20
「あのぉ、お二人とも、何なんですかさっきから」
夕食の支度をしながら、友香が訝しげに、真也と千春に声をかける。
友香が自宅からの荷物を持って、真也宅に入ったとき、どうにもこの2人の様子がおかしく、最初は気にしないでいたが、流石に気持ちが悪くなり、友香が訝しげにそう聞いたのだった。
「それ、俺のせいじゃないと思うのは気のせいか?」
「いえ、たぶんそれはあってます」
友香はそう言って、先程からよそよそしく、非常に落ち着かない千春に視線を向ける。
千春はひゃい、と上擦った声で返事をし、挙動不審に視線を彷徨わせている。
はぁと、ため息をして、友香は料理に集中するため、視線を手元に戻した。
あれ、聞かないの? と言いたげに肩透かしを食らった千春だったが、藪蛇だと思い、大人しくしていようと決め、それ以上何もアクションを起こさない様に、平静さを保った。
程なくして、夕食が出来上がり、3人で食卓を囲む。
3人の前にはしっかりと茶碗が人数分、お皿も人数分アリ、昨日よりもしっかりとした食卓となっていた。
友香が気を利かせて、道中で100円均一のショップで一式を買ってきてくれたのだ。
食事を終え、お茶を出し、お茶に3人が手を付け、一息ついたところ、友香が口を開いた。
「先輩、明後日。デートしてください」
「うん・・・うん? ちょっと待て今何を言った?」
現在は週の半ば木曜日で、明後日と言えば土曜日の学生は一様休日である。
真也は言われ、最初は何でもない事の様に返事はしたが、いわれた意味を理解して、慌てて聞き返す。
「ちょっ、な、何言ってるの!」
それを聞いた千春は、机に両手を叩きつけ、慌てて叫ぶように言う。
しかし、友香はと言えば、冷静で、淡々とした口調で。
「恋人候補なので、遊びに誘ってみただけですけど。いけませんか?」
遊びに誘うこと自体は、誰にはばかる事もないだろうし、ましてやいけないなどという事は無いと、千春は思う一方で、心情として、ダメに決まってるでしょう、と心の中で叫んでいた。
「大丈夫ですよ。千春さんもデートするんですから」
「はぁ? いや待て、そもそも俺は・・・」
「デートして、先輩は自分の気持ちの在り方を。千春さんは、まぁどうでもいいですけど、どうするのか決めたらいいんじゃないですか?」
「わ、私は。デートなんてしない」
「そんな事言ってて良いんですか? ご両親が・・・・」
友香が微妙に挑発的な発言をし始めた時だ、何かがガチャッと解除されたような音がした次の瞬間、玄関のドアが壊れるのではないかというような勢いで、けたたましい音ともに開いた。
「来ちまったよ・・・2日早いわ・・・」
真也は誰の来訪なのかすぐに察したのか、片手を頭に置きながら、終わったというような表情をしており、友香は、何が何やら分からず、ビクッと体を震わせ、音のしたほうに支援を向けると、まさに鬼という表現がふさわしい人物が、はたからは特に無害そうに見える無表情で、スタスタとリビングへと向かってくるのが目についた。
え、ナニアレ、無表情なのに分かる、怒ってる、めっちゃ怒ってる。友香は内心で声に出さず言い知れぬ恐怖に襲われて居たら、グイッと制服の腕の部分を引っ張られ、体ごとはじに追いやられる。
何が起きたの変わらず、引っ張った人を見ると、そこには真也の困り果てた顔がそこにはあった。
「え、せ、先輩どういう事・・・」
「危ないから、俺ら隅っこに居ようか。あとものとか色々壊れるかもだけど、とりあえず終わるまで割って入らない事」
何の事を言ってるのかわからず、友香は千春に視線を向けると、恐怖の色と、反抗的な色をした目がそこにあり、もしかしてこれ、母親が来たって事と、状況を把握した瞬間、小柄な何かが、千春めがけて飛んできた。
どうやらドロップキックをかましたらしく、千春も何が来るか予想していたのか、ガード体制で応戦して、たいして体を打ち付けることなく、尻もちをつく程度で済んでいた。
「このバカ娘が!」
バチンと、ヒトの皮膚って叩かれるとこんな強烈な音が出るのかと、思うと、すかさず千春の後ろに回り込んだ春奈は、寝技をかけ始めた。
これなんだっけ、腕菱十地固めだっけ? などとこの根座座を現在進行形で書けている、春奈本人から教わったものではあるが、それを、そのロングスカートでやらないでいただきたい、見えてしまうと、一様目をそらしつつ、真也はため息をつくと、視線を外した先に千里さんを見つける。
「ああ、千里さんも来たんですか」
「3年ぶりだねぇ真也君、立派になって。元気にしてたかい?」
「ええ、千里さん。ご無沙汰しております。まぁぼちぼち元気ではあります」
「あ、あのっ。と、止めないと」
非常にまったりとした形であいさつを交わす、千里と真也に対して、状況についていけていない友香は慌てたようにそういうが、二人は同時に首を左右に振った。
「三条さん、アレには今関わらないのが身のためだよ。とばっちりが来る」
「そうだね。久しぶりに見たかなぁ春奈さんがこんなに怒るの。俺も怪我はしたくないし」
「いや、お二人とも、千春さんが怪我するかもしれないですよ」
大丈夫、それは無いから。と二人同時に言い放ち、視線を向ける。
その先には、さらに技をいくつもかけられ、そのたびに、ギブギブ! と泣き叫ぶ千春がいるが、怪我はしないように配慮でもしているのだろうか、色々と技をかけられてはいるが怪我をしている様子は見受けられない。
「あの人、一様俺たちの師匠で、こう、格闘系の免許皆伝みたいなことを昔してたみたいで。よくわかんないけど、とりあえず、めったな事じゃケガはしないと思うけど。本気出したら腕の1本ぐらいは秒で折られるから、まず怒る事もない様に本人もめったな事じゃ怒らないんだけどぉ」
「前に春奈さんが本気で怒ったのは。君たちが7歳の時だったか?」
千里が思い出すようにそういうと、一瞬にして真也の顔色真っ白になり、血の気が引いたのが見て取れ、友香は、え、そこまで?! と内心恐怖を覚えた。
「一様、ドアは壊れちゃったんで、電話してすぐ修理来るように行ってあるから。あと壊れたり故障したものは言ってね、俺が払うから」
「え、いや、まぁ。千里さんがそういうならそれで」
「ああ、それから、真也君のご両親にお電話入れたところ、壊してもいいけど、後処理はするように言われてるから、まぁそういう事で」
どういう事なのかと言いたくなる真也だったが、壊れたものは直すと言ってるし、どうやらあの両親があと放置したという事は、この件には一切かかわってくる気が無いという事なのだろう。
「ご両親から伝言も預かっているよ」
「聞かなくていいですか千里さん」
「そう言われても、後で聞いてないとなると、酷い事になるのは真也君だと思うよ」
「はぁ。伝言て何です」
「千春ちゃんさっさと寝とりなさい! との事だよ」
「との事だよじゃねぇよ、千里さん何言ってんのかわかってんですか!」
「あ、あれぇ。なんで俺怒られてるの?」
「アホかアンタは。自分の大切な娘寝とれという伝言を、素直に伝える親が居るか!」
ここにいるよ。と千里は真也ににっこり微笑む。
頭痛い、何この一家。
「あの、おじさんはソレで良いんですか?」
真剣な表情で、友香が千里に問いかける。
千里は、自然と友香に向き直り、その瞳を見つめたまま、先程とは打って変わった視線で友香を見るが、友香はただ、その答えを待っていた。
正直珍しいと真也は思っていた。
なんよかんよ言いながら、千里が他人との会話でここまで雰囲気が変わるところを見たことが無かったからだ。
「お嬢さん。俺はな、娘には幸せになってもらいたいと思ってる。その相手が真也君なら、特に何も言うつもりはない。それは、わたしから理由を言わなくても、君ならば彼の姿や本質をよく知ってるんじゃないかい?」
「・・・・そうですか。私から言う事は・・・先輩は譲れません」
「あははは、これはまた、千春。お前帰ってきたはいいがピンチなのか?」
友香の答えに非常に満足のできたと言わんばかりの、とてもいい笑顔で笑うと、その笑顔のまま、からかう様に娘にヤジを飛ばす。
「お、おとぉうさん、バカ言ってぇイタタタ」
そろそろ止めてやらんとヤバいな、と思ったのか、真也は慌てて二人の仲裁に入る。
その姿を千里は見つめながら、友香に問いかけた。
「彼とは付き合い長いのかい?」
「いえ、告白したのは2日前です。ですが、2年間ずっと彼の事を想い続けてました」
千里のほうを見ずに友香は力のある声色でそうつぶやく。
「そうかぁ。決めるのは私でも、娘でもない。真也君だ。どういう結果になろうと、私たちは見守るのが務めだから、全力でぶつかると良いよ。彼はそれだけする価値のある人間だから」
分かってる、という返答はいらないのだろうと友香は思い、ため息をつきつつ、今だ実の母親に絞られている千春を見ながら、なんでこんな人が恋敵なんだろうと、少し呆れつつも、しょうがないなぁという気持ちで、仲裁の仲間に入るのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます