第5話 不同意性交罪と離婚事由は矛盾している。

 不同意性交罪という罪が新しくできました。これによりセックスについて旧来の強制性交等罪よりも同意の有無の要件が詳細になりました。


 その中で夫婦の場合でも不同意があり得ます。「婚姻関係の有無にかかわらず、五年以上の有期拘禁刑に処する」とあります。が、どうも離婚事由と矛盾する気がしてなりません。


 例えばです。夫が働いていて妻が専業主婦のケースです。妻が夫とのセックスを拒んでいる場合。20~30代では夫にとっては辛いものです。その場合セックスレスは離婚事由になるとされています。


 夫は妻とセックスできないなら離婚しようと切り出します。妻は仕事をしていないですが子供もいないので養育費ももらえない。正当な理由なくセックスを拒んでいるのは妻ですので損害賠償の請求もできないでしょう。そして若い夫婦なら財産分与もたかが知れています。


 仕方がないから妻はセックスに合意します。それがイヤイヤだとしたら?この場合は不同意性交罪の構成要件に該当しないか、ですね。


 不同意性交の要件の8番目。離婚を切り出されるイコール「経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること、またはそれを憂慮していること」を主張することができる気がしますがどうでしょう。


 つまり、最悪、妻が意図的に「離婚を回避するために嫌がる妻に経済的な優位性でセックスに応じさせた」という状況を作ることができます。若い夫婦であるのにセックスを拒むという妻が、離婚を有利に進めるために、不同意性交を主張することができる…かもしれません。


 本来、刑法犯について、犯罪行為があったかどうかを立証するのは、常に検察側となります。不同意であったという事実を立証する義務があるわけですが、この点においても長年「妻は拒否していた」ということが証言として採れれば、それが状況証拠にもなりえるということです。夫が酒の席で愚痴をこぼしていれば、妻が友人に打ち明けていたら、それが証言として採用されないでしょうか。


 本条の不同意性交罪を機能させるためには「同意」とは内心は関係なく、外形上の同意があれば同意と判断する、という理屈ではないと常に「本当は不同意だった」と言ったもの勝ちになります。ですがこの逃げ道も本件の場合潰されており、それが8番目の要件です。


 夫婦関係において専業主婦であっても8番目の要件は含めないとしないと、この問題は生じるはずです。不同意性交罪に「婚姻関係の有無にかかわらず」と入れたのは民法との整合性において最大の失敗だと思います。


 事実上夫の状況や苦痛が情状酌量されるなど裁判上の斟酌はあったとしても、構成要件に該当し証言で裏付けが採れている以上、起訴される可能性があるということです。しかし情状酌量であれば執行猶予付き有罪判決の可能性もあり、この場合は離婚については妻が有利となるのではないでしょうか。


 本来は現行の法規であれば、違法性や有責性が阻却されること、つまり裁判上の無罪判決がでることが重要です。むろん構成要件に該当しないように法規の改正が望まれます。

 そして、妻が善意・無作為ならいいのですが、悪意(法律用語だと意図的にと言う意味)の場合は、妻に対して民事上あるいは刑法上のペナルティがあってしかるべきでしょう。

 こんなことが起きる可能性があれば、この条文は民法上の夫婦の概念を壊すことになりかねません。可能性が危惧されるだけで欠陥なのです。


 私は公共の福祉および安定した法律関係が個人の権利に優越する立場をとりますので、この条文は間違いだと思っています。


 なお、法務省のQAを見る限り、夫婦は8番目の事由に挙げていないです。しかし「夫婦を含む」ことが明確な「セールスポイント」の法律ですからどうなんでしょうか。早く明確にしたほうがいいと思います。




 










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