第6話

「ちっ…真っ二つにするつもりでやったんだが…」

「……」

ヴァルヴァローニはレドから発せられる魔力を魔力感知で確認する。

『魔力は出ていない…死んだか。』

そう彼が自己完結した途端、大きな揺れが起こり、クレアと彼は同時にふらつく。

「まさか…クロロか?!あの野郎勝手に来やがって!ああいいや。あいつが死んだところでどうでもいい。」

「もう1体Stage5…?!これはまずい…いや…まずいとかで片付いていいレベルじゃない…。」

「はあ…命乞いは終わり?じゃ…もうそろ死んで。」

ヴァルヴァローニは自身の鱗を周囲に投げる。鱗が棘へと変化するその瞬間、クレアは不敵な笑みを浮かべた。

「シュタイン氏が君の鱗を渡してくれて助かったよ…私は素材さえあればなんでも出来るからね!」

クレアがそう言った瞬間、地面から5丁の魔装銃が生成され、弾が射出する。ヴァルヴァローニの棘をそれらは貫通し、弾の数発が彼の右腕を吹き飛ばした。

『っ…!そうか…!この人間の魔能力…発動までの隙が大きいんだ!だからさっきのもう1人の奴が時間を稼いで…』

「命乞いは終わり?じゃ…もうそろそろ死んで。」

クレアはヴァルヴァローニの言葉をオウム返しする。

「…っそ!人間風情が!」

ヴァルヴァローニは鱗全てを棘に変える。

「『最適な武器の生成』が私の魔能力だからねぇ。敵に最も相性の悪い武器を作ることも可能さ。」

銃から連射される弾に、その棘は全て砕かれる。

「君はどうやら…連射されると弱いみたいだね。これを繰り返せば簡単に砕ける!」

クレアが再び込めた弾を発射しようとした。が、ヴァルヴァローニがほくそ笑んで居るのを目で捉え、とっさに後ろに後ずさる。その瞬間、先程とは比べ物にならない量の鱗がクレアの目の前へと襲いかかる。

「まずい…!」

クレアは咄嗟に地面に向かって、自身の持っていた銃の弾を撃つ。地面にできた空洞にクレアが潜り込んだそのとほぼ同時に、大量の棘がクレアの目の前に襲い掛かる。その内の8本がクレアへと突き刺さり、クレアは身動きが取れなくなる。

「よーしOKOK…正常だ…。これで俺はまた粛清できた…。俺は今日もまた正しくいられる…。強くいられる…。」

ヴァルヴァローニは棘の中をすり抜け、クレアの元へと歩く。

「やあやあ!いやーちょっとだけ焦ったよちょっとだけ!でもさあ…Stage5に魔能力が備わってる事くらい知ってるよね?そんな事も知らないであんなに勝ち誇った顔して…ねえ?」

ヴァルヴァローニは大量に流血し、満身創痍なクレアを嘲笑する。

「それじゃ〜さよなら〜」

そう言って攻撃を加えようとした瞬間、クレアは勢いよく起き上がり、ヴァルヴァローニへと飛びかかる。その勢いで彼女の体に刺さった棘はさらに食い込み、加えて額に棘が数本突き刺さる。ヴァルヴァローニは一瞬たじろぐが、即座に攻撃を加えようと切り替える。が、クレアはヴァルヴァローニの顔面を強く殴り、それらを妨害する。ヴァルヴァロー二は即座に起き上がる。そこにいたのは、無傷の状態のクレアだった。

「まさか…回復魔法か!」

「私の本職は魔法医術師だからねえ。こういう方が向いている!」

ヴァルヴァローニは、彼女に武器を作らせまいと大量の棘を生成する。

「無駄だよ。君が何か隠してるのは知ってたからね。魔能力を発動する前にバックアップは出来ていた。」

クレアは地面から巨大な魔装銃を生成し、天井に引き金を引く。

「この際どこが壊れようと関係はない…!」

天井の瓦礫がヴァルヴァローニに落下する。同時に、クレアは身体中に棘を喰らい、そして瞬時に回復を行う。

「さあて…殴り合いだ!」

瓦礫によって目の前を塞がれたヴァルヴァローニの目の前にクレアが銃口を構えてそう言う。ヴァルヴァローニは棘を腹部に突き刺す。クレアは迷わず引き金を引き、彼の頭部を削り取る。そして、2発、3発と続けて射出される銃撃に、ヴァルヴァローニは思わず後ずさる。クレアは再生する彼を見てしばらく沈黙し、そしてこう言った。

「君の魔能力は…継続回復か。先ほどの数倍の速度で回復している。君の鱗が急激に増えたのも無尽蔵に生え変わったからか。シュタイン氏には感謝の一言だ…。君の鱗を貫けなければこのような闘い方も出来なかった。」

「この…!」

クレアは銃の引き金を引き、砲撃が銃口から射出される。が、砲撃が止んだ場所には、ヴァルヴァローニの姿は無かった。

「な…!どこに…」

クレアが目を見開いて動揺した瞬間、彼女の真横から、ヴァルヴァローニが壁を突き破って襲いかかってきた。

「ラアアアアアア!」

ヴァルヴァローニの右手の爪は、彼女の腹部を貫く。クレアは銃口を即座に彼に向ける。が、既に砲撃を撃てるだけの魔力は残って居なかった。ヴァルヴァローニが勝ちを確信した瞬間、彼女は左手に握ったヴァルヴァローニの棘を彼の左肩に突き刺さした。彼の左肩に空いた穴の奥に、立方体型の核が露出する。

「っ…!」

「やはりね…。君の再生は左肩が中心だった。知性魔族の大半は再生時に核から再生する。ましてや再生が能力なら答えは明白だ。」

「本当に…しぶとくて仕方がない…。まさかここまで粘られるとは思わなかったよ…。悪かったね…君を下に見て…。だけどさあ…魔力なしの殴り合いなら俺の方が早いよねえ?それに気付けない時点で…やはり愚かだ!」

ヴァルヴァローニは左肩を振り上げる。が、その瞬間、魔力の発射される音が彼の耳を捉え、そして彼の視界は上下反対へと回転する。その直後、彼の体から尋常ではない痛みがはしった。その直後、彼は自身の体が魔装銃の銃撃で分裂した事を理解した。

「……ふう…痛たいなあもう…。」

クレアは安堵の表情を浮かべ、残った魔力で自身の体を治癒した。

「あ…がああああ!」

ヴァルヴァローニは激しい痛みに悶絶する。痛い。痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い…!核を貫かれる痛みを体感したのは当然これが初めてだった。

「なんとか出来ましたね。」

死んだかに思われていたレドが立ち上がるのを見て、ヴァルヴァローニは混乱した。こいつが撃ったのか?死んだはずだ。

「なんで…なんで…生きてんだよお前!」

「………」

レドはしばらく沈黙した後、口を開いた。

「貴方の攻撃を見た瞬間…やるなら奇襲かなーって思ったんです。正面からやっても対抗できそうなのはクレアさんくらいですけど…あなたの鱗を使って対処した所で魔能力とか色々あるのでトドメを指すまでは行かないと思いまして。僕が直接戦っても魔力が低いので足手まといになってクレアさんが何もできず全滅するのは丸わかりですし、じゃあ僕が奇襲するしかないなと。でも下手に不審な動きをしてあなたの魔力感知を遮断したら『あ、これは奇襲だな』ってバレるので…一回攻撃を受けてから流れる魔力を止めれば死んだと思って警戒を解くと思ったんです。戦闘中にわざわざ死んでるか直接確認なんてしませんし。」

「どうやって…どうやって俺の攻撃を…」

「え?ああ…魔法防壁ですよ。さっきのStage4との戦いでとって置いたんです。攻撃を受ける瞬間に展開するようにタイミングを合わせれば魔力感知でも気付きにくいですし。」

「クソ…魔装銃を隠していたのか…それに気付けないなんて…」

「え?いやいや、あなたの攻撃をワイヤーで交わした時に壁に設置してた魔装銃を使っただけですよ。あのワイヤーは数本の物を壁に繋げてるだけなので、貴方がワイヤーを切れば必然的にワイヤーで括りつけてた銃を倒れてる状態でも引き寄せられる。貴方は予想外に抵抗するクレアさんに気を取られてますし取るのはそこまで難しくはないです。」

「そうか…攻撃を交わした時わざわざ何発か撃ったのは攻撃が通じる事への意識を少しでも遠ざけるため…。奇襲に使ったのは等射型じゃなくて依存型だったと気付けば…もしかしてあの一瞬で君はそこまで考えたのかい?」

「ええ…まあ…」

レドはクレアの質問に無表情で解答する。

「少々複雑で私も少し頭がパンクしてるよ。君は国公試験に落ちるべき人間じゃなかったと私は思うんだが…まあ仕方あるまい。何もかも決まってしまったことだ。何もかもね…。」

含みのあるクレアの言葉を、レドは何も返さずに無視した。

「嫌だ…嫌だ…死にたくない…死にたくない…死にたくない…俺は違う…知性魔族だ…そうだ…無知性程度とは違う…まだ必要なんだよ俺と言う存在が…!」

体が消滅し始めたのを感じ、ヴァルヴァローニは辺りをつんざくように叫ぶ。

「貴方……コンプレックスの塊なんですね。」

「…え?」

レドの言葉にヴァルヴァローニは動揺する。

「さっきから俺が粛清するだの俺は正しくいられるだの俺は俺はって…自分がする事しか考えて無いじゃないですか。自分の事しか考えてない時点で貴方は自分にコンプレックスしか感じてないんだと思いますよ。何故なら本当に自己肯定感があるならば周りを考えられるから。ほら、自己肯定感は自分に余裕を持たせるから周りに自然と目が行くでしょ?でも貴方は自分の事だけだ。他にStage5が居るような発言をした時『死んだところでどうでもいい』なんて言ってた所が何よりの証拠ですよ。……何にコンプレックスを抱いているか…」

「やめろ…」

「それは…」

「やめろ!」

「貴方が知性魔族の中じゃ…相当弱いからなんじゃないですか?だって実際僕らに負けてる。2人とはいえケイン先輩よりずっと弱い僕らに。きっと…自分より弱い存在の人間を相手にして悦に浸るためにここに来たんですよね?……貴方は僕に似ている。1人よがりな様に振る舞って置いて実際は中身のないただのハリボテ、無機物、加工品…貴方のお仲間は貴方の死を嘆くんでしょうかね…。いや、嘆かない。だって貴方には何もないんだから。僕に何も無いように。」

「……!」

ヴァルヴァローニは自身の本質を見抜かれ、唇を噛んで絶句した。

「取り敢えず終わります。さようなら。」

「待て!シュタイン氏!彼から何か情報を…」

レドは殆ど間を与えず、即座にヴァルヴァローニの額に銃口を構え、間髪入れずに引き金を引いた。

「あ…すいません…早とちりしました。」

「君は頭がキレるんだか悪いんだか分からないよ…。君を治療したら……少し周りを見てくるよ。」

クレアは静かにそう言うと、表情を変えぬまま、レドの体を治療し始めた。

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