問われることになりました。そして、窃視の罪という覗き見の罪もあります。この場合の守るべき法益はもちろん上で上げた、尊厳、羞恥心などでしょう。ただ、覗き見られた盗撮された側に認識が無い場合も罪になりますから、ここも実は曖昧です。公序良俗を乱したということかもしれません。


 ただ、風呂場の場合ですよね。堂々と入った場合は女性の裸を見てもそれは法益ではないということです。


 と、考えた場合、性自認が女性で遺伝子も性器も男性の場合。この人が女湯に入るのは、自ら女性という認識があるわけで、女湯に入った場合は許可されているものと誤認していることになります。

 つまり、故意性が問われることになります。一応、厚生労働省かどこかが性器の有無で判断せよ、という文章がでているようですが、これは法律ではありません。「法律の不知は罰する」の原則にも引っ掛かりません。


 一応、「女湯に入る」という行為については自分で意図したことです。その点で故意性はありますが、民法の事実の錯誤と違い刑法の場合は「犯罪行為」というか「構成要件」に該当する行為をすることに故意性があるかどうかでしょう。


 普段から男が女性として性自認があるかどうかの立証責任は検察にありますが、その日その時に女性性に目覚めたと言われたらどうなんでしょうね?この件の「女性」が立証責任を負うのでしょうか?


 で、もちろんLGBT法との整合性が問題になってくるわけです。何が言いたいかと言うと守るべき法益が、見られる側の裸体にない以上は実はLGBT法によれば答えはあきらかで、性自認が女性で遺伝子男性・性器男性の人は、女湯に入れることになります。

 というか、こういう人は男湯に入ると「異性」の側の風呂に入ったことになり、建造物不許可侵入に該当することになります。これをどうやって立件するのでしょうか?やはり刑法に定義として性器の有無か遺伝子によると定義をすべきでしょう。


 刑法は公権力を行使し処罰するための「やってはいけないことリスト」です。ですから、人権を守るためには定義はかなり厳密でなければなりません。現状だと性自認女性の遺伝子・性器男性が男湯に入るという「罪」を犯しても立件できません。


 とまあ、不合理な結論に見えますが、しかし、ここで待ちましょう。女性の裸体を見ることに関して、どんな法益があるかもう1度考えて見ましょう。


 混浴というのはグレーゾーンですが、まだ世の中にはあります。グラビアアイドルは肉体のかなりの部分を公衆の面前で露出させます。というか海岸やプールでは一般人も同様です。ヌードモデルを美大や絵画教室という場で男性が描くこともあります。

 海外においてはヌーディストビーチがあり、ファッションショーでは裸体を見せても問題になりません。つまり、裸体には守るべき法益がない、と考える事はできないのか?ですね。

 まあ、意志の有無が問題になりそうで、そこは許可された場所という定義はできますが、どうでしょうね?裸体の法益って、もう1度考えた方がいいのではないでしょうか。


「裸体の法益」「男女の性別」って、刑法上定義されていない、読み取れない気がします。これが無いから混乱するのでしょう。




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