27
「なぁ、真也よぉ、お隣さんがムッチャ怖いんだけど」
「気のせいだ。気にするな」
1限目の休み時間、話しかけに来た和也が、開口一番に真也にそうが、真也はと言えば、涼しい顔で無視を決め込んでいた。
朝、投稿すると、すでに千春が席についており、ソワソワとしながら、チラチラと真也の様子を伺っており、さらにその目が微妙に血走っていた。
何を考えているのか、なんとなく想像はできるが、今朝の一連の友香とのあれやこれやが思い起こされるため、全力で無視を決め込んでいた。
仮にも幼馴染である、ちょっとした動作ですぐに何があったかぐらいはバレてしまう。
その危惧が正しいのかは分からないが、少なくてもお隣の千春が朝からあまり機嫌が良くない事は見て取れた。
「そういや、佐藤さんのお母さんで良いのかさっきの?」
「え、ああ、はい。母がそのぉ、静流さんて人に会いたいらしくて」
それを聞いた瞬間、嫌な予感がしたが、今のところ静流さんから強制連行などはされていないところを見ると、問題は起きていないのだろう。
「げ、静流ねぇさんか・・・かかわらんとこ」
「お前、ほんとあの人苦手だよなぁ」
そこで千春はふと妙な事に気が付く、真也は和也があの司書を苦手だと言っているが、千春から見た感じ、苦手の部類がなんか違うような、そんな違和感を覚えた。
「ねぇ。シー君、それよりも昨晩何かあったぁ?」
かまをかけるともりで、そう聞いたのだが、以外にも幼馴染の反応が良く、何かを思い出しているのか、微妙に耳が紅いのを千春は見逃さなかった。
「やっぱり友香ちゃんと何かあったんじゃん!」
「は? 友香って・・・確か真也に告白した娘だよな、どういう事?」
そう言えば事情を話していなかったと、真也は和也を見て、すごく面倒くさいものを見る目になった。
しかし、千春は構うことなく、爆弾を放り投げてきた。
「昨日、私がお母さんたちに連行されたから2人きりになったでしょ。泊ったんでしょ?」
「お、おいバカ」
慌てて、止めようとしたが、時すでに遅く、千春の声が興奮していたためか、妙に大きく、クラス全体が今の一言で静寂に包まれた。
あ、と思って千春はまずいという顔をしたが、すでにクラスメイト全員がこちらの動きを凝視している。
「ほほぉ~、告白されて。お友達からってぇ話だったはずだが。お泊りですかさっそく」
「おい悪友、お前事態を悪化させたいようだなぁ」
「いやだってなぁ。お友達(女子)が男の家にお泊りだぜ?」
こいつ、後で覚えてろよぉ。
真也は和也を睨みながら、原因を作った千春を見るが、これまた厄介な事に千春も何が気に入らないのか、怖い顔で真也を見ていた。
「シー君、昔から恥ずかしい事あると、耳の後ろ紅くする癖あるよね」
「知らんわそんな癖」
「まぁ見えないものねぇ・・・・で、ナニガあったの。そもそも私も泊まるはずだったのに」
「え、なに。ドユコト?」
さらに静寂に包まれクラス、そのクラスメイトの視線は、うぉぉ、ナニコレ、面白そうという期待に満ちた目に変わり、こちらを伺っている」
和也も、まさか千春が真也の自宅に転がり込んでいるなどとは思っていなかったのだろう、目を丸くし、何が起きてるのか詳しく、という感じで真也を見ていた。
これは、変にごまかして変な噂を立てられるより、素直に話してしまおう、そう思い、真也は話すことにした。
しばらく、クラス全員が誰一人口を開かず、真也の千春が自宅に転がり込んでから、友香が2人きりでは何かあるかもしれない、との事で泊まる事になった経緯までを、余計な誤解を生まない程度に短くして説明した。
「つまりアレか。計画性の無い幼馴染の尻拭いしてたら、思わぬラッキーが舞い込んできたと?」
「おまえ、話聞いてたか?」
「だってそうだろ。好きでって言ってくれた相手がお泊りだぞ。何もないわけないだろ」
「誓っていう何もない。それにこいつも居たし」
「私、昨日はお母さんに連行されたから、いなかったんだけど。あの後どうなったかを聞いてるの、私は!」
何もなかったという事にしたかった真也だったが、千春は昨晩何かあったのではないかと疑ってやまず、詰め寄るように効いてくる。
「佐藤さん、どうしてそう思うんだい? 事情を聴く限り、君が帰ったなら、三条さんが真也の家にいる理由がもうなかったようにも思うけど」
ナイス、和也、と親友をほめたたえる真也だったが、長い付き合いというのは厄介のもので、千春は首を横に振り。
「時刻も9時過ぎに、シー君が女の子を夜道一人歩かせて帰るとは思えないから、たぶん泊まってく流れになったと思う」
どうしてこう、幼馴染というのは肝心な時に余計な事をぺらぺらというんだと、内心で泣きそうになる。
「へぇ、平塚君やるねぇ」
「宮下、いつから居た」
「可愛い図書委員会の後輩ちゃんが、2年のいけない先輩の毒牙にかかったかもしれないともなれば、聞かないわけにいかないからねぇ」
「ワクワクして、目を輝かせながらさも心配してますという風を装ってくるなよ!」
真也は頭を抱えたい気分を押さえながら、いきなり現れた宮下 春野に苦言を申す。
「真也、諦めろ。もはや逃げ場はない」
「と、とりあえず泊めはした」
それを言った瞬間、女性陣から黄色い声があがる。
ヤバい、きゃぁ~、うわぁ、えそれってつまりぃ。
などなど様々な声が行きかい、まさにお祭り状態である。
女子というのは人の色恋が非常に好きらしく、こういった事案は特に彼女らの興味を引くのだ。
「それで、ナニガあったの?」
「チー、おまえ」
妙につかかる幼馴染を睨みつけるが、それ以上に睨んでくるので、もはやため息しか出ない。
「い、一緒にご飯食べた後、おまえのごたごたのせいで部屋が荒らされたんて、片付けをしてたら11時近くなっちまったんだよ」
「えっとぉ・・・そうだっけ?」
「ほう、なるほど。そういう態度取るんか・・・・・あ、もしもし春奈さん」
「ちょっ、ナニシテンノ!」
真也があまりに追及してくる幼馴染に、もう少しお灸でも据えてもらおうとスマホを出し、春奈に電話をかけ始めた。
まさかそんな事をし始めるなどとは思っていなかった千春は、慌ててスマホを奪おうとするが、真也にかわされ続ける。
「おたくら、仲いいな」
「ただの幼馴染みなのかしらねぇ・・・恋人みたい」
和也が呆れ、春野が疑いのまなざしを向けてくるのを、とりあえず無視しながら、2限目の先生が来たため、この騒動は一度お流れとなってくれた。
その後、休み時間のごとに追及を免れるため、逃げ回ったのは言うまでもない。
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